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飲食店開業の際に知っておきたい、野菜の仕入れポイント

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大切な情報は人とのコミュニケーションからしか入ってこない

産地、作り手など、食材に対しての意識が年々高まる中、市場に流れていない珍しい野菜が一足はやく重宝されるのが飲食店とも言えます。そんなお店の方々の期待に応えるべく、全国の生産者とコミュニケーションしつつ、野菜の栽培依頼などまでおこなっているのが、株式会社マチルダの田川浩子さん。「今ではスーパーに並ぶようになった、ケールやパクチーなども浸透するきっかけとなったのは、まさに飲食店です」という言葉通り、まずはシェフたちが注目しメニューに取り入れることで、販路は拡大していきます。
 
今回は、野菜のスペシャリストから、野菜の仕入れについて、八百屋さんとの付き合い方について話を伺いました。これから独立開業をする方だけでなく、すでに営業されている方にとっても、ヒントになるメッセージです。聞き手は、編集責任者の川瀬亮太(ルーテージ株式会社)。
 
―本日はよろしくお願いいたします。本社が大田市場の中なんですね。
田川さん:そうなんです。ここ太田市場に全国の生産者さんから野菜が届きます。そして自社で個別にピッキングをして、各飲食店様へ自社便にてお届けしています。大田市場には、取引できる業者が2000社も入っているんですよ。買い付けをできるための番号を与えられています。
 
―まずは、一般的な野菜の流通の仕組みを教えてもらうことってできますか?
田川さん:もちろんです。一般流通のベースは、農家さんが農協に野菜を卸し、農協から市場に納品されます。この方法は、誰が作ったかとかは関係なく、そのエリアの生産野菜となります。いわゆるスーパーで販売されている、「高知県産トマト」、「愛知県産キャベツ」のようなスタイルになりますね。農協の仕組みは、農家さんにはありがたいと思います。作ったものを市場に運んでもらい販売ルートにのっけてもらうので。でも、自分で値段も決められないし、最後どこに届くのかもわからないで作っているのが現状です。
 
―なるほどですね。では、野菜の価格というのは、いつ、どこで決まるものなのでしょうか。
田川さん:当日の朝決まるんですね。全国から野菜が届いて、物量が見える化してから、需要と共有のバランスで決まっていきます。いわゆる、市場の中の「荷受け」は、一旦全部あずからなければいけないんです。
 
届いた野菜を返却とか受取拒否はできません。で、ふたを開けたら、すごい人参の量が来たけれど、そんなに需要がないぞとなると、価格は下がり、最後にはたたき売り的になってしまうんですね。で、何が苦しいかというと、出荷したタイミングでは農家さんは野菜にいくらで値が付くかがわかっておらず月末の振込金額をみて、「え??こんな値段だったの?」ということが起きるんです。そんなことから、梱包して納品するのを辞めて、畑に埋めようとか捨てようという手段になっていくんです。
 

 
―それは悲しいですね。マチルダさんのビジネスはそのスタンスとは少し異なるってことですよね。
田川さん:もちろん、農協さんとのお付き合いもあります。でも、生産者と直接契約を交わし、納品先を決め、契約を交わしていく、いわゆる「市場外流通」という仕組みでビジネスをしています。でも、この「市場外流通」はどんな生産者さんでもできるかというとなかなかむつかしいところもあるんですね。こだわりのある生産者の方は、自分の名前をだして販売していきたいと思ったとしても、農協さんからみたら、「あ、直接やるんですね」という目で見られるようになってしまう、リスクも生まれます。住んでいる地域とのコミュニティも大切にしつつ、自分の個性も出していくというのはかなりのバランス感覚が重要になるんです。しかし、私たちがお付き合いをしている生産者の方の中には、圧倒的な生産量、販売量をもち、「市場外流通」のみでルートを確保している方もいらっしゃいます。
 

 
―野菜の価格は変動するものとして考えたとして、メニューの金額は決めないといけないですよね。
田川さん:そうなんです。だからこそ、私たちのような八百屋の情報は大切になってくるんです。野菜の状況がわかっているので、今年は葉物の値段があがるけど、根菜は下がるとか読みができますよね。その情報をお店の方々に共有できるのが私たちなんです。そうするとバランスをとってメニュー作りができ、価格への落とし込みもあまりふり幅なくできると思うんですね。
 
―たしかに、そういった情報はとても重要ですね。これからオープンするお店の方が仕入れる際の注意点などはありますか。始めから売掛は難しいと思うんですが。
田川さん:そうですね、信用ができるまでは売掛はまちますね、業者としても。オープン時はまずは自分の目で野菜を選んだ方がいいと思います。ネットでなんでも探せて届いてしまう時代ですが、近くの八百屋さんに足を運んで、仲良くなって言葉を交わすことって大切だと思います。八百屋さんで買うことで街の住人としてコミュニケーションをすることで、情報がもらえることも多いでしょうし。その後、配達などをお願いするとしても、できれば「置き配」よりは、配達スタッフとすこしでも会話を交わすほうがおすすめです。やっぱり人と人じゃないですか?人として付き合いのあるお店にはやっぱり愛着がわきますし、よい情報を共有しようと思いますよね。飲食店はお客様と接するサービス業、やはりそこの部分は大きいと思います。
 

マチルダ野菜の強みはトレサビリティ

 
―では、マチルダさんとよいお付き合いができている飲食店はどんなお店ですか?
田川さん:まず、納品した野菜を評価してくれる飲食店さんですね。生産者さんが完璧にわかっているという部分もあり、褒められたらきちんとその声を届けられますし、やりがいに繋がります。逆に、クレームの時だけ、電話してくるお店さんには少しがっかりします。確かにこちらの落ち度もあったかもしれない、でも、多数入れた中の一つに「虫がついていた」という部分だけを強調して怒られると、こちらもモチベーションが下がります。
 
ただ、私たちは市場で買わないからこそ、トレサビリティでどこの生産者の野菜かわかるので、「虫がでた」となったときに、「どこの生産者」か突き止め、畑がどうなっているかなどのチェックまで行えますし、原因がわかるまで一旦別の生産者へ切り替えようと判断できるんです。そこまでやることで信頼してもらえ、10年以上のお客様もたくさんいるのはありがたいです。実際には、私たちも飲食店を利用する顧客でもありますよね、野菜を褒めてくれる飲食店には喜んで食べに行きます。あとは、いくつもの仕入れ業者を使っているお店はあまり印象がよくないかもです。信頼されている感覚がこちらに伝わると、なんかあった時にも全力で助けようという想いになりますが、キープされているなと思うとこちらも同じような気分になってしまいます。本命だと「あのシェフはこういう野菜が好きだな」とか「少しでも価格が良心的なものを探せないかな」とか必死になりますから。恋愛と一緒ですかね(笑)
 
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―それは本当にそうですね、様々な角度からのコミュニケーションで信頼関係が生まれますし。
田川さん:それでいうと、お店のスタッフが生産者の畑に訪問すると野菜に対する付き合い方が変わりますよ。私はできれば、リーダーのみならず、下のスタッフの子たちにも体験をさせてあげてほしいと思っています。一緒に収穫したり、生産過程の大変な話を聞いたりすると、絶対に野菜を無駄にしないようになるんです。そうすると、結果的に利益にもつながりますし、お客様への会話の広がりも生まれて、売り上げにも反映していきます。
 
―最後にマチルダ野菜の強みを教えてください。
田川さん:珍しい野菜を栽培している生産者の方との連携が多いということも一つですね。例えば、シェフから「こんな野菜を国産で栽培できない?」なんて声をもらうと、種屋さんと生産者の方と共同でチャレンジをしてみたりしています。あと野菜栽培は、本当に天候に左右されるものです。マチルダは日々、全国の生産者と電話やLINEで状況を確認していますし、畑にも常に足を運んでいます。そういう活動があるからこそ、飲食店さんからの急なお願いにも臨機応変に対応ができたりしています。生産者に方にも気持ちよく野菜栽培をしてもらいたいですし、飲食店の方にもマチルダと付き合うことで、新しい野菜と出会うことができれば幸せですよね。
 
―なるほど、すごい参考になりました。本日はありがとうございました!
 
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田川浩子 マチルダ株式会社 代表取締役
2007年創業、レストランを中心に小回りの利く野菜卸し業を営む。全国の生産者へ直接足を運び、野菜生産のディレクションも行う。
株式会社マチルダ 公式サイト
 

 

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