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一つ星レストラン鳥羽氏が同郷プロデュース「パーラーオオハシ」

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第三十一弾
地域密着「ロット」の挑戦 後編

 
これまで居酒屋店舗が大半を占めていたロットでは昨年のコロナ禍でパンの販売店を経験したことから、昼型営業の意義を感じ取り、そして、具体的にこのような店舗づくりのチャンスが訪れた。
 
さて、「町の洋食 パーラーオオハシ」(以下、パーラーオオハシ)の店舗コンセプトからメニュー開発を担当したのは東京・代々木上原の一つ星フレンチレストラン「sio」のオーナーシェフ、鳥羽周作氏である。なぜ、東京・代々木上原の一つ星フレンチレストランのオーナーシェフが、埼玉・北戸田の飲食店をプロデュースすることになったのか。
 
それは、鳥羽氏は同店のある埼玉県戸田市の出身で、ロットの前代表で現在アロットクリエイト代表の田子英城氏と小学校、中学校時代の同級生であったこと。二人はそれぞれ飲食の道に進み、幼なじみとして交流を重ねていた。田子氏はかねてより鳥羽氏に業態づくりのアイデアを仰いでいた。その後、ロットの代表は田子氏から現在の山﨑将志氏に引き継がれ、山﨑氏は鳥羽氏と交流するようになった。鳥羽氏は常日頃「戸田の町を飲食でイカシタ町にしたい」と話していた。
 
「パーラーオオハシ」の店内も昭和レトロで統一。BGMは昭和の歌謡曲やジャパニーズポップス。【「パーラーオオハシ」の店内も昭和レトロで統一。BGMは昭和の歌謡曲やジャパニーズポップス。】
 
鳥羽氏は一つ星フレンチの一方で、大衆業態の出店を手掛けている。それが2019年12月東急プラザ渋谷の6階にオープンした「パーラー大箸」である。同店は、ハンバーグ、エビフライ、ナポリタンといった洋食や、プリン、クリームソーダといった昭和レトロのメニューをラインアップしている。大衆的な店であるがクオリティが高いことで評判の店となった。
 

高齢者、中高年、若者も来店する店

ロットではコロナ禍によって、不採算店舗の撤退や業態転換が迫られていた。そこで同社ではパンの販売店で見られた顧客の動向を踏まえながら、昼型で食事を中心とした業態をつくることを画策するようになった。
 
このような状況の中の山崎氏のもとに鳥羽氏から連絡が入った。
 
「そろそろ何かやりませんか?」
 
山﨑氏は不振店の一つの北戸田駅近くのワインバルをリニューアルすることに決めて、鳥羽氏のプランに委ねることにした。
 
鳥羽氏は「パーラー大箸」のアイデアをここにも生かそうと考えた。「パーラー」の語源は「人を迎え入れる」「談話室」というもの、それが昭和の時代に軽食堂をおしゃれな雰囲気で伝わるように用いられた。
 
山﨑氏は鳥羽氏に「大箸」の意味を訪ねたところ、「箸でも食べることが出来る店」という。高齢者、中高年に加えて若者も来店することを意識して「大」を付けたという。「この感覚は良いな」と山崎氏直感し、「それによって地域から愛される店をつくりたい」と考えた。そしてリニューアルオープンする店の名前は本家の「大箸」の音を生かして「オオハシ」とした。
 
フルーツサンドやプリン、チーズケーキといった持ち帰りの商品も同店の中でつくっている。【フルーツサンドやプリン、チーズケーキといった持ち帰りの商品も同店の中でつくっている。】
 

一つ星レストランから3週間の研修を受ける

山﨑氏と鳥羽氏の間で旧店舗をリニューアルするという話は今年の5月にはじまり、6月には店舗の改装や開業に向けた準備を行った。新店に必要な調理技術を習得するために新店の調理担当の社員が「パーラー大箸」で現場研修を受けた。さらに、オープン1週間前から鳥羽氏サイドのシェフ二人を北戸田の店舗に派遣してもらい、調理調整、クオリティチェックなどの開業準備に携わってもらった。そして、オープンしてから3日間、現場に入って監修をしてもらった。このように鳥羽氏サイドから計3週間の現場研修を受けた。
 
また、新店舗の従業員は、前店舗の従業員の全員と面談して、意思を確認した上で新店舗の従業員として継続して勤務してもらった。また、営業を開始してから不足している部分を勘案して新規に従業員を採用した。
 
こうしてロットの新店「パーラーオオハシ」は7月9日に先行オープンし、「フルーツサンド」ミックス600円、イチゴ650円、「プリン」500円、「チーズケーキ」3000円を販売。7月21日にグランドオープンした。
 
人気定番商品の「町の煮込みハンバーグ」1300円(税込)。ほかにも昭和の外食をイメージさせるメニューで構成。【人気定番商品の「町の煮込みハンバーグ」1300円(税込)。ほかにも昭和の外食をイメージさせるメニューで構成。】
 
ちなみに前店舗のワインバルは住宅街にある飲食店としては多少エッジが効いた店舗であった。これは客層をセグメントするもので、セグメントされた客層にとって不利な条件が出てくると来店することが難しくなってくる。
 
「当社は地域社会に根差した会社です。これからは店数を増やすことを重視するのではなく、顧客を広げていくことが重要だと考えています」(山崎氏)
 
このように「パーラーオオハシ」は、「飲食で町を元気にしよう」と志を持った人たちの情熱によって生み出された店舗なのである。現状の売上は前店舗の今年年初の状況の2倍程度になっているという。地域密着でドミナント展開によって育まれてきた飲食業にとって、これからの方向性を示唆する事例である。
 
「これからは店数ではなく客層を広げる時代」と語るロット代表取締役社長の山﨑将志氏。【「これからは店数ではなく客層を広げる時代」と語るロット代表取締役社長の山﨑将志氏。】
 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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