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フードサービス・ジャーナリスト 千葉哲幸 連載第三十一弾 店数ではなく顧客層を広げる時代 前編

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埼京線・北戸田駅より徒歩2分の場所に「町の洋食 パーラーオオハシ」(以下、パーラーオオハシ)という店がある。この店は外観からして「昭和レトロ」である。
 
店の中も昭和レトロである。色調がダークブラウンで統一され、椅子やテーブルが若干低めで落ち着きがある。メニューは「ハンバーグ」1300円(税込、以下同)、「エビフライ」1800円、「ナポリタン」800円と昭和の外食のご馳走である。BGMは昭和の歌謡曲。この一貫して昭和レトロの同店は、昼は中高年の女性、ティータイムは女子高生や若いカップル、ディナー帯はお一人様やファミリーという具合に、さまざまな客層で全時間帯に顧客が存在している。
 

地域密着でドミナント展開する会社

同店を経営しているのは株式会社ロット(本社/埼玉県戸田市、代表/山﨑将志)。同社は田子英城氏という人物が他の二人と計3人で「飲食で町を元気にしよう」と埼京線・戸田公園駅の近くにカフェを立ち上げたことがはじまりである。これは2001年のことで、3人は当時20代前半であった。
 
その後は1号店から遠隔地に出店したこともあったが、店舗展開は埼玉県南部エリアでドミナント出店する方針に定まり、埼京線の戸田公園駅から武蔵浦和駅、武蔵浦和駅を基点として武蔵野線の東川口駅から新座駅というT字型の沿線上で店舗を展開してきた。2016年のピーク時には31店舗を擁していたが、その後社員独立の店舗に充てたり、不採算店舗を閉店するなどして現在は21店舗となっている。このようにロットは「地域密着」で経営していることが大きなポイントだ。
 
埼京線・北戸田駅から徒歩2分の場所に7月21日オープンした「パーラーオオハシ」。縦縞のデザインが懐かしくも新しい感覚をもたらす。
【埼京線・北戸田駅から徒歩2分の場所に7月21日オープンした「パーラーオオハシ」。縦縞のデザインが懐かしくも新しい感覚をもたらす。】
 
同社の業態は、主として居酒屋である。顧客を自分たちと同じ若い世代と想定すると、居酒屋であれば顧客と共に楽しみながら仕事ができると思うからではないか。また、専門的な料理を扱わないことから営業も比較的容易であることが「居酒屋」を選択していくのであろう。
 
その後、ロットはホールディングス体制となり、アロットクリエイト株式会社(本社/埼玉県戸田市)の事業会社となった。ロットの創業者である田子氏はアロットクリエイトの代表となった。同社は若い起業家たちの営業支援などを行っている。
 
この度のコロナ禍は居酒屋を直撃した。営業は夜8時まで、アルコール提供の自粛ということで、居酒屋営業そのものが出来なくなった。
 
そこでアロットクリエイトではJR戸田公園駅西口のロットの店舗「RISA!RISA!」(リサリサ)の1階スペースを活用し、昨年4月30日より臨時でパンの販売店を開始した。これは、埼玉県本庄市に本店を構える「Bakerys Kitchen ohana」(オハナ)をパートナーとして迎え、同社のパンを販売する「ohana×RISA!RISA!」という店名とした。店内には調理機能はなくパンの販売機能に徹した。
 
店頭に陳列された食品サンプルの唱和のイメージそのまま。
【店頭に陳列された食品サンプルの唱和のイメージそのまま。】
 

これまでの客層ではない顧客が来店

「リサリサ」の1階スペースは17坪で、営業自粛をする以前は客単価3000円のワイン&ピッツァ業態であった。戸田公園駅前のロータリーに面していて注視効果の高い場所にあり、ベーカリーショップに切り替えてから地元の人々からの大きな反響を得た。
 
パンの供給は、本店から1日に1便、草加のオハナ店舗から2便の計3便で50種類のパンをラインアップ。営業時間は11時~18時で、開店前からウエーティングができるようになり、1日300~400人が訪れて、開店から5日間のデータでは連日40万円を売り上げた。
 
そして、これらにはワイン&ピッツァ業態当時には見られない現象があった、それはここで述べた繁盛ぶりに加えて、「ベビーカーを引いた女性客」や「中高年の女性客」などの新規の顧客が存在していた。夜型ではなく日中に食事中心の商売をする意義を十二分に感じ取った。
 
筆者はこの時、田子氏に取材をした。田子氏はこのように述べた。
「パンの販売を行って認識したことは、リサリサが地元の人に愛されてきたことに感謝して地域社会に貢献しなければならないということ。さらに、この試みがロットのスタッフの働く場として、またロットが新しい業態のノウハウを得る機会として、大きな役割を果たしているということです」
 
昨年のコロナ禍で埼京線・戸田公園駅前の店舗の1階でパンの販売を行ったところ、それまでのロットの客層にはない顧客が訪れるようになった(昨年5月撮影)。
【昨年のコロナ禍で埼京線・戸田公園駅前の店舗の1階でパンの販売を行ったところ、それまでのロットの客層にはない顧客が訪れるようになった(昨年5月撮影)。】
 
そして、田子氏は「コロナ禍における業態づくりのオーガナイザーとしてかかわることができた」と語り、アフター・コロナに際しては、ロットの新事業として受け継がれていくことの可能性も示唆していた。事実、パンの販売は現在2店舗を構えるようになり、同社の事業領域と顧客層は広がった。
 
ここで述べたことは去年の4月5月のことだが、コロナ禍は今年にも及び、夜型営業を主として来たロットのとって大きな変革の判断が迫られるようになった。
 
パンの販売を行った店舗のスペースは現在パンの販売店として稼働している(昨年5月撮影)。
【パンの販売を行った店舗のスペースは現在パンの販売店として稼働している(昨年5月撮影)。】
 
(後編)に続きます。

 
千葉哲幸(ちば てつゆき)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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