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フードサービス・ジャーナリスト 千葉哲幸 連載第四弾 焼肉業界のトップリーダー(前編)

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70年の歴史の中で著しい変化を遂げている

フードサービス業界ではそれぞれ著しい変化を遂げて今日に至っている。ここではまず、焼肉店の動向についてまとめて、焼肉業界の展望について述べたい。

日本における焼肉店の発祥は戦後で、意外にも歴史は70年ほどしかない。草創期は在日朝鮮人によるホルモン焼き店が広まり、後に名店として注目される東京の「明月館」、大阪の「食道園」が1946年に誕生。その他多くの名店がほとんどは在日朝鮮人らによって創業され次々と登場した。1980年代に伝説の繁盛店として頭角を現し、今日高級店のブランドとなっている「叙々苑」の創業者新井泰道氏は「明月館」の出身という。

焼肉の市場を大きく広げる役割を果たしたのは1968年にエバラ食品から発売された「焼肉のたれ」である。これを肉に揉み込めば家庭でも焼肉店の味を楽しめるという商品で、家庭でも焼肉が一気に浸透した。また、この商品は揉み込みをしないで肉をたれに付けて食べるということも提案して、焼肉の多様な食べ方を知らしめた。

1979年、厨房機器メーカーのシンポが「無煙ロースター」を開発。焼肉店とは煙が店内に充満しているところでスーツ姿のサラリーマンや女性からは敬遠されがちだったが、この問題を解決した。また、店内に煙がなくなることで内装の色彩がダークなものから白系のものを採用できるようなり、焼肉店のデザイン性は一気に向上した。

1991年、牛肉の輸入自由化により牛肉の価格が低下し、より親しみやすい商材となった。この頃から「牛角」をはじめとするリーズナブルな焼肉店が増えるようになった。

牛角の看板

1990年代後半にはノンフードの業界(例えば、ホームセンターなど食を扱わない業界)が焼肉店のコックレス(料理人が不在)の部分に着眼し、ベンチャー・リンクに象徴されるFC代行を推進する会社も現れ空前の焼肉店ブームとなった。この仕組みによって「牛角」はわずか6~7年で800店に成長した。

 

日本とアメリカで発生したBSE騒動が直撃する

しかしながら、このような好景気は一転する。焼肉業界はBSE騒動を2001年9月(日本発)と2003年12月(アメリカ発)と2回経験しており、大きなダメージを受けた。

これらを簡単に総括すると、日本のBSEは風評被害を払拭することでBSE騒動前と同じ状態に戻ることができた。しかしながらアメリカのBSEは日本のフードサービス業で使用されている牛肉の3分の1がアメリカ産ということで、それが入手することができなくなったことから代替品で営業するようになった。「地鶏料理」「豚しゃぶ」「ジンギスカン」がこの象徴的な存在だ。

その一方で、輸入牛との差別化を図るために「黒毛和牛」という高品質の国産の牛をアピールするようになった。「松阪牛」や「前沢牛」といった銘柄も注目されるようになり、消費者の意識も向上。それまで焼肉屋のメニューは「カルビ」「ロース」というものが一般的であったが、部位別のさまざまな牛肉表記が施されるようになった(この部分を後に詳しく述べる)。

今日の焼肉業界は、これらの危機を乗り越えて見事に復調した。2013年2月よりアメリカ産牛肉は月齢30カ月以下に緩和されたが、それ以来焼肉業界全体の業績は伸び続けている。それに伴って、さまざまな多様性を見せるようになった。

 

客単価ごとに業態が分類され専門性をアピール

私ごとであるが、新規オープンのレセプションにお邪魔する機会がある中で、1週間に1回程度焼肉店からお誘いをいただいている。これは今日焼肉店業界が勢いづいている証と言ってよい。傾向として語れることは、客単価、ターゲット共にコンセプトがしっかりとしているということだ。

焼肉ライクの無煙ロースターを用いた明るい内装

近年の焼肉店の客単価をみると、4500~5000円、6000~7000円、8000~1万円というカテゴリーに分けることができる。さらに、“一人焼肉”で客単価1400円の「焼肉ライク」が急ピッチで展開するようになった。4500~5000円の業態は「手頃な価格」というゾーンの中で直球のクオリティでのぞんでいる。そこから上の客単価も肉のクオリティや提供方法にその客単価を納得させるものがある。

焼肉ライクのオープン時に破格プロモーション戦略

近年、焼肉店では赤身肉をロース、カルビという呼称ではなく、部位別の呼称を商品名としているところが増えてきた。例えば、「モモ」をさらに細かく「マクラ」「マルシン」「イチボ」、「友バラ」を「カイノミ」「カッパ」「インサイド」という具合である。

このように焼肉店で牛肉の部位別の名称を豊富にした先駆けの店が「やきにく萬野本店」(大阪市天王寺区)である。同店は1999年6月にオープンして以来業容を拡大しているが、同店を擁する株式会社萬野屋(本社/大阪市天王寺区、代表取締役/萬野和成)は今どのようなことを行なっているのかを、後編で詳しく述べよう。

 

(後編)に続きます。

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴36年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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