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1年ちょっとで150店舗を超えた「鰻の成瀬」はこんな仕組みになっている

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第六十二弾

 
「急ピッチで店が増えているうなぎ屋さんがある」と聞いた。店名は「鰻の成瀬」。1号店を横浜にオープンしたのが2022年9月で、FC展開を始めたのはその約半年後、この4月末で150店舗を超えているという。
 
その1号店は、横浜駅の隣、相鉄線平沼橋駅から徒歩で7~8分の距離のところにあった。マンション(タワマンではない)が立ち並んだ住宅街である。同店のまわりには商店がほとんどなく、飲食店を営むにはちょっと厳しい立地ではないかと思った。
 
店はマンションの1階にある。オープンは11時。筆者は11時15分ごろに入店したところ、15席ほどの小さな店内には、1人客が1つ、2人客が2組いた。なかなかの繁盛店ではないか。フードのメニューは「うな重」の「松」2600円(税込、以下同)、「竹」2200円、「梅」1600円の3つのみ。ドリンクは瓶ビール、冷酒、ノンアルコールビールのみ。メニュー表示は実にシンプルである。
 
2022年9月にオープンした横浜本店。駅から7~8分の距離にあるが、周りは住宅街で「気軽に行けるうなぎ屋さん」の存在感がある【2022年9月にオープンした横浜本店。駅から7~8分の距離にあるが、周りは住宅街で「気軽に行けるうなぎ屋さん」の存在感がある】
 
一方、商品に対するこだわりの表示は丁寧に行っている。特にこの部分に注目した。
「リーズナブルな価格でのご提供を実現するため、メニューの絞り込みや営業時間の短縮、現金のみでのお会計等、至らない点も多々ございますが、ご理解ご協力のほどをお願い申し上げます。」
 
つまり「リーズナブルな価格を実現するために、メニューを絞り込み、コストを抑えている」ということを読み取ることができる。
 

FCの仕組みを熟知した人物が手掛ける

筆者は「鰻の成瀬」を展開しているフランチャイズビジネスインキュベーション株式会社の代表、山本昌弘氏(40歳)に、4月上旬取材をすることが出来た。山本氏は、清掃業の店舗をFC展開している会社の本部に10年間勤務していた。ここではスーパーバイザーや、加盟店開発、新たなフランチャイズパッケージを考えたり、法務に関わったり「FCの入口から出口までありとあらゆることを経験した」(山本氏)という。そこで、FCの本部を後方支援するコンサルティングを行おうと2020年9月にいまの会社を立ち上げ、この分野の事業を行っていた。「鰻の成瀬」を始めることになったのは、うなぎ屋さんの運営を職人に頼らないオペレーションでできる仕組みを構築していた会社の社長と知り合ったことがきっかけであった。
 
そこは中国をはじめとした海外の養鰻業者とつながっていて、現地で一次加工したものを日本に送り、店舗ではそれを仕入れて、職人ではなく機械が調理するというオペレーションができていた。「鰻の成瀬」はその仕組みを活用した形とのこと。店名の『成瀬』とは、同社の担当者の名前である。
 
これが「お品書き」。フードはこの3品だけと実にシンブルだ【これが「お品書き」。フードはこの3品だけと実にシンブルだ】
 
1号店は、山本氏の知人が経営していた居酒屋で、コロナで経営不振になって、それを従業員ごと引き継いだ形でオープンした。ここから「うなぎ屋さんを始めた」ことをSNSで発信して、それに興味を抱いた人が集まってきた。ここからFC展開につながっていった。
 
ちなみに、この店の年商は5000万円程度。「鰻の成瀬」の全体では真ん中くらいの位置にあるという。売上が高いところでは千葉店の「年商1億円超え」という例もある。店の家賃や規模などで異なるが、損益分岐点は200万から250万円あたり。
 
直営店は現在9店舗。これからのFC展開の可能性を見据えて出店している。昨年10月に直営で六本木店を出店したが、これは家賃の高い立地で営業してその動向を検証しようと考えたから。そして、外国人のインフルエンサーに協力を仰いで、インバウンドの取り込みを行っている。現在、お客の9割以上が外国人となっている。京都の嵐山店もこのような状況にあるという。
 
これが「竹」2200円。うなぎが2枚のっている【これが「竹」2200円。うなぎが2枚のっている】
 

老若男女が大好きで目的来店になる店

「うなぎ屋さんの魅力とはどのようなものか」と尋ねた。すると山本氏はこのように語った。
「まず、ランチタイムに2000円の単価が取れる。うなぎは日本人の老若男女が大好きな食べ物であるから、目的を持ってうなぎ屋さんに行く。そこで価格が業界の水準より安いということであれば、食べにいきたいと気軽に考える。そこで、店は一等立地にある必要はない。店は居抜きで十分にやっていける」
 
「こだわりの文言」を掲載した書面を用意している狙いについて、このように語った。
「お店のことをお客様から質問されたら、そのことを書いてあるチラシをお客様に渡して読んでいただくようにしている。これによって、従業員が質問に答えたときの印象にブレがないようにしている」
 
「店の中がきれいで、メニューがたくさんあって、接客もちゃんと整っているうなぎ屋さんを望むのであれば5000円、6000円のうなぎ屋さんに行けばいいこと」
このように、あらゆることを割り切っている。
 
店のうなぎの仕入れについては、一次加工を終えているうなぎが店に届く。店ではそれを仕込み作業として蒸しておいて、注文が入ったら仕込んであったうなぎを焼いて提供する。
 
厨房の機械は厨房メーカーの新品を使用。煙が出ない仕組みになっている。一般的なうなぎ屋さんは「重飲食」であるが、煙の出ない「鰻の成瀬」は「軽飲食」で通る場合もある。こうして、カフェの居抜きでも出店することができる。
 
店のこだわりをまとめた書面。これをお客に渡すことで、従業員からの説明にブレが無いようにしている【店のこだわりをまとめた書面。これをお客に渡すことで、従業員からの説明にブレが無いようにしている】
 
うなぎの仕入れ体制は、これから店数が増えても大丈夫であるように仕入れ先を分散化してリスクを回避しつつ、今年の夏の需要期を見据えて調達を行っている。
 

「他責加盟店」が発生しない仕組み

「鰻の成瀬」のほとんどの店では、営業時間が11時から14時、17時から20時とランチ、ディナーともに3時間ずつになっている。これはなぜだろうか。
「ランチの営業時間を11時から14時にしているのは、子育て世代の方が働きやすい環境にしているから。この場合、拘束時間は10時から15時ということになる。朝お子さんを学校に送り出して出勤し、店の仕事を終えて家に帰ると、お子さんを迎えることが出来るというスケジュールが成り立つ」
 
「ディナーを17時オープンにしたのは、晩御飯をつくるのは面倒だと考えたお母さんがテークアウトでうなぎを買いにきてくれたらいいな、と考えたから。お店で食べる人は18時ごろからやってきて、20時過ぎにはうなぎを食べたいと思う人はやってこないだろうと」
 
そして「鰻の成瀬」では加盟店の募集はしていない。ホームページでも「フランチャイズ募集」ということをうたっていない。それでありながら加盟店が増え続けているのはなぜか。
「加盟される方のタイミングは、当社の問い合わせフォームに『鰻の成瀬では加盟店募集を行っていますか』という問い合わせをしてきて『もし、行っているのであれば是非加盟をさせていただきたいのですが』と、完全に仕上がった問い合わせをされる。そこで当社の状況を説明して引きの営業のスタンスで対応している」
 
代表の山本昌弘氏。FC本部に10年間勤務して、FCの仕組みを熟知した経験から会社を立ち上げた【代表の山本昌弘氏。FC本部に10年間勤務して、FCの仕組みを熟知した経験から会社を立ち上げた】
 
「これによって、他責加盟店が発生しなくなる。他責とは、物事・結果の原因や責任が他社にあると思い、振る舞うこと。『鰻の成瀬』の場合は、自分で選択をして加盟したという認識となる。そこで加盟店との間には強い信頼関係が出来ていく。そして『よいFCがあるよ』と、新しい方を紹介してくださる」
 
実にシンプルな発想に基づいた合理的な仕組みである。これによって加盟店が増える循環を生み出している。国内は300店舗をいったんのゴールとして、海外での展開を進めていくという。既に香港での展開が決定している。このような発想で別の飲食でFC展開ができるのか注目したい。
 

 
千葉哲幸(ちば てつゆき)
 
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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