良い店の定義とは 「商品」「接客」「雰囲気」のバランスを取る
業態にとらわれない愛される接客について、色々な角度からポイントをお伝えして参りましたが、ついに連載も最終回。今回は、繁盛店の共通点である「商品」「接客」「雰囲気」のバランスが取れている状態における雰囲気づくりのポイントと、多くの接客のベテランが行き着くスタイルに関してお伝えしたいと思います。
■商品と接客を引き立てる雰囲気づくり
先述の通り、繁盛店の共通点であり、私自身が飲食店のサポートをするうえで大切にしていることが、以前にもお伝えした業態やコンセプトに合った「商品(品質と価格)」と「接客」そして、それらを引き立たせる「店全体の雰囲気(内装やVMD含む)」のバランスです。
ここでは、この雰囲気づくりのポイントをお伝えしたいと思います。
まず、いくつかあるポイントの中で、デザインに関しての詳しい話は、専門であるインテリアデザイナーの方に譲りますが、分かり易いところでいうと、内装に用いる素材は、石や深い色合い(黒や濃い茶色)をメインに使うと高級感が出しやすいようです。温かい雰囲気を演出したい場合には、これとは逆に木目が見える木の素材の相性が良いと思います。
そして、店内を引き立てるのに重要なものは何といっても「ライティング(照明)」と「BGM」です。これらのどちらにも専門家がいるくらい雰囲気づくりに重要なポイントなのですが、ここを意識していないお店が実際多いと思います。
石を多用して天高や空間が広いスペースだと冷たい空気感が生まれやすく、活気のある空間にするためには生演奏や少しボリュームの大き目なBGMが必要になったりします。凛とした空気感を出したい場合にはBGM無し、というのもありでしょう。
逆に、お客様が少ない時に少しBGMの音量を上げたり、曲調をアップテンポにすると、活気を演出できます。前述のようにスタッフが暇でもきびきび動いていることも、活気を感じされる一助となります。因みに、スタッフの声や会話も(あえて外国語を使ったり)、雰囲気づくりに大きく貢献するBGMになります。
この照明とBGMをマイナスに使う例を挙げると、閉店間際に照明を一気に明るくして閉店の合図となる曲「蛍の光」を流してお客様を帰してしまう、これが極端な例です。閉店間際になると、お会計を廻り始めたり、直接的に「そろそろ閉店なので~」という声をかける店もありますが、そうせずとも、気づかれない程度に照明を少し上げたり、BGMの曲調をスローにしたり音量を少し下げるだけで空気感が変わります。そこにスタッフ達がお帰りになるお客様に対して「有難うございました」という挨拶を少し大きめの発声でするだけで、まだ席に残っているお客様も「私達もそろそろ帰ろうか」という流れになります。これによって、野暮な対応をする必要が無くなり、お客様は余韻に浸りながら気持ちよくお帰りになります。
さらに照明は、暖色で暗めに設定するとデート利用に適した空間になったり、極端に暗い空間で料理だけに光の当たるピンスポットを当てると大人な空間で料理も引き立つという演出もできます。また、間接照明もこれらの演出に大いに役立ちます。是非、自店のコンセプトや単価、いらしてほしい客層を意識して、ライティングの照度や流す曲のジャンル、テンポを工夫してみてください。
高回転を狙うお店は、逆に椅子の背もたれを低くしたり、明るい照明にすると回転率は上がります。意図的に居心地のコントロールをしているということですね。このように店全体の雰囲気のバランスはとても重要な要素で、更に細かく言うと、テーブルセッティングやテーブルとイスがしっかりと整列されているか、ARTやディスプレイ、ユニフォームなどもそのお店のコンセプトに合っているのかなど、全てのバランスを整えることにも気は抜けません。テーブルセッティングやテーブルとイスがしっかりと整列していて「ピシっとした雰囲気」があると、お客様のお店の使い方がエレガントになったり、単価が高くなったりしますが、ファインダイニングなのにテーブルやイス、テーブルセッティングがぐちゃぐちゃ、となると狙った単価が取れなくなることがほとんどです。
■ベテランサービスマンが行き着くスタイル
ここからは、正に業態に関係なく多くのお客様に愛される接客ができる方々のお話しです。居酒屋であろうがカフェであろうがファインダイニングや高級なグランメゾンであっても、そこで長い年月に渡り様々なタイプのお客様に対して接客をしてきたベテランのスタッフ達がたどり着く、共通のスタイルがあります。
それは、ずばり「自然体」。気取ることも無く、気負いすることも無い。普段の生活の延長線上に職場である飲食店の現場があるという状態です。
ここまで行くと接客している時は笑顔だけれど、それ以外のスタッフ同士の会話の時には表情や態度、雰囲気が変わって見え、ネガティブな印象を与えることは無くなります。まだ経験が少なく、未熟なスタッフでも幾度となく顔をあわせている常連客とは、同じように緊張せず、自然な対応ができることはありますが、通常全てのゲストに同じく対応できるようになるには、ベテランのように経験値が必要になってきます。勿論、稀に若くともどなたにでも感じの良い接客ができる方がいらっしゃいますが、そういう方は業界の宝です。
ただ、そこで気をつけなければならないことは、感じが良いことは当たり前で、その先のどのようなタイプのゲストの、どのような質問や要望にも応えられる知識と技術が有るか、は別の話になります。
では、自然体で接客できるまでに短い時間で行き着くにはどうしたら良いのでしょうか。まずは、どのようなタイプのお客様の、どのようなリクエストにも対応できるという自信をつけることです。
ではその自信はどうやってつけるのか。それは不断の勉強で知識をつけることと、技術を磨く努力を日々行うこと。これは、日々努力し自分の技術と人間性を磨くことで、大きな舞台でも力むことなく、普段の練習の成果を自信をもって発揮する(もっというと楽しんでしまう)、世界で活躍するトップアスリートと同じように感じます。
勿論そこへ行くまでには、沢山の苦い経験や失敗を経験していくことでしょう。かくいう私も過去、沢山の苦い経験を積んできました。今も全くないとは言えません。それだけ接客には、こうすれば絶対に喜ばせることができるという傾向こそあれ、決まりはないのです。いつでも目の前のお客様に真摯に向き合い、どうすればこの方々を喜ばせることができるのだろうと考え、独りよがりにならず、仲間のスタッフの協力を得て行動し続けることの繰り返し。だからこそ、毎日に刺激がありお客様の喜ぶ笑顔に癒され、更なる自信をつけて次の日の営業に挑むのです。
最後になりますが、近年のITやAI技術の発展により、これからのフードサービスが、新たなステージに進むことを期待しています。そんな近い未来を皆さまと共に味わうことが、今からとても楽しみです。これからの飲食業界の明るい未来、そして皆さまの飲食事業の益々のご発展(多くのお客様が喜び、リピートしてくれる店になること)を心より祈念致しております。
〇バックナンバーはこちらから
・VOL.1前編 業態にかかわらず、共通するベストサービスとは
・VOL.1後編 どんな業態でも、店の「入り口(エントランス)対応」と「笑顔」が大切!
・VOL.2 令和の時代だからこそ、開業前に準備しておくこと
・VOL.3 オープン後の接客の柔軟性について
・VOL.4 顧客満足を高める接客に効果的な「担当制」
・VOL.5 コロナ禍の影響が少なかった飲食店とは
井崎 正吾 経歴
1994年 パークハイアット東京「New York Grill&Bar」開業メンバーとして、サービスに従事する。その後、飲食企業の立ち上げ、営業本部長、代表取締役も歴任。
2008年には「Solid Foundation Japan」を立ち上げる。
2015年 カフェ・カンパニー株式会社 取締役クオリティ本部長に就任。
2018年より「Solid Foundation Japan」の活動を再始動。
日本ホスピタリティ推進協会教育機構認定「ホスピタリティ・コーディネーター」取得
国内外、異業種異業態の飲食店舗200店舗に携わる。
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