繁盛店への道

オープン後の接客の柔軟性について ~店都合ではなく、お客様の要望にできる限り応える~

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接客コンサルタント井崎 正吾が語るこれからの飲食店サービス VOL.3

 
今回は、柔軟な接客についてお伝えさせて頂きます。あるお客様の話です。
 
『レストランへ行ってメニューを見ると、トマトのサラダと、別の料理でモッツァレラチーズとバジルを使った料理が載っていたので、お店も混んでいなかったし、その両方を使ったカプレーゼ(トマトとモッツアレラチーズを交互に挟んだサラダ)なら作ってくれるだろうと思い、接客スタッフへ「作ってほしい」とお願いをしてみると、接客スタッフは厨房に確認しに行き、無下に「作れない」と言われて納得いかなかった』という経験をされたという話を伺ったことが有ります。
 
この対応が間違っているわけではありません。ファミリーレストランやチェーン展開をしている店であれば、食材管理もシステム化され、このようなイレギュラー(普段と異なる)対応を行うと、在庫のズレが生じてしまう為に対応できない。ということもあるでしょう。
 
しかし、私の知る限り、多店舗を経営している企業でも各店舗が独立採算制を導入している企業や、一つの料理を専門で扱うお店ではない個人オーナーのレストラン繁盛店は、お客様の要望に「極力お応えする」という姿勢をポリシーとしているお店が多いように感じます。特に近年はアレルギー対応などにも柔軟に対応する必要性も出てきていますよね。
 
上記の例でも、店側の理由は色々とあったのかも知れませんが、イレギュラーなリクエストを断る理由として、往々に「店都合」の理由が多いように感じています。
 
実際に、イレギュラーなリクエストを受け付けない幾つかのお店の責任者やシェフと話しをさせて頂いた折、その理由を訊いてみたのですが、返ってきた答えは「一度やると、癖になる」「毎回できないことはやらない」「他のお客様にできないことはやらない」というものでした。
 
勿論、大いに儲かっていれば結構ですし、其々の店の状況やポリシーがあるので反論は致しませんが、できない理由が、毎回「面倒だから」ということであれば、リクエストの多いものをメニュー自体に組み込んでしまうことも良いかも知れません。ただ作業が増えるのが面倒という「店都合」が理由の場合、これを許してしまうと一事が万事で、その他の店舗運営における業務の中に、この「店都合」がいくつも現れるケースがあり、結果、お客様から支持されない店になっていることがあります。
 

特別な待遇がお店のファンを作るきっかけに

「毎回できないことはやらない」「他の客様にできないことはやらない」の理由に関しては、分かる気も致しますが、お客様が自分でわがままを言っていることを自覚している場合「普段は難しいのですが、今日はタイミングと状況が良いので対応させて頂きます。毎回はできないことをご了承くださいますか?」というような言い回しで「毎回できない」「普段は受け付けていない」ということをしっかりと伝えて対応することができれば(仕方ないからやってやる。という態度でなく、笑顔で対応)問題ないのではないかと考えます。
 
これは私の経験値ですが、このように対応すると、大半のお客様は逆に恐縮され、感謝してくださいます。また、この対応を続けていて「この前はやってくれたぞ!」と悪態をつくお客様に会ったことはありません。
 
逆にとても良いお客様としてリピートしてくださるケースが多いのです。お客様のリクエストを無下に断ることは、正直もったいない、と感じてしまいます。現にこれらのお店は、売り上げが伸び悩んでいるので相談されている状況でした。
 
幾つかのホテルやレストランでは、「Noといわないサービス」というポリシーを掲げている施設もあります。物理的にできないことや、その日在庫が無いという状況でも、代替え案を必ず用意し、少しでもお客様に残念な気持ちをもたせない努力をされています。
 

厨房スタッフと接客スタッフの考えが共通であることが大切

ここまでのお話は、概ね厨房側の柔軟性の話に聞こえるかも知れませんが、まさに飲食店において「柔軟な接客」を実現するには、厨房側の料理を作る者の想いや姿勢、力量などを接客スタッフが理解していることが重要であり、普段からの厨房スタッフと接客スタッフのコミュニケーションが必要不可欠なのです。そこに店としての決まりやポリシーも加わり、接客スタッフはそれらを理解しているからこそ、“対応できる・できない”を含め、安心して柔軟な対応や提案がお客様に対してできるわけです。そこが欠如すると、説明がないまま「できません」と答える接客スタッフが育ってしまう可能性も高くなります。
 
また、別の例で、その時に店に無い物でも、近所で手に入るものなら買ってきて提供する、という対応も柔軟な接客であると考えます。近所に売っている料理を買ってきて、そのまま提供することは無論無いと思いますが、普段メニューに乗せていないドリンクをお客様に「ありますか?」と訊かれた際に、「通常無いのですが、近所で売っているので買ってきます!」と告げて近所のコンビニで購入し、他のドリンクと同じようにお店のグラスで提供しても、お客様は「そんなコンビニで買ったもの嫌だ」とは言いません。特にお子様などで、「りんごジュース」しか飲めないなんてシーンもあるでしょう。
 
勿論普段の仕入れ値と異なり、コストが高くつくこともあるかも知れませんが、お客様がお店側の柔軟で客本位の接客(対応)をしてくれた、と喜び、その店を好きになってリピーター(贔屓客)となってくれれば、「損して得取れ」ということわざがありますが、それが成り立つわけです。昔はこの「損して得取る」という感覚を持ち合わせているお店も多かったようですが、最近は少ないように感じます。
 
イレギュラーなリクエストは、あくまでもイレギュラーであり頻繁には無いレアケースですので、断るよりも、できるのであれば対応する姿勢を店のスタンダードにされると、現代では影響力の大きい口コミに良いコメントを投稿して頂けるかもしれません。
 
このように、一口に“柔軟な対応をしよう”と言うのは簡単ですが、実は普段からのスタッフ間のコミュニケーションや、権限移譲の範囲が明確になっていること、ホールも厨房も「良い店をつくろう!」という目標に向けて切磋琢磨している、などの隠された背景があるのです。
 
だからこそ、柔軟な対応はお客様に喜びを与えてくれるのだと考えます。
 

井崎 正吾 経歴

1994年 パークハイアット東京「New York Grill&Bar」開業メンバーとして、サービスに従事する。その後、飲食企業の立ち上げ、営業本部長、代表取締役も歴任。
2008年には「Solid Foundation Japan」を立ち上げる。
2015年 カフェ・カンパニー株式会社 取締役クオリティ本部長に就任。
2018年より「Solid Foundation Japan」の活動を再始動。
日本ホスピタリティ推進協会教育機構認定「ホスピタリティ・コーディネーター」取得
国内外、異業種異業態の飲食店舗200店舗に携わる。
 

 

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