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和牛の焼き肉店が卸業者にとって売れにくい内臓を仕入れて関係性を深める

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第四十九弾
ホルモン・もつ焼きの賢い選択 後編

 
神奈川県の県央部で「食彩和牛 しげ吉」という焼き肉店が展開している。場所は、大和市、横浜市、藤沢市で住宅地を背景にした地元密着の店だ。特徴は和牛を提供しながら客単価が5000円ということ。一般的な「5000円の焼き肉店」というイメージを超えたお値打ち感がある。そして、店内のBGMがサザンオールスターズ。食事をしている時のノリが良くて強烈に記憶に残る。「しげ吉」を知る人は「サザンの焼き肉屋に行こうぜ!」が合言葉になっているという。
 
同店を展開しているのはシゲキッチン(本社/横浜市中区、代表/間宮茂雄)。同社は代表の間宮氏(42)が2003年22歳のときに大和市内で独立開業(現在の大和本店)したもの。現在「食彩和牛 しげ吉」が6店舗、牛肉の端材でつくった焼売を提供する「焼売酒場 しげ吉」1店舗、ほかにFC店を3店舗展開してきた。
 
【「もつ焼 しげ吉」3月10日のオープン初日にはいきなりウエーティングができた】
 

原価高騰、人材不足を解決するもの

シゲキッチンではこの3月10日に初のもつ焼き業態となる「もつ焼 しげ吉」を小田急線・相鉄線の大和駅から徒歩2分の飲食店街に出店した。同店を出店した狙いについて間宮氏はこう語る。
 
「『しげ吉』は創業以来『いいものを安く』というモットーで展開してきたが、昨今は和牛が高騰し、さらに人材不足ということが加わり店舗展開が難しい。では外国産の牛肉を使って原価の高騰を吸収しようと考えたが、それを『しげ吉』ブランドでやるのは忍びない。そこで『いいものを安く』というモットーをもつ焼き業態で表現しようと考えた」
 
「もつ焼き」がひらめいたのは、肉の卸業者が語る「いま内臓が売れにくい」ということがヒントになった。また、同社の既存の焼き肉店では各店に肉をさばく職人がいて、肉の卸業者から届いたブロック肉を各店でさばいている。この工程はアルバイトには任せることができない。それが内臓であれば、下処理は和牛のブロック肉と比べると容易であり、一部下処理したものを卸業者が届けてくれる。「いいものを安く」をモットーとしながら、原価の高騰と人材不足を解決できるのが「もつ焼き」ということだ。
 
【内装は「和風モダン」のイメージ。BGMは全店ともにサザンオールスターズで統一】
 
既存の「食彩和牛 しげ吉」の原価率は45%となっている。これで利益体質をもたらしているのは出店立地が駅から遠かったり、郊外にあることで家賃比率が低いこと。そして5000円という圧倒的なお値打ち感が目的来店となる。一方、もつ焼き店の立地は駅近である必要があり「もつ焼 しげ吉」は客単価3500円、原価率は30%を想定している。間宮氏は「既存のもつ焼き屋にない商品力によって、まず3店舗の成功事例をつくり、3年間で10店舗、FC展開も進めて10年間で100店舗を目指す」と語る。
 

肉の卸売業者との関係性を深める

「既存のもつ焼き屋にない商品力」を標榜する「もつ焼 しげ吉」のメインのメニューは次の3つ。
 
まず「名物 もつ煮込み 旨みそ/辛みそ」各550円(税込、以下同)。八丁味噌を効かせたスープをつくり、別にもつを柔らかく煮込んでおき、お客から注文があってからこれらを合わせて最終調理を行う。食味はネーミングのイメージに反してさっぱりとしている。
 
次に「もつ刺盛り合わせ(鶏のレバー、ハツ、精肉の三点盛り)」1650円。内臓を刺身で提供することは禁止されているが、こちらは塩漬けにした内臓を低温調理したもの。食感はまるで刺身。塩味が効いているのでそのままで食べられる。
 
そして「しげ吉串」1本176円。丁寧に手で刺したシロ(豚の内臓)を、一度ボイルして、その後油で揚げてカリカリにする。さらにそれを焼き台で焼く。このように店内で3工程を行う手間暇かけたメニュー。鶏皮のような食感に加えてホルモン特有の歯応えがあり、噛めば噛むほど旨味が増す。
 
【店頭近くのオープンキッチンの中に焼き台を備えてショーアップしている】
 
これらはいずれも特徴がはっきりとしている。既存の「もつ焼き店」のイメージを超えた独創商品である。同業態が今後FC展開をしていく上で強力なフックとなっていくことだろう。筆者としては「しげ吉串」が特に印象深かった。鶏皮串に似ているが、噛むほどに食味が奥深く感じられた。「もつ焼き店の新しい定番」と言っていいのではないか。
 
筆者は間宮氏に「焼き肉店を営んでいる飲食業がもつ焼き店を営むメリットとは何か」と尋ねた。
 
間宮氏はこう語った。「当社では肉の卸業者さんに無理をお願いしてなかなか手に入りにくい肉を仕入れることができている。同じ卸業者さんから内臓を仕入れるのはその恩返しという位置づけ。このような形で卸業者さんとの関係性を深めていきたい」
 
これはB to Bにおけるウィンウィンである。そして、焼き肉店で目的来店の顧客を培ってきたシゲキッチンにとって、新たにもつ焼き店を展開することは「しげ吉」ファンの利用動機を広げることになる。「もつ焼きの賢い秘訣」はさまざま挙げられる。
 
【「もつ焼 しげ吉」のメニューはFC展開を想定していて差別化されたものがそろっている】
 

 
千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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