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“韓流業態”を展開している甲羅がさらに「赤からソウル」を出店する狙いとは

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第三十八弾
“韓流トレンド”に新しい動き 前編

 
“韓流ブーム”と言われるようになって久しい。これは「冬のソナタ」が日本で放映されるようになった2003年からとされている。一方、食文化としての韓国料理は根強く定着してきた。豚肉を鉄板で焼いて野菜と一緒に食べる「サムギョプサル」は珍しいメニューではなくなった。東京・新大久保はコリアンタウンとなり、社会風俗やフードサービスともに“韓流ブーム”を支えている。
 
飲食業の中には、この“韓流ブーム”を独自の路線に取り入れて需要発掘に挑んでいる事例が見られている。今回は、それを「ブランディングに生かす」と「大衆食堂を確立する」という二つの路線を紹介しよう。
 
「赤からソウル」のロゴは「赤から」のものを基調にして既存のイメージを東秀。恵比寿駅西口店は飲食ビルの空中階にあり、目立つ色使いでアピールしている。【「赤からソウル」のロゴは「赤から」のものを基調にして既存のイメージを東秀。恵比寿駅西口店は飲食ビルの空中階にあり、目立つ色使いでアピールしている。】
 

1人前から注文できて食事の仕方が多様化

株式会社甲羅(本社/愛知県豊橋市、代表取締役社長/鈴木雅貴)は創業者であり現・会長の鈴木勇一氏が1969年に創業。現在の商号の由来であるカニ料理のカジュアルレストラン「甲羅本店」を展開することで大きく成長を遂げた。そして2003年8月より「赤から」を展開したことによってさらなる成長の土台を築き上げた。同店は辛さを選べる「赤から鍋」を看板商品としていて、FCによって全国チェーンとなった(全国226店、うちFC186店/2022年3月末)。ちなみに甲羅グループ全体の店舗数は317店舗で「赤から」の店舗数は全体の3分の2以上を占めている。
 
同社では2021年9月より既存の「赤から」に“韓流”の要素を加えた「赤からソウル」を3店舗出店した。浜松初生店、札幌すすきの店、恵比寿西口店がそれで、それぞれ「郊外ロードサイド型」「繁華街型」「都心型」というパイロットショップとしての役割を担っている。
 
新しく“名物”としてラインアップした「韓流 赤からソウル鍋」(恵比寿西口店限定)1人前1419円(税込)。【新しく“名物”としてラインアップした「韓流 赤からソウル鍋」(恵比寿西口店限定)1人前1419円(税込)。】
 
「赤からソウル」を出店した背景について同社社長の鈴木氏はこう語る。
「『赤から』の店舗が増えてきたことで、エリアによってはカニバリが生じるようになってきた。そこで別なバージョンを設けることによって横展開が可能になることを考えた。『赤から』の鍋は『和風チゲ鍋』といった感覚だが、これを韓国バージョンにしてみると面白いのではと。」
 
「赤から」の「赤から鍋」とは、そもそも名古屋の名物料理を原点としていて特製味噌に唐辛子をブレンドしたスープに野菜や肉・ホルモンを煮込んだ鍋のこと。そこで「赤からソウル」では、既存の「赤から」と差別化するために、「赤から鍋」に加えて「赤からサムギョプサル」「韓流 赤からソウル鍋」と名物となるメニューを入れた。「赤から」の鍋は2人前からの注文となるが、「赤からソウル」ではこれらを1人前から注文できるようにした(「赤から鍋」1190円、「赤からサムギョプサル」1639円、「韓流 赤からソウル鍋」1419 円。以上、税込)。
 
これによってお客は注文がしやすくなったことから、選ばれやすいメニューになったとのこと。これによって客単価が下がり、客数が増加した。「赤から」の客単価は2800円から3000円だが、「赤からソウル」では2400円から2600円あたりになっている。
 
甲羅が”韓流“に着眼したのは今回が初めてではない。10年前より中部地区で「赤豚屋」(チョッテジヤ)という韓国業態の展開を開始した。当時はかなり尖った店であったがある有名K-POPスターが活動を休止するタイミング(2010年)で店の壁に自分の名前を書いていいとなってからお客が増えるようになり、店の中でファンのオフ会も開かれるなど連日満席の繁盛店となった。その後多店化できるように仕組みを少しずつ変えてきたことで現在8店舗となった。このような経験が今回の「赤からソウル」に生かされている。
 
「赤からソウル」恵比寿西口店の店内の様子。客層は見事に20代から30代前半で占められている。【「赤からソウル」恵比寿西口店の店内の様子。客層は見事に20代から30代前半で占められている。】
 

「赤から」ブランドの認知を広げる存在

現状「赤からソウル」の3つの店舗共にお客からの反響は良い傾向が見られている。郊外ロードサイド型の浜松初生店はリニューアル前と同様ファミリーが主だが、店内にモニターを入れてK-POPを流すようにしてから若い女性客も増えてきた。繁華街型の札幌すすきの店も女性客の割合が増えた。恵比寿西口店のお客へのアンケートでは「紹介したい」という声が多いという。
 
筆者は4月1日の夜に恵比寿西口店を訪ねたが、スーツ姿の若い男女がほとんどで満席だった。この日は多くの企業で入社式が行われていたことから、学生時代の仲間と社会人としてスタートを切ったことを祝っていたのであろう。この光景の通り、若者が日ごろから慣れ親しんでいる店であることから、集まって食事をするタイミングの際に分かりやすい店として認識されているのだろう。
 
同社では、「赤からソウル」のFC展開を視野に入れているとのことだが、前述したとおり「赤から」のカニバリを回避することから優先的に取り組んでいくとのこと。
 
甲羅グループで「赤からソウル」より先に展開している“韓流業態”の「赤豚屋」(チョッテジヤ)は、ポップな“韓流”の雰囲気を表現している。【甲羅グループで「赤からソウル」より先に展開している“韓流業態”の「赤豚屋」(チョッテジヤ)は、ポップな“韓流”の雰囲気を表現している。】
 
コロナ禍にあって、「赤から」に関して同社が改めて認識したことは、消費者に「赤から」ブランドの認知が高くなってきているということ。この期間にはOEM商品の「赤から鍋スープ」がスーパーなどの小売店でよく売れたという。
 
そのような市場環境を踏まえて、「赤からソウル」は“韓流”が持つ高い集客力にプラス「赤から」ブランドの認知を広げる可能性を秘めていることであろう。
 
(後編)に続きます。

 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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