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フードサービス・ジャーナリスト 千葉哲幸 連載第十六弾 アフター・コロナに活かす情報発信 後編

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次に、エー・ピーカンパニー(以下、AP)の事例を述べる。APのことを語る場合はまず、同社の「生販直結モデル」を説明しておく必要がある。
同社の成長を牽引したブランドは「塚田農場」である。これは2003年の当時、代表の米山久氏が「ありきたりじゃない新・外食」を追求している過程で、宮崎県日南市の地鶏「みやざき地頭鶏(じとっこ)」と巡り合ったことに端を発する。
「食材の通販」は4月13日より始まった【「食材の通販」は4月13日より始まった】
 
この地鶏は増体率が高く、食味に適度な歯ごたえがあって旨味があることが大きな特徴だ。これを主要食材に育てていくために、現地の生産者と協調して生産拠点をつくり、この鶏肉を東京はじめとした居酒屋「塚田農場」に届けるという仕組みをつくった。このモデルは鮮魚分野でも開拓した。そして、「食のあるべき姿を追求する」というミッションを打ち立て、食品の生産(一次産業)から流通(二次産業)、販売(三次産業)に至るまでの全てを一貫して手がける独自の6次産業化ビジネスモデルを展開するようになった。
エー・ピーカンパニーが独自に作り出した「生販直結モデル」のスキーム【エー・ピーカンパニーが独自に作り出した「生販直結モデル」のスキーム】
 
このようにAPの最大の特徴は「クオリティの高い食材」である。これを当初からぶれずに行ってきたことによって、「塚田農場」や「四十八漁場」をはじめとしたブランドには根強いファンが存在している。
「おつまみの通販」は4月23日より始まった【「おつまみの通販」は4月23日より始まった】
 
さて、筆者は5月末に代表の米山久氏にインタビューをする機会を得た。コロナ禍での「コスト圧縮」をはじめ「雇用継続」などさまざま伺ったが、ここでは表題どおりの「アフターコロナに活かす情報発信」について述べよう。
 

会社のファンに新しいサービスを広げる

コロナ禍によって飲食業の多くが「テイクアウト」「デリバリー」を手掛けるようになったが、APでは2014年7月に新規事業として宅配弁当の「おべんとラボ」を立ち上げ、2015年7月1日に塚田農場プラスという商号で法人化している。それが2020年3月期連結決算の売上高230億円のうち約20億円を占めるほどに成長した。
この弁当事業の成長も含めて、多くのブランド、多くのチャネルを持っていることから、米山氏は「APファンマーケティング構想」を描いている。
それは、コロナ禍におけるブレスリリース・ニュース配信サービス『PR TIMES』での発信から見て取れる。これらの概要を時系列で紹介しよう。

PR TIMES

  • 3月31日「店舗休業」4月2日から、営業再開日は4月10日、15日、21日(エリアで異なる)
  • 4月9日「食品を宅配」。「Oisix」と共同で一般に販売、4月15日から
  • 4月11日「営業再開日を延期」。営業開始日を、4月10日、15日、21日からであったものを5月15日に延期
  • 4月13日「コロナ禍休業による余剰食材を販売」、一次産業支援のD2C(Direct to Consumer)事業を4月14日から本格始動
  • 4月23日「おつまみの通信販売開始」。「おうち塚田農場 家飲み便」、4月23日受注スタート
  • 4月27日「海の味覚、日本酒を通信販売」。鮮魚居酒屋「四十八漁場」で取り扱う予定だった食材を通販
  • 5月7日「オンライン酒蔵見学ツアー」。生産者のこだわりに耳とグラスを傾ける「オンライン焼酎蔵見学ツアー」を実施、5月7日から
  • 5月13日「トライアル営業実施」。5月15日からの営業開始日を、6月1日からを目途に変更
  • 5月15日「通信販売のお礼」。通信販売によって、「地鶏を100店舗使用分の16%」を販売したことを報告
  • 5月20日「医療従事者に弁当を無償提供」。5000食を目標にクラウドファンディングを開始
  • 5月21日「『家飲み便』を拡大」。都心限定だったものを本州26都道府県に拡大、5月22日から
  • 5月27日当社ブランド営業再開、6月1日から
  • 6月4日「新しい飲食店の営業形態」追求の次なる打ち手は食堂業態!当社各種ブランドの〝おいしい″を集めた「つかだ食堂」を立ち上げる。5月15日から

 
このように、今回のコロナ禍で弁当事業をECに結び付けて新しいサービスを生み出してきた。ここからさらに弾みをつけようということが「APファンマーケティング構想」なのである。
5月7日に「オンライン酒蔵見学ツアー」を実施【5月7日に「オンライン酒蔵見学ツアー」を実施】
 

情報発信基地をリアル店舗が担う

APでは農業、漁業共に生産者を確保しており、ここに宅配などのインフラが整うことによってさらに新しいサービスが期待できる。インフラについてはホールディングス体制によって整備していきたいとしている。
これらのコアな情報発信は「塚田農場」をはじめとしたリアル店舗が担う。ここはAPファンが集まる場所だから。APの「生販直結モデル」による高品質・中価格の価値を評価するお客が買い求めることであろう。
 
ワンダーテーブルもAPも、矢継ぎ早の情報発信は多くの人々に「一貫した企業姿勢」を刷り込んだ。そして、既存のファンはその姿勢に新しい購買動機が喚起されて、発信する企業に新しい事業としての手応えをもたらした。アフターコロナのキーワードは「ファン」なのではないか。そして、ファンはコミュニティを育てて、企業を応援する存在になっていくのではないか。このようなことを、経済活動が動き出した6月の中旬に考えている。
ランチタイムも稼働する「つかだ食堂」を5月15日から順次オープンしている【ランチタイムも稼働する「つかだ食堂」を5月15日から順次オープンしている】
 
 

 
千葉哲幸(ちば てつゆき)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴36年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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