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コロナ禍で顕在化した「時間短縮」が若者が求める外食にジャストミート

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第二十二弾
「90分〇〇放題」という新常識 前編

 
2020年という年は、コロナ禍と闘った一年であった。生活行動も価値観も、この見えない敵によって新しい規範がつくられた。飲食業界の場合、「営業自粛」が強いられた。これによって、テークアウト、デリバリー、ECといった店内営業以外で売上をつくることが一般的なことになった。
 
もう一つ、コロナ禍で顕在化した動向として「時間短縮」を挙げておきたい。それは「飲み放題」「宴会コース」といったメニューの時間が短縮化したこと。これまで「120分」ということが通例であったが、「90分」「60分」というものが登場した。それは120分のものと比べて低価格で設定されていることから、新しいルールとして定着してきている。この具体的な事例とこれに関連した動向を前編、後編の2回に分けて紹介しよう。
 

「60分500円」「延長30分300円」

「2020年のヒット業態」と言えば「自分でタップから注ぐ飲み放題」である。「タップ」とは蛇口のことだが、ここで言うタップは、ビールやハイボールを注ぐ機械の金属の棒を倒して注ぐタイプのものだ。カウンター越しに従業員がこのタップでジョッキにビールを注いでいる様子を見て、「これで自分で注いで、好きなだけ飲みたい」と思ったことがある人はたくさんいることであろう。これが各テーブルに備わっているのだから、楽しいことこの上ない。そして、フードメニューは焼肉である。要するに、ドリンクを注ぐのも、料理を作るのも全部お客にやってもらうというもの。でも、お客にとってその一つ一つが楽しいことであるから、お客はみな嬉々としている。
「ラムちゃん」御徒町店の外観。予約客で店内はすき間なく埋まっている【「ラムちゃん」御徒町店の外観。予約客で店内はすき間なく埋まっている】
 
このタイプの最初の店は、一家ダイニングプロジェクトが2019年7月に千葉県柏市にオープンした「大衆ジンギスカン酒場 ラムちゃん」(以下、ラムちゃん)である。同店はすべて直営で2020年12月10日に千葉県木更津市にオープンする店で9店舗となる。
 
同様の業態でチェーン化しているのが「0秒レモンサワー 仙台ホルモン焼肉酒場 ときわ亭」(以下、ときわ亭)だ。こちらはチーズフォンデュをはじめとした多業態を展開しているGOSSOが2019年12月、横浜西口に1号店をオープン、2010年12月末で10店舗となる。
「0秒レモンサワー」のタップ。味付けはレモンフレーバーのシロップを使用【「0秒レモンサワー」のタップ。味付けはレモンフレーバーのシロップを使用】
 
タップから出て来る飲み物は、ラムちゃんはハイボールで、ときわ亭はサワーだが、飲み放題のルールは一緒である。「飲み放題」は「60分500円」で、延長の場合は「30分300円」。つまり、90分制である。客単価はラムちゃんが2500円、ときわ亭は3000円。
 

若者が求める外食にジャストミート

筆者は、ラムちゃん御徒町店、ときわ亭渋谷店を体験している。これらの店が大変よく繁盛していることを知って、最初9月末の平日にときわ亭渋谷店に17時開店に合わせて入店しようとしたところ「予約でいっぱい」ということで断られた。そこで予約をお願いしたところ、予約が取れたのは10日後であった。このような経験をしたことから、ラムちゃん御徒町店は予約をして、翌日に入店することができた。
ファサードがにぎやかで気分が高揚し期待感が湧く【ファサードがにぎやかで気分が高揚し期待感が湧く】
 
ときわ亭渋谷店の客層は9割が学生と思しき20代前半の男女であった。女子が圧倒的に目立っていた。みなよく酔っ払って楽しそうに過ごしている。自分も大学生の当時、バイト代が出たら焼肉食べ放題、飲み放題に行ったことを思い出した。若者は自分で稼いだお金で外食をしようと考えた場合に、真っ先にこの業態を思いつくのではないか。
 
タップから出て来るサワーのアルコール度数は8度で、酒に強いと自認する筆者でもすぐに酔っ払う。「90分制」にしているのは、これ以上長くするとお客が泥酔してしまうからかもしれない。とは言え、「予約で満席」「90分制」ということで、客席が効率よく回転している。
 
だから、従業員は忙しく働いている。しかしながら、ときわ亭、ラムちゃんともに接客に笑顔があって余裕を感じさせる。この二つのブランドが大繁盛しているからといっても、なかなか追随するところが出てこないのは、高度なオペレーション能力を必要としているからであろう。
両方とも、「焼肉」「飲み放題」という若者に人気の外食が合体している【両方とも、「焼肉」「飲み放題」という若者に人気の外食が合体している】
 
ちなみに、ときわ亭の売上上位3店舗は、横浜西口店(30坪62席)1300万円、渋谷店(25坪56席)1200万円、武蔵小杉店(50坪66席)1100万円)となっている。また、焼肉にこだわらず「B級グルメ酒場」といったスタンスでフードメニューに餃子、唐揚げ、たこ焼き、焼きそばなどをラインアップし、これらをテークアウトできるような5~10坪といった小箱店の展開も視野に入れている。この場合は、軽装備で済み、個人店でも十分可能である。実際に横浜・野毛に「0秒レモンサワー」の6坪の店舗を出店しているが現状月商210万円くらいを売っている。
 
同店を展開するGOSSOでは、同店を成長エンジンとして位置付け2024年度に100店舗、チェーン年商100億円を想定している。
 
(後編)に続きます。

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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