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「人も街も再生する酒場のプロデューサー」の原点は“脱バブル”

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第四十五弾
増殖続ける“浜倉ワールド”とは? 後編

 
カオスでありながら食と映像で一体感のある環境をつくり続けている「浜倉的商店製作所」。代表の浜倉好宣(はまくらよしのり)氏は1967年神奈川・横須賀生まれで京都出身。今日斬新な飲食プロデュースを行っている浜倉氏であるが、この原点は浜倉氏のユニークな来し方にあると筆者は認識している。そこで、浜倉氏のプロフィールを紹介しよう。
 
浜倉氏は高校時代からアルバイトで飲食業に親しみ、卒業後は京都駅の商業施設内の飲食店で働いた。この店のメニューに統一性が全くなかったことから、ここに浜倉氏が改革を施したところ売上が商業施設内のトップとなった。ここで「飲食店プロデュース」に目覚める。
 
“浜倉ワールド“の第1弾、2005年6月にオープンした東京・門前仲町の居酒屋(のち閉店)【“浜倉ワールド“の第1弾、2005年6月にオープンした東京・門前仲町の居酒屋(のち閉店)】
 
24歳でFC展開をする弁当チェーンのスーパーバイザー(SV)を経験。その後、旅館の運営の手伝いをする。ここに出入りする庭師と知り合い、この庭師が経営する和歌山・南紀白浜の民宿で「残酷焼き」と出合った。これはイセエビやアワビなどを生きたまま焼くもので、焼き上がる過程で魚介類はもがいて残酷な感じだが、だんだんと香ばしい匂いが漂ってきて、食べるほうとしては食欲が増してくるというもの。この体験が後に“浜倉ワールド”の飲食店の看板メニュー「浜焼き」となる。
 
29歳で当時飛ぶ鳥を落とす勢いがあった大阪本部の飲食企業「ちゃんとフードサービス」に入社。ここで成長する飲食業のパワーを体得した。同社が東京圏に進出するに伴い東京に出向くことになり、これまで想像したこともない「月商1億円の飲食店」が数多く存在することを知る。ここで「飲食のマーケットは東京だ」と確信し、飲食プロデュースの分野で独立する。
 
フリーの飲食プロデューサーを1年ほど経験してから、当時高級焼鳥店を展開している「フードスコープ」に2000年入社、このとき34歳。ここでは高度な食材や調理法にこだわっていて、浜倉氏は人材採用も担当することになり「人材力」の重要性を知る。
 
“浜倉ワールド”でオープン初日にチンドン屋さんが登場してにぎやかにお披露目を行う【“浜倉ワールド”でオープン初日にチンドン屋さんが登場してにぎやかにお披露目を行う】
 
フードスコープでは米国ニューヨークに進出し高級レストランの「MEGU」をオープン。食通のニューヨーカーから注目されることになる。浜倉氏はここの運営も担当する。この当時「飲食バブル」の雰囲気が漂っていた。大衆的な料理や「おふくろの味」的な雰囲気が遠ざかっていく感覚があった。そこで浜倉氏は飲食バブルから離れることにして、大衆的な店づくりを志すようになった。
 
【浜倉ワールドでは「残酷焼き」がベースとなった魚介類のメニューが多い】
 

2008年「恵比寿横丁」で注目される

浜倉氏がフードスコープを辞めて初めてプロデュースした飲食店は東京・門前仲町の店。ここを手掛けることになったのは「街の魚屋さんの再生」がきっかけだった。街の魚屋さんはスーパーマーケットチェーンに押され閉店を余儀なくされている。そこで街の魚屋さんを「鮮魚の居酒屋」で再生させるというプロジェクトであった。これが2005年6月のこと。
 
その後、浜倉氏は2008年に恵比寿駅近くに「恵比寿横丁」をプロデュースしたことで突然注目を集めた。
 
東京の「恵比寿」は1990年代の後半から隣の若者の街「渋谷」に対して大人の街と呼ばれるようになり、おしゃれなレストランが増えていったが、その中で築40年以上、落書き付きのシャッターで閉ざされた一角があった。4階建ての共同アパートの1階で昔は栄えていたという。
 
浜倉氏はここを初めて訪れた2006年以来、だんだんと自分の頭の中に店主もスタッフも世代をまたいで楽しく働き、専門店の集合体がそろった酒場街になっている映像がピタリと降りてきたという。そこで3度の工期を経て21店舗の横丁ができた。通路にも客席が構成され、人間臭い光景が展開されるようになった。
 
今年10月20日渋谷のマークシティ隣りにオープンした「日韓食市」【今年10月20日渋谷のマークシティ隣りにオープンした「日韓食市」】
 
その後「有楽町産直横丁」「新橋ガード下横丁」「日比谷産直飲食街」等をプロデュースしていく。そして渋谷区立宮下公園の再整備事業として2020年7月に竣工したMIYASHITA PARKの1階に19店舗、店内1200席、テラス席350席という「渋谷横丁」をオープン、渋谷のランドマークとなった。それ以降の話は前編でまとめた。
 
浜倉氏は最新店「龍乃都飲食街~新宿東口横丁」のコンセプトを「日本の良き大衆文化をアップデートして次世代につなぐ」と紹介してくれた。前編で述べたとおり、一見してカオスであるが「食と画像と音によって独特の一体感を醸し出している」というのは、このコンセプトが全体の軸足をしっかりとしたものにさせているからだろう。
 
浜倉氏は誰からも愛され、宴席ではいつも中心にいる【浜倉氏は誰からも愛され、宴席ではいつも中心にいる】
 
そして来年4月、歌舞伎町にそびえる東急歌舞伎町タワーの2階にエンターテインメントフードホールをオープンする。浜倉氏が取り組んできた「横丁」のコンセプトは一貫して“再生”である。それは人も街もすべて再生するということ。確かに、浜倉プロデュースの「横丁」はそれまで沈んでいた街に活気をもたらし、人々が生き生きと楽しく働き飲んでいる。果たして来年の4月歌舞伎町がどのように変貌するか、“浜倉ワールド”が注目される。
 

 
千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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