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「ベッカーズ」、「プロント」とのコラボ店でアルコール商売を磨く

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第十一弾
最近注目の二毛作業態 前編

 

時間帯別に得意とする会社が商売を担う

「二毛作」という言葉は、小学校高学年の時に社会科の授業で覚えた。私の故郷の青森ではこのようなことは行われていなかったが、他では夏にジャガイモをつくり、その後小麦をつくるといった事例があることに驚いた。温暖な地域ではお米を一年間に2回収穫するところもあり、これを「二期作」と呼ぶことも覚えた。
 
フードサービス業は「二毛作」という言葉が使われるようになったのは、「プロント」からである。同チェーンの発祥は1988年2月にサントリーとUCC上島珈琲が共同出資して誕生した株式会社ブレスで、1号店は同年4月銀座8丁目にオープンした。この出資母体が示すように、アルコールとコーヒーという具合に夜の飲み物、昼の飲み物を得意とする企業が一つになることで二毛作によってそれぞれの強さを発揮して高い生産性を獲得するという狙いがある。
当時はバブル経済真っ盛りで、家賃が高騰して喫茶店など伝統的な業種は収益が追いつくことができず、この二つの会社が共同して店舗展開をすることに大きな商機があると考えられた。
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【昼、夜とも客席は変更しない】
 
同社が現在の社名の株式会社プロントコーポレーションとなったのは1995年2月のことで、以来「カフェ ソラーレ」をはじめとして業態開発を推進し、現在(2019年9月末)は総店舗数341店舗(うちFC229店舗)、「プロント」のみでは242店舗(うちFC169店舗)となっている。
 

「ベッカーズ」と「プロント」がコラボ

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【看板にはそれぞれのコーポレートカラーを入れずにシンプルに構成】
 
さて、10月7日、JR秋葉原駅電気街南口に「JR東日本ホテルメッツ秋葉原」がオープンしたが、その1階で営業している「Becker’s×PRONT」(40坪62席)が、プロントの新しいタイプである。
 
同店は、店名が示すように「Becker’s」(ベッカーズ)と「PRONT」(プロント)という二つの業態が初めてコラボレーション(コラボ)した業態である。
既存のベッカーズはハンバーガーをメインとしたファストフードで、このコラボ店では7時から17時までをベッカーズとして営業、既存のプロントにはパスタという有力な商品があるが、それを外してベッカーズに徹している。そして、朝7時から10時までを「morning time」(朝)、10時から17時までを「day time」(昼)としてそれぞれの時間帯で訴求するメニューを変えている。
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【昼のレジ周りはファストフードそのもの】
 
7時から10時は自家焼成のクロワッサンを引き立たせ、「抹茶黒みつホイップ クロワッサン」150円(税込、以下同)、「バジルチキン&トマト クロワッサン」280円、「バジルチキンサラダプレート」480円をアピールしている。
10時から17時に「『別格』ザ★ハンバーガー」840円(税込)をラインアップ(チーズバーガー880円、ツインチーズバーガー1080円)。これは酒種バンズとオーダーしてから焼成する粗挽きミートを使用したもの。さらに、「信州ジビエ ザ★鹿肉バーガー」740円が大きな写真でアピールされている。JR秋葉原駅周辺は近年の再開発によってフードサービスが濫立するエリアとなっているが、これらのメニューは同店の特徴を際立たせることになるだろう。
 

「ベッカーズ」がアルコールの商売を磨く

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【夜になるとファストフードの機械の前にカーテンをおろす】
 
17時から23時まではプロントのブランドでビールに特化した業態の「ビアテリア PRONT」として営業する。ここでは6本のタップによって6種類の「ザ・プレミアム・モルツ」を提供していて、この中で「ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム」はグラスのみ710円(税別、以下同)だが、他の5種類はグラス560円、パイントグラス840円となっている。フードメニューはビールに合うメニューが取り揃えられ、「チーズたっぷりミックスピザ」680円、「チキン&チップス」730円、「切り落としローストビーフ」1200円などが特徴的だ。
 
想定する客単価はベッカーズが400円、プロント2000円前後となっている。筆者は同店がオープン以来、時間帯別に何度か訪れているが、インバウンドよりもキャリーケースを引いた日本人客が多いという印象だ。
このコラボ店のオペレーションは全時間帯ともベッカーズが担当する。ベッカーズはこれまでファストフードの店舗を13店舗、アルコール提供を強化した「R・ベッカーズ」を2店舗展開している。このR・ベッカーズは立ち上げから運営に際してプロントと同じグループであるサントリーから協力を受けていて、今回のコラボによってアルコール部門の一層のブラッシュアップを図ることになる。
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【店舗のコンセプトを示す絵画を展示】
 
「餅は餅屋」と言われるが、同店の場合はベッカーズがプロントに授業料を支払ってアルコール商売の勉強をしているということになる。FCとは時間をお金で買うことであるが、一段の成長を図るためにこのような割り切り方は必要だろう。
 
(後編)に続きます。

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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