飲食店開業と「風営法」の関係、風俗営業許可が必要な営業形態は?
飲食店を開業するために必要な行政の許可として何を思い浮かべるでしょうか。真っ先に思い浮かぶのが店舗の所在地を管轄する保健所で取得する飲食店営業許可証かと思います。この飲食店営業許可証はあらゆる飲食店が対象でこれを取得しないと飲食店を開業することができないというものになります。
他方、飲食店の営業形態(酒類を提供したり、接待が伴ったりする)によっては、他に必要となる許可があるということを意外と知らない人は多いのではないでしょうか。本記事のタイトルにもある「風営法」についてピンとくる人は少ないかと思います。ここでは、飲食店開業と「風営法」の関係や風俗営業許可が必要な営業形態、居抜き店舗における注意点その他関係する事項について詳しく解説をしていきます。
目次
◆「風営法」とは?
よく耳にする「風営法」とは、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」の略称で、その目的は、「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため、風俗営業及び性風俗関連特殊営業等について、営業時間、営業区域等を制限し、及び年少者をこれらの営業所に立ち入らせること等を規制するとともに、風俗営業の健全化に資するため、その業務の適正化を促進する等の措置を講ずることを目的とする」と風営法第1条に規定しています。要は、ルールによって地域社会に悪影響が出ないようにするということです。そのため、地域社会の健全化を守るため、悪影響となる可能性のある営業形態を風俗営業として指定しています。なので開業する飲食店の営業形態が風俗営業に該当する場合、当然ですが行政に届出が必要となります。届出をしないで営業を開始してしまうと罰則が課せられるため、事前に営業形態が風俗営業に接触するのかの確認が必要となります。そんなこと知らなかったでは済まないですし、罰則を受けることにもなるので「風営法」について理解を深めなければなりません。
◆一般的な飲食店の開業に「風営法」は関係ある?
一般的な飲食店を開業する場合、「風営法」が関係することはあるのでしょうか。多くの人は関係ないだろうと考えるかと思いますが、場合によっては関係することもありますので注意が必要です。
◇接待を中心とする飲食店か
「風営法」の1号営業における接待とはどういったものなのか考えてみます。風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について(通達)に接待の定義は、「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」と書かれています。歓楽的雰囲気という非常にわかりにくい表現ですが、「特定の客又は客のグループに対して単なる飲食行為に通常伴う役務の提供を超える程度の会話やサービス行為等を行うことである。」と別に説明されており、接待自体をサービスのメインとして提供すると「風営法」の1号営業に該当する可能性が出てきます。
◇客席の明るさが10ルクス以下となっているか
「風営法」の2号営業における客席の明るさが10ルクス以下とはどのくらいの明るさでしょうか。イメージとしては、ロウソクの火くらいの明るさでテーブル席で正面に座った相手の顔が何とか見える程度です。接客をしなくても照明を10ルクス以下として営業する場合は、風俗営業とみなされる可能性があります。
◇客室が区画されているか
ボックス席や個室など見通すことが難しく客席が5㎡以下の場合、「風営法」で規定する3号営業とみなされる可能性があります。仕切り、カーテン、衝立などで見通すことが難しい状況に該当します。客室の広さについては、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行規則第99条1項(深夜における飲食店営業の営業所の技術上の基準)において「客室の床面積は、一室の床面積を九・五平方メートル以上とすること。ただし、客室の数が一室のみである場合は、この限りでない。」と規定しているので深夜に飲食店を営業する場合は、事前に該当しないかのチェックが必要です。
◇店舗内にダーツ、ゲーム機、カラオケを設置しているか
店舗内にダーツ、ゲーム機、カラオケが設置されている場合、風俗営業(「風営法」に規定する4号営業または5号営業)とみなされる可能性があります。ただし、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について(通達)の解釈によると店舗の片隅に1台ダーツ、ゲーム機、カラオケなどの遊戯設備を設置する場合には「風営法」に該当しないものと考えられています。これらは射幸心をそそるようなゲームが対象となりますが、判断基準としては、遊技設備設置部分を含む店舗の1フロアの客の用に供される部分の床面積に対して、客の遊技の用に供される部分の床面積が占める割合が10パーセントを超えない場合(10%ルール)は適用しないとしています。ただし、10%を超えなければ風俗営業許可申請がいらないということであって、何かしら「風営法」の規定に違反するようなことがあれば罰せられることもあるので注意してください。
◆風俗営業許可が必要な飲食店等の営業形態
「風営法」に規定する風俗営業には、接待飲食等営業と性風俗関連特殊営業の2種類があります。本記事では前者の接待飲食等営業について詳しく説明をしていきます。接待飲食等営業は以下の5区分(1号から5号)に分類されています。
◇1号営業(社交飲食店)
1号営業とは、カフェ、バーその他設備を設けて客の接待をして飲食させる営業形態が該当します。スナックやキャバクラなどが代表的ですが、料亭もここに含まれます。
◇2号営業(低照度飲食店)
2号営業とは、カフェ、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、客席の明るさを10ルクス以下として営む営業形態が該当します。2号営業は1号営業と異なり接待ができません。
◇3号営業(区画席飲食店)
3号営業とは、カフェ、バーその他設備を設けて飲食させる営業で、他から見通すことが困難であり、かつ、その広さが5平方メートル以下である客席を設けて営む営業形態が該当します。個室居酒屋やカップル喫茶などが対象となる可能性があります。
◇4号営業(マージャン店、パチンコ店など)
4号営業とは、マージャン店、パチンコ店など客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業形態が該当します。
◇5号営業(ゲームセンターなど)
スロットマシン、テレビゲーム機その他の遊技設備(具体的にはゲームセンターなどを指します。)で、本来の用途以外の用途として射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができるものを備える店舗、その他これに類する区画された施設において当該遊技設備により客に遊技をさせる営業形態が該当します。
参考:風俗営業等業種一覧 – 警視庁ホームページ
◆風俗営業許可の要件
風俗営業許可が必要となる飲食店は、誰でも、どこでも、どのような営業所であってもできるわけではありません。「風営法」の制約には大きく以下の人的要件、場所的要件、構造・設備上の3つの要件があり、それらを満たさなければなりません。
◇人的要件
まずは、人的要件です。営業者および管理者が以下のいずれかに該当する場合(「風営法」第4条1項に規定)は、風俗営業許可を受けることができません。1つ1つ該当するかどうかの確認をしてください。
1.破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
2.1年以上の懲役若しくは禁錮の刑に処せられ、または一定の罪を犯して1年未満の懲役若しくは罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者
3.集団的に、または常習的に暴力的不法行為等を行うおそれのある者
4.アルコール、麻薬、大麻、アヘンまたは覚せい剤の中毒者
5.心身の故障により風俗営業の業務を適正に実施することができない者
6.風俗営業の許可を取り消されて5年を経過しない者
7.営業に関して成年者と同一の能力を有しない未成年者
8.法人の役員、法定代理人が上記の1から6までのいずれかに該当する者がいるとき
◇場所的要件
風俗営業はあらゆる場所で営業することができるわけではありません。場所的要件をクリアする必要があります。この場所的要件は風俗営業の許可を受けられる場所かどうかという要件で、用途地域規制と保全対象施設からの距離制限の2つがあります。
・用途地域規制
風俗営業ができる用途地域とできない用途地域に分けられています。条例において風俗営業を住居系の用途地域で禁止していることが多くあります。東京都においては、住居集合地域として住居系の用途地域を指定して風俗営業を禁止しています。各都道府県によって運用に違いがあったりすることもあるので行政の窓口に確認をするようにしてください。
【風俗営業の可能な地域】
・商業地域
・近隣商業地域
・準工業地域
・工業地域
・工業専用地域
・用途地域の指定のない(無指定)区域
ここで注意すべきことは、建築基準法との比較です。東京都都市整備局のホームページに掲載されている用途地域による建築物の用途制限の概要によると、建築基準法上では営業することができないとされる用途地域でも風営法上では営業することができることになっていて、矛盾している部分がいつくかありあます。これについては、所轄官庁が異なることや法目的の違いから建築基準法ではNGであっても風俗営業許可を受けられることが多いようです。但し、都道府県によっては建築基準法の規定を持ち出してくることも考えられます。用途地域に関する詳細は「飲食店と用途地域、その場所で出店・開業はできるのか!?」を確認してください。
・保全対象施設からの距離制限
用途地域規制に加えて保全対象施設が一定の距離以内にないことが風俗営業許可を受ける上での要件になります。保全対象施設とは、風俗営業から有害な影響を受けないよう一定の規制距離による保護を受ける施設で、規制距離内に保全対象施設があると風俗営業許可を受けることができないので必ず調査が必要となります。また、保全対象施設の指定は、都道府県の条例によって異なるので行政の窓口に確認をするようにしてください。
・学校
幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学、盲学校、養護学校などが該当します。大学のサテライトキャンパスもこれに含まれます。
・病院
歯科医院を含む医療施設で病床が20以上のものが該当します。東京都の場合、第一種助産施設も病院に含まれることになります。
・診療所
歯科医院を含む医療施設で病床が19以下のものが該当します。病院と比べると規模が小さくなるため、距離規制が緩和されます。東京都で商業地域の場合、病院は20メートル、診療所は10メートル以上離れていることが要件です。
・児童福祉施設
助産施設、保育所(認可保育園)、児童養護施設、児童厚生施設、児童発達支援センターなどが該当します。その他、児童遊園に該当する公園が児童厚生施設に含まれるので注意してください。東京都の場合、児童福祉施設(助産施設を除く)は、商業地域で50メートル、近隣商業地域で100メートル以上営業所から離れていなければなりません。
・図書館
公立の図書館、私立の図書館どちらも保全対象施設になります。区役所の中に図書館が存在する場合、見落としがちなので注意してください。東京都の場合、営業所が図書館から商業地域で50メートル、近隣商業地域で100メートル以上離れていなければなりません。
・建設予定地
建設予定地も保全対象施設の対象です。建設予定地に保全対象施設が建設されるのであれば該当することになるので行政に事前に確認してください。
◇構造・設備上の要件
「風営法」では営業所の構造や設備が国家公安委員会規則で規定する技術上の基準に適合しなければならず、これに適合しない場合は、許可をしてはならないことになっています。ここではスナックやキャバクラなどの社交飲食店に必要な1号営業について構造・設備等の要件を記載していきます。なお、1号営業から5号営業までそれぞれ構造・設備上の要件は異なるので注意してください。
1.客室の床面積は1室16.5㎡以上、和室の場合は、9.5㎡以上、但し、客室が1室の場合は制限がありません。
2.客室の内部が外部から容易に見通すことができないこと。
3.客室の内部に見通しを妨げるものを設けないこと。
4.善良の風俗等を害するおそれのある写真、広告物、装飾などを設けないこと。
5.客室の出入口に施錠の設備を設けないこと。
6.照度について、5ルクス以下とならないように維持されるため必要な構造または設備であること。
7.騒音、振動の数値が条例で定める基準以下とならないように必要な構造または設備を有すること。
店舗の内装工事が必要となる場合、事前に基準に適合できるように内装会社と十分な打ち合わせをしてください。
◆「風営法」がからむ飲食店の居抜き店舗における注意点
飲食店の居抜き店舗をそのまま引き継いで営業しようとする場合、居抜き店舗のメリットばかりに目が行き過ぎて、肝心なことを見落としがちです。スナックなどのように「風営法」がからむような業態は注意が必要です。スナックの居抜き店舗を活用してそのままスナックを営業する場合、これまで無許可で営業してきた、風俗営業のできない用途地域に存していたなどといったリスクもゼロではありません。可能性としては低いかもしれませんが、もしそうであった場合に行政から営業停止命令など不利益処分を受けてしまうことも考えられます。また、スナック以外の飲食店の居抜き店舗をスナックとして活用する場合、用途地域などの場所的要件の他、構造・設備上の要件を満たしていない可能性もあるので注意が必要です。これらのリスクを回避するためにも物件を契約する前までに行政書士などの専門家に事前に相談することをおすすめします。
◆風俗営業許可申請の流れ
風俗営業許可申請のおおまかな流れは以下のとおりとなります。必ずしもこの順番通りではなく状況によっては前後または平行して行うこともあります。
1.調査
風俗営業許可の要件に問題がないかの調査をします。ここをおろそかにして進めてしまうと後に申請の段階になって風俗営業許可が取得できないことが判明した場合、大きな損失が発生してしまいます。
2.物件を借りる
1の調査にて問題がないと判断した場合、物件の賃貸借契約を締結します。
3.店舗の内装工事
内装工事を行う際は、見通しを妨げる構造にしない、二重扉に鍵を設置しないなど風営法の関連法令等に適合させて行う必要があります。
4.飲食店営業許可の取得
飲食店の営業許可は店舗の所在地を管轄する保健所に対して申請を行います。飲食店営業許可が下りる前であっても飲食店営業許可申請時にもらう受領証を添付することで風俗営業許可の申請をすることができます。
5.店舗の測量
店舗内の全ての壁、椅子およびテーブルの位置や高さをレーザー距離計やスチールメジャーを使用して測ります。後日行われる実査のため、より正確に測る必要があります。実査にて大きな誤差が生じた場合、申請が通らないことになります。
6.必要書類の収集
申請書に添付する必要書類を収集します。これには様々なものがあります。具体的には建物の謄本、物件所有者の承諾書、住民票、証明写真、登記されていないことの証明書、身分証明書などです。このなかで注意が必要なものは身分証明書です。身分証明書というと運転免許証などのコピーを想像するのですが、それでは駄目で本籍地の役所でのみ発行ができる公的書類になります。
7.申請書および図面の作成
都道府県の公安委員会のホームページより申請書等をダウンロードし必要事項を記載していきます。図面については、店舗の測量で図った数値をもとに図面を作成していきます。
8.風俗営業許可申請
申請書および図面の作成が完了し、全ての書類等がそろったら、店舗の所在地を管轄する警察署の生活安全課に申請をしてください。警察署へは事前にアポイントをとってから行くようにしてください。
9.実査(実地調査)
所轄警察署の担当官や風俗環境浄化協会の担当者が実際に店舗を訪れ、申請者の立会のもとで営業所の構造や設備などの現況が申請内容と異ならないか厳しくチェックをします。
10.風俗営業許可証の交付
実査で問題なければ風俗営業が許可されます。風俗営業許可証が交付されたら当該許可証を営業所の見やすい場所に掲示する義務があります。
風俗営業許可申請は他の飲食店営業の関する申請と比較して難易度が高くなることが想定できます。
◆「風営法」違反の罰則
「風営法」の規制対象となる営業は多種多様でそれぞれの種別に応じた規制を設けています。ここでは、多くに共通する規制について取り上げていきます。
・風俗営業許可なく営業をした(「風営法第3条)場合、不正な手段(「風営法」第49条)により取得した場合、名義貸しの禁止(「風営法」第11条)に違反した場合、2年以下の懲役または200万円以下の罰金(懲役と罰金の併科もある)が科されることがあります。
・風俗営業許可証の提示義務(「風営法」第6条)に違反した場合、30万円の罰金刑が科されることがあります。
・風俗営業者の遵守事項(「風営法」第56条)について違反があった場合、行為者である経営者または従業員だけでなく、法人も罰せられることとなります。
・風俗営業を行う者の禁止行為(「風営法」第22条)に違反した場合
1.客引き
2.客引きのための立ちふさがり、またはつきまとい
3.18歳未満の者に接待をさせる
4.23時から翌日6時の間までの時間に18歳未満の者を客に接する業務に従事させる
5.18歳未満の者を客として立ち入らせる
6.20歳未満の者に酒またはたばこを提供すること
上記の1または2に違反した場合は、6ヶ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金が科せられることがあります。3または4から6に違反した場合は、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金が科せられることがあります。いずれも懲役と罰金の併科もあります。ここでいう風俗営業を営む者とは,風俗営業許可を受けた営業者に限られず、無許可営業者も含まれます。
◆深夜に酒類を提供する場合に必要な許可
「風営法」の規定では深夜0時から午前6時までの営業を禁止としています(他に条例により午前1時までの営業が可能な地域もあります。)。ただし、接待をしない飲食店であれば深夜0時以降の営業が可能です。この深夜時間帯に酒類を提供する居酒屋やバーなどの業態(アルコールの提供がメインの業態でラーメン店や牛丼店などのように常態として通常主食と認められる食事を提供して営むものを除く)の場合、深夜酒類提供飲食店という届出をしなければなりません。詳しくは「深夜酒類提供飲食店営業届が必要な要件と届出の手続きや注意点を解説」を確認してください。
◆おわりに
これから開業しようとする飲食店の営業形態が「風営法」に該当するのかどうか、該当する場合に必要となる風俗営業許可の要件、居抜き店舗における注意点、風俗営業許可申請の流れ、許可の要件、違反の際の罰則、その他関係する事項について説明してきました。「風営法」は関係ないかも、などといって自身で判断してはいけません。専門の行政書士などに事前に確認をし、後で後悔しないためにも慎重にすすめるようにしてください。
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