開業ノウハウ

飲食店と用途地域、その場所で出店・開業はできるのか!?

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用途地域によっては飲食店が出店できない場所であったり、出店できたとしても面積などの制限を受けたりすることがあります。このような場所で過去に飲食店が営業をしていた実績があったとしてもそれは都市計画法違反の状態で営業をしていた場合や、そもそも無許可で営業をしていたといったことも可能性としては考えられるので自身の感覚で大丈夫だなと安易に判断することは禁物です。
 
最悪のケースとして、せっかくオープンしたのにその後に都市計画法違反として行政から営業停止処分が下さることも考えらます。これはとても大きなリスクです。そういったリスクを回避するためにもその場所(用途地域)で飲食店が出店・開業できるのかどうかを物件の賃貸借契約を締結する前に事前に調べておく必要があります。好立地、自身の希望どおりの物件だからといってすぐに飛びつくことはやめましょう。
 


 

◆用途地域とは何か?

都市計画法の目的に、都市計画の内容及びその決定手続、都市計画制限、都市計画事業その他都市計画に関し必要な事項を定めることにより、都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与すること。と規定しています。都市における土地利用は、類似した施設等が集積していると、それぞれの用途にあった環境を構築することが可能となり、より効率的な活動が行われることが期待できます。逆に、異なる土地利用がされてしまうと、無秩序となってしまい、環境の悪化をまねき都市計画法の目的を達成することが困難となってしまいます。そこで、都市計画では都市をいくつかの種類に区分し、これを用途地域として規定しています。
 
都市計画では、住居に関する用途地域が8つ、商業に関する用途地域が2つ、工業に関する用途地域が3つの合計13の用途地域に分けられています。
※2018年4月1日より新たな用途地域として田園住居地域が追加となりました。
 
・住居に関する用途地域(8地域)
第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域、準工業地域、田園住居地域
・商業に関する用途地域(2地域)
近隣商業地域、商業地域
・工業に関する用途地域(3地域)
準工業地域、工業地域、工業専用地域
 

◆飲食店を出店・開業することができる(できない)用途地域

◇第一種低層住居専用地域

都市計画法第9条1項に第一種低層住居専用地域は、低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域。と規定しています。そのため、この用途地域では、以下のとおり、住居に関する用途地域の中では最も厳しい制限がかけられています。
 
・兼用住宅(店舗兼住宅)で、非住宅部分の床面積が、50㎡以下かつ建築物の延べ面積の2分の1未満のもののみ飲食店を出店・開業することが可能。
※ここで言う兼用住宅(店舗兼住宅)とは、店舗と住宅の行ききできる住宅を指します。住宅に住みながら店舗を経営するといったイメージです。他方、店舗と住宅の行ききができない構造のものは併用住宅と言い、この併用住宅では飲食店を出店・開業することができません。
 

◇第二種低層住居専用地域

都市計画法第9条2項に第二種低層住居専用地域は、主として低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域。と規定しています。この用途地域では、第一種低層住居専用地域と比較して若干緩和されるものの、以下のとおり、依然として厳しい制限がかけられています。
 
・兼用住宅(店舗兼住宅)で、非住宅部分の床面積が、50㎡以下かつ建築物の延べ面積の2分の1未満のものであれば飲食店を出店・開業することが可能。
※兼用住宅の考え方は第一種低層住居専用地域と同様です。
・2階以下で、かつ店舗等の床面積が150㎡以下であれば喫茶店を出店・開業することが可能。
 

◇第一種中高層住居専用地域

都市計画法第9条3項に第一種中高層住居専用地域は、中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域。と規定しています。この用途地域では、低層住居専用地域に比べ、以下のとおり、飲食店の出店・開業についての制限が緩和されています。
 
・店舗等の床面積が500㎡以下で、かつ2階以下であれば飲食店を出店・開業することが可能。
 

◇第二種中高層住居専用地域

都市計画法第9条4項に第二種中高層住居専用地域は、主として中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域。と規定しています。この用途地域では、第一種中高層住居専用地域と比べ、以下のとおり、面積制限がより緩和されています。
 
・店舗等の床面積が1,500㎡以下で、かつ2階以下であれば飲食店を出店・開業することが可能。
 

◇第一種住居地域

都市計画法第9条5項に第一種住居地域は、住居の環境を保護するため定める地域。と規定しています。この用途地域では、ほぼ制限なく飲食店を出店・開業することができます。
 

◇第二種住居地域

都市計画法第9条6項に第二種住居地域は、主として住居の環境を保護するため定める地域。と規定しています。この用途地域では、第一種住居地域同様にほぼ制限なく飲食店を出店・開業することができます。
 

◇準住居地域

都市計画法第9条7項に準住居地域は、道路の沿道としての地域の特性にふさわしい業務の利便の増進を図りつつ、これと調和した住居の環境を保護するため定める地域。と規定しています。この用途地域もほぼ制限なく飲食店を出店・開業することができます。
 

◇田園住居地域

都市計画法第9条8項に田園住居地域は、農業の利便の増進を図りつつ、これと調和した低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域。と規定しています。この用途地域では、田園住居地域のみの特徴として以下のような制限があります。
 
・店舗等の床面積が500㎡以下で、かつ2階以下であれば、その地域で生産された農産物を使用する場合は、農産物直売所(店舗)や農家レストラン(飲食店)を出店・開業することが可能。
・その地域で生産された農産物を使用しない場合は、店舗等の床面積が150㎡以下で、かつ2階以下であれば、店舗や飲食店を出店・開業することが可能。
 

◇近隣商業地域

都市計画法第9条9項に近隣商業地域は、近隣の住宅地の住民に対する日用品の供給を行うことを主たる内容とする商業その他の業務の利便を増進するため定める地域。と規定しています。この用途地域では、大規模商業施設の建設が可能となり、飲食店においても制限なく出店・開業することができます。
 

◇商業地域

都市計画法第9条10項に商業地域は、主として商業その他の業務の利便を増進するため定める地域。と規定しています。この用途地域は、その名のとおり、商業のための区域なので制限なく飲食店を出店・開業することができます。
 

◇準工業地域

都市計画法第9条11項に準工業地域は、主として環境の悪化をもたらすおそれのない工業の利便を増進するため定める地域。と規定しています。この用途地域では、軽工業の工場はほとんど建築できる区域ですが、工業専用の区域ではないので、制限なく飲食店を出店・開業することができます。
 

◇工業地域

都市計画法第9条12項に工業地域は、主として工業の利便を増進するため定める地域。と規定しています。この用途地域では、あらゆる工場が建築できる区域ですが、工業専用の区域ではないので制限なく飲食店を出店・開業することができます。
 

◇工業専用地域

都市計画法第9条13項に工業専用地域は、工業の利便を増進するため定める地域。と規定しています。この用途地域は、あらゆる工場が建設できる工場のための専用区域なので飲食店を出店・開業することができません。
 

◇用途地域の指定のない(無指定)区域

上記の13種の用途地域が指定されていない区域(無指定)で非線引き都市計画区域における一部の地域や都市計画区域外などに存在します。この区域では、制限なく飲食店を出店・開業することができます。
 
〇参考:都市計画法 – e-Gov法令検索
 

◆用途地域における飲食店の出店・開業可不可まとめ

飲食店を出店・開業するのに制限のない用途地域
・第一種住居地域
・第二種住居地域
・準住居地域
・近隣商業地域
・商業地域
・準工業地域
・工業地域
・用途地域の指定のない(無指定)区域
 
飲食店を出店・開業するのに制限のある用途地域
・第一種低層住居専用地域
・第二種低層住居専用地域
・第一種中高層住居専用地域
・第二種中高層住居専用地域
・田園住居地域
 
飲食店を出店・開業できない用途地域
・工業専用地域
 
飲食店の出店・開業について制限のある各用途地域は、具体的な制限の範囲や内容について、行政の運用の問題もあると考えられるので、念のため、一級建築士に相談されるか、または、行政の窓口に直接問い合わせてみてください。
 

◆どの用途地域に該当するのかを調べる方法は?

どの用途地域に該当するのかを調べる方法は、行政の窓口に直接問い合わせる方法の他、東京都であれば都市整備局のHPで住所等を入力することで調べることができます。神奈川県、千葉県、埼玉県については、各行政において用途地域がわかる地図等をHP上で公表しているところもあるのですが、そうでないところもあったりするので、直接、窓口に問い合わせる方がはやいかもしれません。
 
〇東京都都市整備局:都市計画情報等インターネット提供サービス
 

◇建物が他の用途地域をまたいでいる、または用途地域の境にある場合

ここで用途地域について注意しなければならないことがあります。行政のHPで公表されている用途地域を確認しても目視では判断しにくい位置に建物があったりすることがあります。建物の位置が用途地域内に全て収まっていなければいけないので、他の用途地域をまたいでいる場合や境にある場合、またはそれらが疑われる場合には、自身の感覚で判断せずに、必ず行政の窓口に確認するようにしてください。
 

◆特別用途地区とは何か?その具体例と制限などの注意点

特別用途地区とは、都市計画法に定められた地域地区のひとつで、同法9条14項に用途地域内の一定の地区における当該地区の特性にふさわしい土地利用の増進、環境の保護等の特別の目的の実現を図るため当該用途地域の指定を補完して定める地区とする。と規定されています。わかりやすく言うと、すでに用途地域が指定されている区域に重ねて特別用途地区が指定され、用途地域の制限だけでは不十分な場合に、さらに詳細な制限を追加・補完したり、逆に制限を緩和したりする地区のことです。文教地区、小売店舗地区、娯楽・レクリェーション地区、観光地区などがこれにあたります。
 

◇文教地区

それでは、飲食店の出店・開業において特にかかわりの強いと思われる特別用途地区の1つ文教地区について具体的にみてみます。文教地区とは、大学などの教育研究施設や図書館などの文化施設がある程度集積した地区を対象にして指定されます。文教地区に指定されると、教育・研究、文化活動に悪影響を及ぼすような施設の建築が制限されることになります。なお、東京都では、東京都文教地区建築条例により、文教地区は、建築制限の程度によって、第一種文教地区と第二種文教地区に分けられています。
 

・第一種文教地区で飲食店を出店・開業することはできるのか?

第一種文教地区は、主に、住居に関する用途地域または学校などの教育文化施設の周囲に指定されます。この地区では、スナックなどの風俗営業許可の必要な業態は出店・開業することができません。また、環境を害し、又は風俗を乱すおそれがあると認めて知事が指定するものも同様にできません。なお、飲食店の出店・開業は特に制限がありません。
 

・第二種文教地区で飲食店を出店・開業することはできるのか?

第二種文教地区は、主に、住居に関する用途地域以外の用途地域や通学路等の区域に指定されます。第一種文教地区との違いは、飲食店の出店・開業の制限があることです。それ以外の制限については、第一種文教地区と同様となります。
 
・共同住宅の主として住戸または住室のある階に飲食店を出店・開業することができません。
・それ以外の飲食店は第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域内では出店・開業することができません。
・ただし、第二種中高層住居専用地域内にもうける飲食店にあっては酒類提供飲食店(業態として、通常主食と認められる食事を提供して営業するものを除く。)に限ります。

 
〇参考:東京都文教地区建築条例(渋谷区HP)
 

◆その他の制限などの注意点

◇深夜酒類提供飲食店営業届の必要な店舗が出店・開業できる(できない)用途地域

深夜酒類提供飲食店とは、深夜0時から午前6時までの深夜時簡帯に主に酒類を提供する飲食店(居酒屋やバーなど)の営業のことを言います。この営業には深夜酒類提供飲食店営業として営業開始10日前までに所轄の警察所に届け出なければなりません。ただし、ここで注意が必要なのは場所的要件、つまりそもそも深夜酒類提供飲食店営業ができない用途地域があることです。各自治体の条例により要件は異なりますが、原則的に営業禁止区域(用途地域)となっているのは以下のとおりとなります。
 
・第一種低層住居専用地域
・第二種低層住居専用地域
・第一種中高層住居専用地域
・第二種中高層住居専用地域
・第一種住居地域
・第二種住居地域
・準住居地域
・田園住居地域
※住居地域および準住居地域については、商業地域の周囲30m以内に位置していれば営業できます。なお、工業専用地域については、そもそも飲食店を出店・開業できない用途地域なので、当然、深夜酒類提供飲食店営業もできません。
 
深夜酒類提供飲食店営業ができる用途地域
・近隣商業地域
・商業地域
・準工業地域
・工業地域
・用途地域の指定のない(無指定)区域
※深夜酒類提供飲食店は後述する保全対象施設の制限は受けません。
 
上記のほか、営業所における設備要件などもあるのであわせて確認をしてください。
 

◇スナックなどの風俗営業1号許可が必要な店舗が出店・開業できる(できない)用途地域

スナックなどの店舗を出店・開業する場合、まずは飲食店営業許可をとらなければなりません。その上でプラスして風俗営業1号許可をとることになります。この風俗営業を行うには大きく分けて場所的要件、人的要件、構造的要件の3つ全てを満たさなければ許可がおりません。本件では場所的要件、つまり風俗営業ができる(できない)用途地域について説明します。
 
スナックなどの風俗営業ができない用途地域
・第一種低層住居専用地域
・第二種低層住居専用地域
・第一種中高層住居専用地域
・第二種中高層住居専用地域
・第一種住居地域
・第二種住居地域
・田園住居地域
・準住居地域
 
スナックなどの風俗営業ができる用途地域
・近隣商業地域
・商業地域
・準工業地域
・工業地域
・工業専用地域
・用途地域の指定のない(無指定)区域
 
風営法上は営業可能な用途地域でも建築基準法上はできないことになっているものがいくつかあります。建築基準法上できない用途地域でも実際には風営法の規定をクリアしていれば風俗営業許可を受けられることがほとんどのようです。念のため、矛盾している部分については、行政の運用上の問題もあるかと思われるので事前に確認をするようにしてください。
 
上記の用途地域の制限に加えて後述する保全対象施設が一定の距離以内にないことがスナックなどの風俗営業ができるかの要件となります。そのほか、人的要件、構造的要件についてもあわせてクリアしなければなりません。風営法に関する詳細は「飲食店開業と「風営法」の関係、風俗営業許可が必要な営業形態は?」を確認してください。
 

◇保全対象施設による制限

スナックなど風俗営業1号許可が必要な業態を出店・開業するためには、前述のとおり用途地域が出店可能区域にあることに加えて保全対象施設がないことの2つの要件を満たさなくてはなりませせん。保全対象施設とは、具体的には、学校、図書館、児童福祉施設、病院、診療所を指します。店舗のある場所から、規則で定める一定の距離内に保全対象施設があると出店・開業することができません。(例外として、保全対象の除外となる特定地域も存在します。)
 
ここまで様々な制限を見てきましたが、上記のほか、建築協定や地区計画などで飲食店の出店・開業が制限を受ける可能性がありますので、物件の賃貸借契約を締結する前に事前に行政の窓口に問い合わせをすることを忘れないでください。

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飲食店開業応援マガジン[RESTA(レスタ)]編集部
 

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