養老乃瀧が大衆食堂「韓激」で狙う“町中華”のコリアン版とは
“韓流トレンド”に新しい動き 後編
「養老乃瀧」「一軒め酒場」など全国に居酒屋を約300店舗擁する養老乃瀧株式会社(本社/東京都豊島区、代表/矢満田敏之)では昨年11月より「大衆食堂 韓激」(以下、韓激)の店舗展開を開始した。南砂町駅前店(東京都江東区)を皮切りに、京成曳舟店(東京都墨田区)、月島店(東京都中央区)、そしてこの3月に新潟駅前店(新潟市)とオープンした。これまでは既存の業態から転換したものであるが、近く初めて巣鴨北口店を新規に出店し、さらに池袋本社ビル3階での出店も計画されている。同社取締役の谷酒匡俊氏によると「この2~3カ月で数店舗を展開していきたい」という。
【「韓激」の現状の4店舗はすべて養老乃瀧グループ既存店からの転換だが、いずれの店舗とも立ち上がりが早く好調だ。】
新潟店では女子高生が利用して“韓流”を楽しむ
「韓激」の特徴は、“メニューの絞り込み”と“低価格”である。前者に関しては、「冷菜 サラダ」7品、「キムチ」6品、「のり巻」5品、「炒め物」5品、「熱旨!韓国風餃子」3品、「韓式 餅料理」3品、「シェア飯」2品、「逸品料理」14品、「韓式 麺料理・ご飯 スープ」8品、「デザート」3品で五十数品となっている。後者では、品目数が多い順で述べると(税別表示)、200円代23品目、300円代15品目、400円代13品目となっている。
酒類も同様の発想。ビール、ウイスキー、ワイン、サワー、日本酒ともメジャーな酒類は全部そろっている。これにマッコリやチャミスル、美酢といった韓国のアルコール、ノンアルコールをラインアップ。一例を挙げると「角ハイボール」330円(税込、以下同)、日本酒(白鶴)「熱燗・冷酒」209円、「いつものレモンサワー」209円となっている。
フードメニューの中から「韓激 おすすめ」として「スンドゥブチゲ」352円、「石焼ビビンバ」528円、「チャプチェ」319円、「キンパ」385円、「ケランチム」(韓国風茶碗蒸し)528円、「ニラチヂミ」495円がセレクトされている。
【空中階にある月島店は1階の“おすすめメニュー”を掲示。ほかの既存の価格に対して6~7掛けあたりになっている。】
谷酒氏によると、客単価は当初2300円を想定していたが、現状は2200円となっているという。原価は30%。メインターゲットは30代~50代の男性客を想定していたが、実際に開けてみると30代~40代のママ友的な女性グループや、20代カップルの利用が多い。オープンしたばかりの新潟駅前店では女子高生の利用が見られ客単価は1900円となっている。“韓流”は若い女性にとって人気を博していて、それが日常的にはまだ少ない地方都市では強烈なコンテンツとなるのであろう。
メジャーなメニューによって“大衆食堂”に徹する
「韓激」が開発された経緯について谷酒氏はこう語る。
「コロナ禍にあって新しい業態をつくる必要性を感じていた。そんな中で“韓流”は流行っていたが、われわれは“健康的”という発想から韓国料理に入っていった。お酒もさることながら野菜を中心とした食事処となることを想定した。」
このアイデアの元となったのは2021年の春、西武球場(埼玉県所沢市)に出店した店舗「コリアンダイニング 韓激」であった。「特製プルコギ丼」「韓国冷麺」「特製キンパ」といった弁当を800~900円で販売。この店は人気を博し、市中のリアル店舗で“食事もできる酒場”に可能性を見出すようになった。
(谷酒氏)「われわれもK-POPの人気ぶりを見ていて“韓流”の飲食店は繁盛すると思っていた。ただしK-POPの映像を流したり、内装にネオン管をつかったりするアプローチでなく、韓国料理をしっかりと食べていただきたいというメニュー構成にして、店名にも“大衆食堂”とつけた。」
現状で五十数品目という品揃えはついてどのような発想を抱いているのだろうか。
「これ以上増やす必要はないと思っている。必要とするメニューは、チヂミ、ビビンバ、サムギョプサルといったメジャーどころ。この中からスンドゥブ専門店といった展開もできるが、今の段階では韓国料理に総合的な立ち位置で展開していく。」と谷酒氏は語る。西武球場での実績もあり、ECでのスポット販売なども行い売上をつくっている。
【月島店の開店間際の店内。予約客が増えるなど目的来店がほとんどとなっている。】
メニューを丁寧につくることで人気が高まる
「既に“町中華”という飲食店があるが、日本の大衆韓国料理店はこのような世界になっていくだろう。そこで『韓激』の展開にあたって“和コリアン”という言葉をつくった。韓国そのままの味付けではなく日本のテーストを取り入れてメニューを定着させていく。」
「韓激」が特にアピールしたいメニューは前述した「韓激 おすすめ」の6品。これらをはじめとしたメニューの多くは店内調理を行っている。この丁寧なメニューづくりはお客にダイレクトに伝わる。これらの中で人気ナンバーワンは「ケランチム」(韓国風茶碗蒸し)。小鍋に出汁と魚介類の具材を入れ、卵3個を入れて直火でボリュームたっぷりの茶碗蒸しの状態に整えていくというものだ。現状ラインアップしているメニューの中でも最も手間暇がかかっているという。
【南砂町駅前店の店内。至ってシンプルな内装で“大衆食堂”としての定着を図っている。】
現状コロナ禍にあって、「韓激」は養老乃瀧の業態の中でも立ち上がりは早いという。それは大衆居酒屋の空間の中に、前述したとおりの新しい客層を呼び寄せる力を持っているからであろう。それは養老乃瀧が定義するように「韓国料理」が「和コリアン」として定着しつつある証と言えるだろう。
前編の「『赤から』のブランディング」を含めて、このような“韓流ブーム”の多様性は韓国料理ののびしろが広がっていることを示しているのではないだろうか。
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第三十八弾(前編)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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