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顧客本位で売り方を整え、facebookで引き付ける ~予約が困難な『肉山』の挑戦~

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第三十六弾
予約が困難な『肉山』の挑戦 前編

 
東京・吉祥寺の『肉山』と言えば、飲食店に興味を抱いている人であれば食事をしたことがなくてもインパクトのある店であることは知っている。同店は2012年11月にオープンしてからたちまち大繁盛店になり、予約を取りにくい店となった。そこで「食事をしたことがなくても……」という文言が加わることになる。筆者も仲間からこのような「伝説の『肉山』」のことを聞かされていたが、昨年12月上旬、某社の忘年会に紛れ込んで初体験することができた。
 
『肉山』の料理は「肉料理」である。自前で肉を焼くのではなく店の人が肉を焼いたり揚げたりして、おいしい状態でカットしたものがコース仕立てで運ばれてきて、それを取り分けていただく。肉の塊はゆっくりと丁寧に火が通されていて、食味が柔らかく肉の旨味を味わうことができる。アスパラ、エリンギ、キュウリがお口直しで挟み込まれて、〆のミニカレーが記憶に残る。これで5500円(税込)。アルコールが入って客単価は7500円程度となる。
 
『肉山』オーナーの光山英明氏。全くの素人からの独立開業ながら伝説の繁盛店をつくり上げた。【『肉山』オーナーの光山英明氏。全くの素人からの独立開業ながら伝説の繁盛店をつくり上げた。】
 

1日6人限定の店が70人利用になったわけ

『肉山』を経営するのは株式会社個人商店(本社/東京都武蔵野市、代表/光山英明)。光山氏は1970年4月生まれ、大阪市生野区の出身。野球の名門、上宮高校で野球部の主将を務め、第60回選抜大会に出場。その後、中央大学の野球部で活躍する。卒業後は大阪で会社務めをするが、退社して東京・吉祥寺で飲食業を起こす。光山氏と吉祥寺の縁は、中央大学野球部のグランドが吉祥寺にあったから。
 
この店が、ホルモン酒場 焼酎家「わ」で2002年11月に旧五日市街道沿いの路面にオープン。全くの素人の独立開業、現場で光山氏は「どのようにすればお客様に喜んでいただけるか」ということを考えながら、常に店の改善に努めた。ここで9年間現場に入り、その後1年間は意図的に現場に入らずに世の中の様子を見聞することに努めた。
 
『肉山』の営業は2階から始まり、現在は1階と3階も加わっている。【『肉山』の営業は2階から始まり、現在は1階と3階も加わっている。】
 
そして再び現場に立つことを思い立つ。それが現在の『肉山』で「わ」から100mほどの距離にあり2階の物件、2012年11月にオープンした。そこで現在の料理の提供方法を行った。SNSの時代となり、光山氏はfacebookを同店のアピールに役立てた。
 
オープン当初の『肉山』は、このコースメニューに酒類飲み放題で一人1万円。高級ウイスキーやプレミアムの焼酎を品ぞろえした飲み放題は大層満足度の高いもの。この売り方で1日6人限定の営業していた。光山氏1人とお客6人で、光山氏の話術が評判となり、お客の要望に応えて客席を埋めていくようになった。いつしか24席の店となった。そして「営業時間帯を広げてほしい」という要望から、現在は12時スタート、17時スタート、20時スタート、つまり昼・夜・夜と3回転し1日70人以上が来店する店となった。現在は『肉山』の同じビルで1階にフリーで利用できる居酒屋、3階にプライベートな個室も稼働させている。
 

facebook上“秒”の感覚でお客と交流する

この人気が人気を呼ぶ環境をつくったのがfacebookであった。特にお客に響いたのはキャンセル情報。
 
「『肉山』明日2人キャンセル出ました、とアップすると、それを見た誰かさんと誰かさんが『行きます』となる。そこですかさず私が『締め切ります』という。すると誰かさんが『えー、あっさり』という。こんな具合に“秒”の感覚でお客様とやり取りした。」
 
『肉山』のコースは10品目ほど。肉はゆっくりと丁寧に焼き上げられている。【『肉山』のコースは10品目ほど。肉はゆっくりと丁寧に焼き上げられている。】
 
『肉山』の売り方は、独立開業希望者にもその意欲を掻き立てさせた。『肉山』がオープンして3年後のある日、光山氏の友人が飲食店の経営者を連れてきた。「『肉山』のような商売をしたい」という。そこで研修生として受け入れて、「肉山名古屋」がオープンした。
 
これがきっかけとなり、FCの仕組みができていった。研修期間は1カ月から1カ月半で研究費用をいただく。『肉山』と同等の肉の焼き方を習熟できたら卒業。加盟金は250万円、使用する肉は『肉山』と同じ業者から直送される。店名は「肉山〇〇」と地名をつけるパターンが定着した。ロイヤリティは一律1カ月3万円。このような契約を行っているところは現在12社で、全国に「肉山〇〇」は15店舗ある。開業後の裁量権は全てFCオーナーにあり全く縛りがない。開業後の営業状況のチェックについて、光山氏はネットでそれぞれの店の状況を把握する程度である。
 
3階はプライベートな個室として提供されていて、利用者が重い思いに楽しんでいる。【3階はプライベートな個室として提供されていて、利用者が重い思いに楽しんでいる。】
 
このようにお客との接点のバランスを絶妙に取り、熱烈な人気を築き上げた『肉山』は今新しい売り方とお客との接点を追求するようになった。その試みについて後編で紹介しよう。
 
(後編)に続きます。

 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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