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FCから転じて、故郷の青森料理を柱に繁盛店居酒屋が誕生

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第三十弾
青森料理「ごっつり」 前編

 
コロナ禍で飲食業界はさまざまに揺れている。そのような中でも、新しい取り組みを行い逞しく前進している事例が盛んに見られる。このようなことが出来るのは、経営者にぶれが無いからだ。このようにミッションに基づいて、コロナ禍で新しい売り方にチャレンジしている居酒屋の事例を紹介しよう。
 

青森料理「ごっつり」の繁盛伝説

東京・北千住に「ごっつり」という居酒屋がある。北千住駅東口すぐのところに立ち飲み店の「ごっつり」(5坪の1、2階)、西口から徒歩で5分ほどの商店街に「炭火焼ごっつり」(2階1フロア20坪)。コロナ禍前は前者が月商500万円、後者が700万円という繁盛店であった。
 
北千住駅から徒歩約5分の商店街の2階にある「ごっつり」。大きな「ねぶた」の看板が青森関連の店であることをアピールしている。【北千住駅から徒歩約5分の商店街の2階にある「ごっつり」。大きな「ねぶた」の看板が青森関連の店であることをアピールしている。】
 
これらの店を経営するのは「株式会社ごっつり」で、代表の西村直剛氏は青森県八戸市の出身で店名は八戸の言葉、南部弁に由来する。「一人ほくそ笑んでいる」、または「どや顔」という雰囲気の意味だ。西村氏が「うちの店に関わる人たちが、みんなごっつりしてくれればいい」という願いを込めて付けた。
 
「ごっつり」の料理は青森料理である。魚・肉・野菜の8割を青森から取り寄せている。中でも名物料理は「銀鯖 串焼き」480円(税込)で、「八戸前沖さば」を串に刺したものだ。串の刺し方に工夫がある。半身を4つに分けて、トップがハラ、続いて白身、さらにハラ、白身と続く。脂の旨味→さっぱり→脂の旨味→さっぱりといった具合の食感となる。これが楽しくて、同店の看板商品となっている。
 
「ごっつり」の看板商品となっている「銀鯖 串焼き」1串480円(税込)。串の刺し方の工夫がおいしさを倍加させている。【「ごっつり」の看板商品となっている「銀鯖 串焼き」1串480円(税込)。串の刺し方の工夫がおいしさを倍加させている。】
 
このサバ串は10年ほど前、業態を変えた時に八戸の料理人から教えてもらったもの。八戸の人にとってサバは「またサバか」というほどの日常食である。西村氏がサバ串を初めて教えてもらった時に「何でサバなの」と思っていたが、食べた時にそのおいしさに大層驚いたという。それ以来、西村氏の店には欠かせない商品となった。
 
これがイベントでも人気で、10年ほど前から参加している東京ドームでの「ふるさと祭り東京」では名物料理となっている。コロナ禍となる前の2020年1月に開催された同イベントでは10日間で8000本を販売した。
 
「ごっつり」にはファンが多い。北千住駅はたくさんの線路が乗り入れていることから地の利が良いということもあるだろう。時季に応じて「青森食材の夕べ」というイベントを開催していた。これは魚介類をはじめ青森の旬の食材をふんだんに取り揃え、青森の地酒が飲み放題となるものだ(会費は6000~6500円)。SNSで開催を告知すると50人の定員が30分で満席になった。
 
酒類提供自粛で豪華な定食をラインアップ。こちらは「八戸銀鯖・刺身定食」2000円(税込)。【酒類提供自粛で豪華な定食をラインアップ。こちらは「八戸銀鯖・刺身定食」2000円(税込)。】
 

ホルモン焼き店のFCから転じて、居酒屋を直営

代表の西村氏は1967年11月生まれ。前職は大手物流会社に勤務。営業畑を歩んで昇進し、年商50億円規模の営業所で所長を務めた。後に体調を崩したことから、2007年の年末、40歳を目前にして会社を辞めた。約半年間モラトリアムの日々となり、趣味の釣り三昧の生活を過ごした。
 
ごっつり代表の西村直剛氏。「青森の食材、料理」にこだわることによって経営のぶれが無くなった。【ごっつり代表の西村直剛氏。「青森の食材、料理」にこだわることによって経営のぶれが無くなった。】
 
次の仕事として、ホルモン焼きチェーンの加盟店となろうと考えた。理由は、同チェーンの本部である大阪の店が大層繁盛していたから。当時、東京エリアでの展開が始まったばかりで、この繁盛の流れに乗ろうと判断した。北千住で飲食店を構えることになったのは前職でこのエリアを担当していて土地勘があったから。
 
オープンしてからホルモンブームがあり、ピーク時には客単価3000円、20坪で月商690万円を売り上げた。好調であったことから、その後2年半で4店舗出店した。
そのような時期の、2011年4月に富山県の焼肉店で食中毒事件が起きた。これがきっかけとなり、ホルモン焼き店から撤退することにした。
 
2012月3月にホルモン焼きの加盟店から直営の居酒屋となった。同時に加盟店として課せられていたさまざまな制限から解放された。
しかしながら、解放されたが売り物が定まらない。「経営的にさまようようになった」と西村氏は振り返る。
 
そこで「自分が一番得意というものを商売にしたらいい」ということがひらめいた。四十代半ばに差し掛かり、故郷へのノスタルジアが募っていたことも事実。「自分の田舎のものはいいもんだ。これで勝負をかけよう」――このような具合に、現在の「青森料理の専門店」に切り替えた。そう心を入れ替えてからは、まっすぐに進んでいった。
 
店内の壁は青森料理の品書きで埋め尽くされている。純真さが伝わってくる。【店内の壁は青森料理の品書きで埋め尽くされている。純真さが伝わってくる。】
 
店の壁は想いを発信する場所に見立てて「青森料理」のメニューで埋め尽くしていった。青森の食文化を深掘りできるようになり、メニューの一つ一つが輝いていった。このような店の雰囲気に魅かれ、次第に熱心なファンが増えていった。
 
(後編)に続きます。

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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