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飲食店倒産は過去最高を更新、最低賃金1500円で「休廃業検討」も多数 経営維持に使える補助・助成について知ろう

飲食店の倒産件数が過去最高を更新し続けています。近年の食材や光熱費の高騰が大きな原因ですが、それだけでなく最低賃金の引き上げも利益を圧迫する大きな要素になっています。政府方針の最低賃金目標である1500円への対応は「不可・困難」とする宿泊・飲食業者は約9割にのぼります。最近の飲食店倒産状況や最低賃金上昇の影響、そして使える補助金や助成金についてご紹介していきます。
◆2025年上半期の飲食店倒産状況
帝国データバンクによると、2025年上半期の飲食店の倒産は458件にのぼり、前の年の同じ時期を5.3%上回る結果となりました。3年連続の増加で、年の上半期としては過去最多を更新しています。

飲食店倒産件数の推移
(出所:帝国データバンク「「飲食店」の倒産動向(2025年上半期))
このペースで推移した場合、通年でははじめて900件に到達する可能性があります。業態別には下のようになっています。

業態別の倒産件数(2025年上半期)
(出所:帝国データバンク「「飲食店」の倒産動向(2025年上半期)」)
件数では「酒場・ビヤホール(居酒屋)」の105件が最も多くなっています。また割合として前の年より大幅に増加しているのが「日本料理店(+53.3%)」です。倒産の要因としてはやはり、コロナ禍で受けたダメージから回復途上にあるなかで、特に食材費や人件費など運営コストの増加が影響していることです。収益確保のメドが立たなくなったことで事業を諦めるケースが多くみられたとのことです。
◆最低賃金1500円で「宿泊・飲食」の約25%が「事業継続困難」
しかも、政府の最低賃金目標は「2020年代に全国平均1500円」です。2025年度の実績は全国平均で1121円でしたので、今後まだまだ大幅な賃上げが必要だということになります。*1 この賃上げについて日本商工会議所が全国の中小企業にアンケート調査を実施したところ「宿泊・飲食」業では、約9割の企業が、対応は「不可能・困難」と回答しています。

最低賃金「全国平均1500円」への対応
(出所:日本商工会議所・東京商工会議所「「中小企業における最低賃金の影響に関する調査」集計結果」 p26)
宿泊・飲食業では「対応は不可能」が32.7%、「対応は困難」が57.0%にのぼっています。では政府目標通りに最低賃金の引き上げが行われた場合については、下のような回答が得られています。

最低賃金「全国平均1500円」で事業困難となる企業の割合
(出所:日本商工会議所・東京商工会議所「「中小企業における最低賃金の影響に関する調査」集計結果」 p26)
宿泊・飲食業では24.7%が「収益悪化により、事業継続が困難(廃業・休廃業の検討)」と回答しています。最低賃金の政府目標が達成されれば、飲食業は非常に厳しい状況に追い込まれるということです。しかし政策方針が変わらない限り、いつかは訪れる事態です。
◆賃金引き上げ対応に使える補助金・助成金
ではここからは、最低賃金引き上げへの対応に使える補助金・助成金をみていきましょう。まず厚生労働省が賃金引き上げの支援策として設けている助成金です。賃上げに関連するものをご紹介していきましょう。
◇業務改善助成金

(出所:厚生労働省リーフレット)
設備投資等で業務を合理化し従業員の最低賃金を引き上げた中小企業等に、その費用の一部を助成するというものです。助成額は最大600万円です。こちらは、専門のコールセンター(0120-366-440)で問い合わせなどを受け付けています(平日9:00~17:00)。
◇キャリアアップ助成金

(出所:厚生労働省リーフレット)
パート・アルバイトなどの非正規雇用者の基本給を引き上げた場合に受けられる助成金です。その際、どのように非正規雇用者のキャリアアップを図り賃金を上げるかの計画書の作成が必要です。
◇人材確保等支援助成金

(出所:厚生労働省リーフレット)
こちらは、人材確保のために賃金規定や手当、評価制度などを導入し離職率を低下させた企業に助成金が支払われるというものです。厚生労働省の場合、他にも「働き方改革支援助成金」「人材開発支援助成金」という間接的な形での補助金・助成金が設けられています。厚生労働省が実施する補助や助成については、各都道府県の労働局で問い合わせを受け付けています。まず相談し、自分の会社にはどれが合うか検討してみましょう。
◇小規模事業者持続化補助金
また、全国商工会連合などが賃上げなどのために必要な資金を支援する「小規模事業者持続化補助金」もあります。

(出所:全国商工会連合会「小規模事業者持続化補助金」)
賃金引き上げ特例の適用を受ける場合は、事業所内の最低賃金を50円以上プラスしたことなどが条件です。*3 問い合わせ先は、各地の商工会・商工会議所です。
◇その他
その他には、別の補助金制度の「加点項目」があります。たとえば中小企業省力化投資補助金は業務にデジタルなどを取り入れることで業務の省力化を支援するものですが、最低賃金より40円以上の水準を満たすことなどを目的とすることで、より多く融資を受けられます。またIT補助金では、最低賃金近傍の事業者への補助率を引き上げています。
それぞれ問い合わせ先は以下です。
・中小企業省力化投資補助金:0570‐099‐660、03−4335−7595
・IT補助金2025:0570‐666‐376、050‐3133‐3272
◆東京都では専門家の無料派遣も
また東京都では、中小企業の賃金制度整備を支援するための専門家派遣事業を実施しています。*2 賃上げの手法や賃金・退職金制度等の見直しについて、専門家(社会保険労務士または中小企業診断士)を一定回数無料で派遣するというもので、今の所令和8年1月末までの申請が可能です(申請数が予定に達し次第終了)。問い合わせ先は東京都労働情報センターで、こちらのサイトから申込書などをダウンロードできます。その他、なかには地方自治体が実施している支援制度があります。*4
賃上げの流れは避けられないものと考え、早めに手を打ちましょう。
*1 時々ドットコム「最低賃金、全国平均1121円 66円上げ、目安超え39道府県」
*2 東京都「中小企業の賃金制度整備等支援事業」
*3 全国商工会連合会「小規模事業者持続化補助金<一般型 通常枠>第 18回公募 公募要領 p8-10
*4 朝日新聞ツギノジダイ「賃金の引き上げ支援、各都道府県の独自政策一覧 最低賃金引き上げに対応」
清水 沙矢香(しみず・さやか)
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアや経済誌に寄稿中。
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