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立つ鳥跡を濁さず!最もトラブルになりやすい「退職」について

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社労士 浦辺里香が指南する「はじめての飲食店経営で必要な労働法」Vol.6

 
飲食店に限らず、どの業種の使用者(雇用主)にとっても頭の痛い問題として、「労働者の退職」が挙げられます。
 
たとえば、労働者が自らの意思で退職をする「自己都合による退職」は、退職の時期によってはシフト調整が困難となります。また、再三の指示に従わなかったり、ミスが多すぎて経営に支障をきたしたりする場合、会社(飲食店)側から退職を切り出さなければならなかったり・・・。
 
シリーズ最終回となる今回は、想像以上にシビアな「退職」について確認しましょう。
 

自己都合退職

労働者が何らかの理由で退職を決意した場合は、自己都合による退職となります。一般的には、就業規則や労働条件通知書に「退職に関する事項」の記載があるため、それに沿って退職日の決定や退職届の提出を行います。
 
ところが、使用者からの相談で多いのが、「(人員確保の必要性からも)2ヶ月前までに退職届を出すように言ってあるのに、突然『辞めます』と言われて困っている」というような、ルールを守らない労働者とのトラブルです。
 
決められた期日までに退職届を出さずに、労働者の勝手な都合で「すぐに辞めたい」と告げられて、翌日から出勤しなくなるケースは意外と多いもの。そして、突然の退職で迷惑を被るのは、他でもない現場で働く労働者です。退職者の穴埋めをするために無理を強いられた結果、主力メンバーまでもが退職してしまうという負の連鎖を何度も見てきました。
 
このような事態を防ぐためにも、会社が設定した「退職に関する事項」を守ってもらう必要があります。ちなみに、会社が定めた退職のルールに従わなかった場合、法的措置を含めてどのような対処が可能かというと、残念ながら「何もできない」というのが現実です。
 
労働者から退職の申し出があった場合、「使用者の承認がなくても、2週間前に予告することでいつでも自由に退職することができる」というのが、法律上の決まりです(民法第627条第1項)。逆にいうと、退職の意思表示から2週間が経過すれば労働契約は終了するため、それ以降は出勤命令など使用者から指示を出すことはできなくなります。また、損害賠償請求を行うにしても、実際に会社が受けた損害額を算出するのは難しく、現実的ではありません。
 
よって、退職に関するトラブルを回避するためにも、社内ルールの周知と徹底は当然ながら、日頃から労働者との信頼関係を築いておくことが重要です。風通しの良い労使関係こそが、法律やルール以上に常識ある退職を約束してくれるでしょう。
 

解雇と会社都合退職

一方、労働者からの依願退職ではなく、会社側から退職を促す場合もあります。ドラマなどで、労働者の失態に対して使用者が「解雇してやる!」などと激怒するシーンがありますが、これは大きな過ちです。
 
解雇とは、使用者からの申し出による一方的な労働契約の終了のこと。労働者にとっては生活の基盤を支える「収入」を突然奪われるわけで、とても恐ろしい行為でもあります。そのため、使用者がいつでも自由に解雇を行えるわけではなく、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効となります*1
 
たとえば、解雇の理由として「勤務態度に問題がある」「業務命令に従わない」など、労働者側に落ち度があるケースが挙げられます。しかし、一回の失敗で解雇が認められることはなく、その行為の程度や内容、それによって会社が受けた被害の大きさ、また、労働者が故意にやったかどうかなど様々な事情が考慮された上で、解雇が正当かどうかが裁判所によって判断されます。
 
他にも、解雇が禁止されている期間(労災による療養中、産前産後の休業期間中など)や、解雇が禁止されている理由(労働組合の組合員であること、性別を理由とするもの、育児休業や介護休業をしたことなど)があります。さらに、解雇を行うにあたっての「解雇事由」を就業規則に記載しておかなければならないなど、そう簡単に解雇が成立するわけではないのです。
 
そのため、仮に会社側から退職を申し入れる場合は、一方的に労働契約を終了させる「解雇」ではなく、退職を前提とした話し合いを行い、労働者の合意を得た上で「会社都合による退職」とすることをお勧めします。
 
使用者からすると、指示に従わなかったりミスを繰り返したりする労働者に賃金を支払うことは、ややもすると納得のいかないことかもしれません。しかし、会社の手足となって業務に従事する労働者は、当然ながら会社にとって大切な存在といえます。よって、退職を勧奨する前に、業務内容の見直しや本人の能力に合わせた作業を与えるなど、労働者を活かせる方法を検討しましょう。
 

立つ鳥跡を濁さず

労働者の退職は、会社にとってメリットは少ないですが、労働者にとっては「新たな人生のスタート」でもあります。そして、なにかの縁で出会えたにもかかわらず、軋轢が生じたまま決別するのは残念でなりません。使用者も労働者も、役職や立場を除けば一人の人間です。それぞれがお互いの将来に、幸多からんことを願える関係性を目指しましょう。
 
*1 労働契約の終了に関するルール/厚生労働省
 
文:浦辺里香 特定社会保険労務士、ライター。飲食店などの接客・サービス業を中心に顧問を務める。趣味はブラジリアン柔術(茶帯)、クレー射撃(スキート)。雑記ブログ「URABEを覗く時、URABEもまた、こちらを覗いている。」を、毎日投稿中。
 

 

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