繁盛店への道

集客にかかせない、人気店の気の流れ by FOODEDITOR

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フードプランニングユニット「FOODEDITOR」と考える飲食店のPR企画 Vol.6

 
やっとマスク解禁。稼働しているお客様も戻り、賑やかな活気を取り戻している飲食店も増えてきました。けれど、コロナ前と後では時代も状況も変わり、人材の問題、エネルギー料金の問題、食材の高騰、皆の働きの変化など…。コロナ前の常識をあてこんでもなかなかうまくいきません。でも、時代が加速する中でノウハウだけを追っていても、飲食店として基本的なことができていないと、人を募集しても人はこないし、お客さんも戻ってはきません。では、その基本の基とは?進行は、飲食店の経営も手がける、編集責任者の川瀬亮太(ルーテージ株式会社)。
 


 
FOODEDITOR YUU(以下Y):飲食店にお客さんが戻ってきていますが、どこも人材不足は深刻ですね。私たちも毎日の様に、キッチンスタッフはいないか、ホールスタッフはいないかと相談されます。Vol.1でPRをする以前におさえておきたい基本のこと、一見PRとはなんら関係がなさそうだけれど、おさえておくべきことの話をしました。人材不足についても少し似ていて、いないいないと嘆く前に押さえておくべきことがあるなと思いました。そもそも誰かが働きたいという店であるかな?という。
 
FOODEDITOR TOMOMI(以下T):人材不足だと、少ない人数で日々の営業を回さなくてはならない。そこにきて、お客さんがいつもよりも増して入ってしまったりすると、スタッフは本当に疲弊します。でもこれだけは飲食店である以上、最低限チェック項目として押さえてほしい。
 
□ 店内のクリーンネスをもう一度見直す
□ 良いエネルギーを還元できているか?
□ スタッフはいきいきしている?
 
Y:毎日ルーティンにしている掃除が、雑になっている場所もあるのでは?玄関周り、レジ周り、デシャップ周り。テーブル周りやお手洗いなど、当たり前にできているつもりでも、実際よく見ると見落としがちなところはあるものです。お客さんはよく見ていますよ。
 
T:お会計を支払う時に、レジ周りが煩雑だったり汚れていたりするとがっかりするし、中華料理屋さんやラーメン屋さんなんかでも、床がちょっとでもぬるっとしはじめると、とたんに女性客が減るっていいますよね。だから大手餃子チェーン店や中華料理店では、徹底的に床磨きを日々のルーティンにしているところもあって、そういうところはゆるぎない人気があったりします。
 

 
Y:そうそう、油を使う業態って、本当に床の掃除が大変だと思います。でもだからこそきれいだと好感がもてますよね。先日、昭和初期から人気の大衆焼肉屋に行ったのだけれど、店内はつねにモクモクで匂いもすごい。だから壁も天井もいぶされてほぼ真っ黒なのだけれど、トイレがめちゃくちゃ綺麗でびっくりしました。そこで厨房の水場を見ると、やっぱりそこもちゃんと整頓されている。長く愛されている理由が、ここにあるなと思いました。そう思いかえすと、スタッフの皆も笑顔で元気だったな、と。ひとつの良い印象が、いろいろなポジティブな印象と紐づいてくる。どの逆も大いにあって、悪い印象を持ってしまうと、スタッフの笑顔や美味しさも消されてしまうので残念です。
 
T:そもそもお店の「気」が良いか?って、働くスタッフにとっても、お客様にとっても大事なこと。疲れていてマイナスの気分で料理をされても、絶対おいしいものはできないと思うんです、どんなに食材にこだわろうとも。だから、極力お店のエネルギーが軽やかでスタッフが楽しく仕事をする工夫をしてほしいです。接客の笑顔がよかったり、挨拶してくれる言葉が感じ良かったりすると、お客さんは「また来よう」と思ってくれるし、仕事を探している人にとっても「ここで働きたい」と思ってくれるきっかけになると思うんですよね。
 
Y:見えないことって、見落としがちだけれど、とても大事。オーナーがお店の中で良い「気」をスタッフやお客さんに還元できていなければ、そこで働きたいという人が来てくれるはずがない。
 

 
T:自宅の近所には、多くのコンビニがありますが、その中でとても流行っている場所があるんです。そこは、スタッフの接客がみんなとても良いんです。おそらくオーナーの環境づくりが上手なんだと思います。一度、愛想がないスタッフが入ってしまったときがあったんですが、一瞬でいなくなりました。おそらく居心地が悪かったんでしょう。
 
川瀬:スタッフが働きやすく、いきいきできる環境づくりってどんな工夫があるでしょう?
 
Y:世界から見ても日本の飲食店の労働環境はあまり整備されていなくて、賃金も安い、休みも少ないが通例です。でも、食材、エネルギー料金、家賃の高騰を考えると遅かれ早かれ、賃金の引き上げは余儀なくされ、人件費があげられないところが淘汰されてしまう、という状況になるのでは?という話を、世界のシェフたちとネットワークのある友人シェフが話していました。
 
T:以前、取材をした「ブリアンツァトウキョウ」の様に、大箱のレストランでタブレットでのメニューを導入したことで、かなりスタッフの負担は軽減したと話されていました。
 
最近のAIの発達は目まぐるしいので、システムで業務が楽になるものを選別し、業務負担をなくす努力も必要だと思います。みんながオーナーのような感覚にはなれませんから。自分のアルバイト時代の気持ちを思い出すと、忙しくても忙しくなくても時給は同じという認識でしたし。
 
Y:今後は、オーダーシステムのDX化は加速しそうです。でも、DX化が加速すればするほど、飲食店のサービスにおいては、逆に人のぬくもりやきめ細かいホスピタリティが課題となります。AIと人間ができることとの融合が上手にできるところが脚光を浴びそうです。
 
T:席数が決まった中での成長を図るとなると、単価アップ、回転率と、どうしてもホスピタリティよりも数字を追いかけたくなってしまいます。そうすると、そんなエネルギーがお客様に伝わりがちのように思います。そのため、そもそも働き方という点でも見直しが必要かもしれませんね。今は週4日しか開けていないお店も増えていたり、シェフが店舗を構えるのではなく、いろいろなところで出張シェフをして生計を立てている人もいます。
 
Y:そうですね。私の周りでも、ジプシーシェフ的な動きをしている料理人の方がいます。日本各地の生産者をめぐり、面白い生産者やその土地で出会ったスタッフとともに、短期間のポップアップをして旅をしています。旅をしながらいろんな経験をすることによって、料理の幅も広がり、臨機応変に対応する力や枠に囚われない思考が養えます。留守の間は、東京の店は他の料理人が間借りして営んでいるので、少なくとも家賃分はカバーしてもらえるなど、流動的な動きがよりワクワクなエネルギーを生み出していると思います。
 
T:今回、日本全体が盛り上がったWBCの中で、ダルビッシュ投手がしきりに「楽しく野球をすること」を意識してコミュニケーションを図ったという話題がありました。真剣勝負でピリピリという時代は終わり、真剣に楽しく仕事(野球)をしている姿が印象的でした。もちろんプロなので、楽しいだけではないことは当たり前。充実する時間を持つためには、そのための入念な準備だったり、周りとの協力体制だったりは必須です。でも、それを上から無理に押し付けたり威圧的な空気を出すというスタイルでは、もう人はついてこないと思います。
 
川瀬:まさに若者たちの感覚は変わってきていると思います。時代の変化が速いですよね。
 
Y:経営者が、ひと昔前の飲食店のイメージのままでいると、時代から取り残されていくように思います。毎日ヘロヘロになるまで働いて、休みの日に勉強と称して、外食できている飲食店勤務者がどれくらいいるでしょうか。コロナパンデミックによって、飲食業界から離れた方も多いと思います。外の世界を知ったとき、お休みもきちんととれ、有給消化もでき、勉強する時間があるとなると、もう一度、厳しい条件に戻ってくるという気持ちになるにはよほどの魅力がないと難しいと思うんです。
 
T:ほんとうに、そう思います。現場が楽しいと思って働きに来てくれているスタッフが集まっているお店は、人材も困っていなそうですし、そもそも繁盛しています。そういうお店は福利厚生が魅力的だったり、働き方も自由だったりとやはり理由があるんです。さらに、スタッフが卒業するタイミングで、自分の後輩を紹介したりと循環がスムーズなんですよね。いつの時代も口コミの信頼度は高いですから。
 
Y:今回で最後になりますが、「人気店」は「人の気」が集まっているお店だということをお伝えしたかったんです。それは「スタッフの気」「協力業者の気」「お客さんの気」人の気を惹くお店になるということは、料理がおいしいだけでは続かないと思います。
 
T:「気」という日本語はよくできていますよね。「気がいい」「気が重い」「気が悪い」という言葉はとても抽象的ですが、日本人同士であればなぜか伝わります。「気がいいお店」は、掃除も行き届いていますし、スタッフの笑顔も明るいことは間違いなし。この当たり前の「基本の基」に気が付いていただければ人気店に一歩近づくのではないでしょうか。
 
Y:つまりは、これまで連載をさせていただいたのですが、PRって、須く「気」がとても大事なんです。特に飲食店はそうだと思います。プレスリリースを書くのも、レストランの紹介記事やプロフィールを書いたり、企画を考えたりするときに、AI言語サービスは、大いに役立ちます。私も最近、AIと会話をする時間を意図的に作って、自分の生活にどう取り入れるかを模索しています。使えば使うほど、AIアプリも賢くなっていく。そして仕事はどんどん早く処理できています。私の友人シェフもレシピ開発や企画に役立てている人が増えてきました。
 
そう考えると、やっぱり人間ができることは「気」をどう乗せるか?ということにつきます。見えないことってなかなか理解しづらいですよね。でも、これから、飲食店でも誰に料理をたべてもらう、誰に伝える=「意図する」とか、楽しく仕事をしているか?愛情を持って料理を作っているか=「気持ちをのせる」ということがもっともっと重要になってくると思います。
 
川瀬:全6回にわたり、FOODEDITORのお二人と「飲食店のPRの今」についてお話を伺いました。誰もがスマホのSNSで簡単に情報発信できる“1億総メディア時代”と呼ばれる現代において、かつてのマスメディアの影響が強かった頃のPR戦略は既に過去のもの。
 
「PR」とは「Public Relations」の略ですが、顧客との「Relation=関係創出」とは、地味なようですが「お店の考え方やスタンスを言葉や行動で丁寧に伝えていくこと」、これに尽きるのではないかと実感しました。
 

FOODEDITORとは

どんな時にも変わらない視点は、「おいしい体験を楽しく伝えたい」「魅力あるものをより広く伝えたい」ということ。 印刷物やウェブの編集、イベント企画、フードPRやブランディング…etc. 様々な企画/編集した経験を独自の媒体(イベントやWeb)を通して、 より自由に楽しく発信していく、フードプランニングユニットです。
 

 

 

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