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「カルビ丼」&「スンドゥブ」の店が続々とオープン、2024年のトレンドとなる予感

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第五十八弾

 
いま、郊外ロードサイドでの新規出店にあるトレンドが見られている。それは、「カルビ丼」と「スンドゥブ」(ないし韓国料理のスープ)の店の出店が続いている。「焼肉きんぐ」を展開する物語コーポレーション㈱ではこの業態「焼きたてのかるび」を2023年の12月に3店舗立て続けにオープンして14店舗。㈱吉野家でも「かるびのとりこ」が2店舗となっている。同社のニュースリリースでは「これから急ピッチで出店していく」という。
 
この業態の原点は「韓丼」である。京都に本拠を置く焼肉がメインの会社㈱やる気が2010年9月京都市伏見区に1号店をオープンし、現在70店舗体制(うち直営6店舗)となっている。筆者は、この業態はこれからとても有望だと注目している。この業態の魅力について述べていこう。
 
創業者の夫人のキャラクター「さっちゃん」は安心感をもたらす存在【創業者の夫人のキャラクター「さっちゃん」は安心感をもたらす存在】
 

男性、女性ともに愛されるメニューを合体

やる気という会社は先代の大島聖貴氏(現相談役)が1988年2月、京都の祇園に『焼肉ほどり』を開業したことに始まる。
 
その後、京都市内を中心に『焼肉やる気』を展開していくが、焼肉の食べ放題が人気を博すようになり、同社もこの業態を展開していく。しかしながら、だんだんと飽和状態を感じるようになったという。そこで、これとは違う新業態を考えることになった。
 
そのポイントは、焼肉を使って若い人でも気軽に食べることが出来ること。タレの味については自信があった。そこで夫人のキャラクターをつくり、夫人の名前「さっちゃんのカルビ丼」をメイン商品とした「韓丼」をオープンした。京都と大阪をつなぐ油小路通りのロードサイドで、交通量は多く立地としては最適であった。
 
客席に張り出した「韓丼」1号店の新堀川本店(京都府伏見区)のキッチンは斬新【客席に張り出した「韓丼」1号店の新堀川本店(京都府伏見区)のキッチンは斬新】
 
「韓丼」では「カルビ丼」に加えて「スンドゥブ」をもう一つの柱に据えた。これを「スン豆腐」という表記にして、分かりやすく豆腐料理であることをアピールした。男性客がカルビ丼、女性客にスン豆腐という狙いであったが、この両方を食べたいというニーズもあって、スン豆腐と丼の小をセットにしたところ人気を博した。
 
現在、丼単品は590円(税込、以下同)からで、これがセットでは990円から。これで客単価は880円。ランチタイムに丼単品をサクッと食べていくお客が多いとのこと。この客単価で原価率は36%になっている。オープンしてたちまち繁盛店となり、40坪40席で現在も月商1700万円とハイレベルな売上を維持している。
 
「カルビ丼」「スン豆腐」とメニューを対比させて分かりやすくしている【「カルビ丼」「スン豆腐」とメニューを対比させて分かりやすくしている】
 

ジェットオーブンを導入しクオリティを安定化

2013年7月に直営2号店の北名古屋店(愛知県北名古屋市)をオープンして、ここからいろいろなことが動きだした。
 
まず、同店で初めてジェットオーブンを導入した。「韓丼」を始めた当初は、店内で生の肉から焼いていたが、これではお客を長時間待たせてしまう。また、生焼けの部分、焦げ付きが多い焼肉が出たり、クオリティが一定していなかった。そこで、安定したクオリティと提供時間をしっかりと守ること、食中毒にならないようにと、先にジェットオープンで肉を焼いて、その後、炭火の台でしっかりと焼き上げる、ということを行った。
 
また、この店が大層繁盛店となり「韓丼を営業したい」という人が増えてFCを検討するようになった。FC展開は2016年に着手し、冒頭で紹介した陣容となっている。標準的な規模では敷地300坪で店舗面積40坪。これで約20台が駐車可能。人員体制は社員2人、パート・アルバイトの在籍が20~25人。投資額は居抜きで3500万円から4000万円程度、新築で6000万円程度となっている。ロイヤルティは3.5%で、食材は同社指定のものを仕入れていただく。ビールやソフトドリンクはオーナーが選ぶことができる。
 
FC店舗が広がるようになったのは、北名古屋店の存在感が大きい。このエリアで既に5店舗を展開しているオーナーもいるという。今後、全国展開を進めていく上で、現地を熟知しているオーナーに任せた方が有利と考え、FCの路線は継続していくとのこと。
 
2018年当時は月に2~3店舗とハイピッチで展開していたが、2023年5月に社長に就任した創業者の子息の大島幸士氏(30歳)は、スピード展開ではなく、一店舗ずつ丁寧に店をつくっていく方針をとり、オーナーとは個別にコミュニケーションを重ねて、オーナーの声をきちんとフォローしていくことを信条としている。
 

テイクアウトに着手し販売効率を高める

「韓丼」ではコロナになる2年前からテイクアウトを手掛けていた。これがコロナになってものすごく需要が増えて、コロナ前を超える状態となった。
 
現社長の大島氏は大手小売業から転じて2020年4月同社に入社した。そこでまず情報システム部を立ち上げた。大島氏によると「テイクアウト需要が増えることは分かっていたので、この効率化を図ったことで、大きく売上に貢献した」と語る。
 
さらに、このように続ける。「韓丼のすべての店を回ってみて感じたことは、韓丼が取りにいくゾーンはファストフードではなく『ファストカジュアル』ということです。キッチンにしっかりとお金をかけて、ファストフードよりも提供時間はかかるが、専門性の高い商品をシズル感たっぷりに提供していく。この考え方は創業時からしっかりと存在して、店のつくり方や提供方法は、折々にブラッシュアップしていく。」
 
ロードサイドの店舗は遠くからもよく目立つようになっている【ロードサイドの店舗は遠くからもよく目立つようになっている】
 
1号店は店舗の中央にオープンキッチンがあって、お客様は券売機でチケットを購入して、従業員がそれに従って商品をお客様に提供する。食事が終わったら、お客は「返却口」に空の丼や鍋を持っていく。その後、券売機でチケットを購入したお客に、商品の出来上がりをベルで知らせる(フードコート形式)。直近の店は、店内のモニターで出来上がった商品を番号で知らせる、という形になっている。
 
このように、従業員がお客に接する部分は少ないが、商品の高い専門性とシズル感については徹底的にこだわっている。キッチンのダイナミックなライブ感はホスピタリティの新しい形と言えるだろう。
 

人件費を抑えて満足度を高める業態

さて、大島氏が唱える「ファストカジュアル」とはどのような業態か。ウェブで検索してみて、それを適格にまとめたものが出てこないので、外食記者歴40年の筆者がここで整理しておきたい。
 
ファストカジュアルとは、ファミリーレストランよりワンランク上の業態である「カジュアルレストラン」のクオリティをファストフードの形で提供する業態である。クオリティや料理の専門性はファストフードよりはるかに高い。料理の提供は店側が行わずに、出来上がった料理をお客が取りに行き、食事が終わったら、返却口にトレーごと返却する。
 
要するに、カジュアルレストランのクオリティと専門性を、サービスを簡略化して、客単価を抑えるという業態である。昨今は、原材料、人件費ともに高騰している。そして、お客としてはファストフードのクオリティでは満足しない。そこで、人件費が抑えられて、満足度を高められるということをトレードオフによって実現するのがファストカジュアルなのである。
 
最新の所沢けやき台店(埼玉県所沢市)のキッチンのライブ感は圧倒的なものがある【最新の所沢けやき台店(埼玉県所沢市)のキッチンのライブ感は圧倒的なものがある】
 
それを身近に体験できる場所はJR東京駅の「グランスタ八重北」である。同所にある「極味や」のことを前回紹介したが、これもファストカジュアルである。ここを見渡すとこれに類する店が多数出店していることに気付く。この業態は2024年に続々とオープンすることであろう。
 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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