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「都市型店舗」に力を入れる回転寿司チェーンの最新動向

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第二十八弾
「スシロー」「くら寿司」 前編

 
回転すしチェーンの動向をみると「スシロー」と「くら寿司」に勢いがある。商品もサービスの内容もほとんど変わりのない両社であるが、両社が取り組んできていることが消費者の外食に対する意識に変化をもたらし新しい常識を築き上げていると考えている。
 
回転すしチェーン業界の動向を把握するために回転すしチェーンを事業とする株式公開企業のランキングを作成した(数字は売上高〈決算期〉と店舗数〈直近〉)。
 
第1位 FOOD & LIFE COMPANIES/2049億5700万円〈2020年9月期〉、538店〈2021年3月末、スシロー業態のみ〉
 
第2位 くら寿司/1358億3500万円〈2020年10月期〉、485店〈2021年4月末〉
 
第3位 カッパ・クリエイト/648億8100万円〈2021年3月期〉、314店〈2021年3月末〉
 
第4位 元気寿司/382億5200万円〈2021年3月期〉、165店〈2021年3月末〉
 
回転すしチェーンとしては、ゼンショーホールディングスの事業会社であるはま寿司が530店舗(2021年1月25日時点、Wikipedia)と大きな規模を誇るが株式を公開してないのでこのランキングから外している。
 

収益性の高い「都市型店舗」に力を入れる

まず、スシローとくら寿司は出店を積極的に行っている。
 
「スシロー」が近年出店に力を入れている都市型店舗【「スシロー」が近年出店に力を入れている都市型店舗】
 
FOOD & LIFE COMPANIESの2020年9月期は国内にスシローを33店舗出店、期初目標を26~30店舗としていたが増店した。内訳は通常型20店舗、都市型13店舗となっている。スシローでは近年この都市型に注力している。
 
くら寿司の2020年10月期では国内に25店舗を出店。2月にインバウンドに対応した「観光」と「食事」が同時に体験できるグローバル旗艦店「浅草ROX店」をオープン。しかしながら、コロナ禍によってインバウンド需要がなくなった。同社ではその攻めの姿勢を崩さずに施策を行った。
 
それは、withコロナ時代の新しい生活様式に対応した非接触型と利便性の向上を図った「スマートくら寿司」プロジェクトである。これによってコンタクトレス(スタッフを介さない)、タッチレス(機器に触れない)を実現している。
 
スシローが都市型に注力していることを前述したが、くら寿司ともに出店戦略の重要なポイントに位置付けられている。
 
FOOD & LIFE COMPANIESでは事業会社を4社擁し、共同でキャンペーンを展開している【FOOD & LIFE COMPANIESでは事業会社を4社擁し、共同でキャンペーンを展開している】
 
この両社ともに都市型とは、通常型の標準的な一皿の価格が110円(税込、以下同)であることに対して、スシローは132円、くら寿司は121円と1~2割高く設定している店をこのように定義している。
 
くら寿司では今年初めて都市型を出店し、1月14日に「渋谷店」(159席)と「西新宿店」(192席)を同時にグランドオープンした。以来、くら寿司ではこのタイプを1月28日「武蔵小杉店」(219席)、2月4日「小岩駅前店」(210席)、2月5日「赤羽東口店」(187席)、4月22日「道頓堀店」(204席)、5月20日「高田馬場店」(267席)と出店している。
 
スシローではこの3月18日に伊勢丹新宿店の向かい側地下1階に170坪208席という「新宿三丁目店」をオープン。TBSの番組でオープン1カ月前からのメイキングが放送されたが、このオープン初日の客数は1022人であった。あらゆる数字が驚異的である。6月10日にくら寿司「渋谷店」が営業しているビルの隣にスシロー「渋谷店」がオープンした。こちらは100席強と超大型ではない。
 

近隣に複数出店し面で市場を捉える

両社とも都市型を出店できるようになった背景として、筆者は次のようなストーリーを考えた。
 
「1990年代、都心部に大衆居酒屋チェーンが150坪、200坪という大箱の店舗を構えたが、これらの主要客層が中高年となることで顧客離れが生じて撤退するようになり、老若男女に愛される大衆価格の回転すしチェーンが進出できるようになった」と。
 
「くら寿司」では感染予防対策でテーブル席の衝立を高くした【「くら寿司」では感染予防対策でテーブル席の衝立を高くした】
 
しかしながら、物事はこのように単純なものではないようだ。FOOD & LIFE COMPANIESの執行役員店舗開発・設計管掌の永井敏行氏が「当社は原価率50%で営業している業態。だから、効率よく回転率を上げるという特殊なモデルをつくっている」と前置きしてこのように解説してくれた。
 
「それをやり切るために、当社では回転レーンの形をE型で3本のものを開発。1列には6卓があり、全部で30卓、他にカウンター席。店舗規模は120坪で196席。これが当社が生み出した最も効率を高めるための究極の形なのです」
 
回転すしがこれまでロードサイドに出店してきた背景には、この120坪に見合う敷地が確保できると、そこにE型回転3本の6席30卓とカウンター席を当てはめると「スシロー」が完成するという仕組みが挙げられる。
 
一方、都市型の場合は物件ありきである。店づくりで都合のよい120坪で正方形の物件が確保できるということはほとんどありえない。回転すしチェーンの都市型展開が遅れた理由がそこにある。とは言え、都市型では顧客は車を利用していないのでアルコールの売上は期待ができる。そこで同じターミナルに複数店舗が出店し、面で市場を捉えるようになっている。
 
都市型店舗は効率的な出店は困難だが、収益を上げるためには大きな力となり勢い店舗開発の意識は高まる。
 
都市型店舗は駅から至近距離にありアルコールも打ち出すことが出来る【都市型店舗は駅から至近距離にありアルコールも打ち出すことが出来る】
 
(後編)に続きます。

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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