新生ダイナックが次々と披露する“アンチ・チェーン”の新業態
「脱宴会」「脱法人需要」の時代 後編
「自分が行きたい店」をつくってもらう
前編では新生ダイナックの新業態、第一段、第二弾を紹介した。後編ではその続きを述べる。
さて、第三弾は「北国とミルク」。これは同社のカジュアルイタリアン業態「パパミラノ」から業態転換することを想定して開発されたもの。1号店として「パパミラノ ココリア多摩センター店」(東京・多摩センター)が「北国とミルク ココリア多摩センター店」となって5月26日オープンした。
【北海道の農家の素朴なイメージでまとめた「北国とミルク ココリア多摩センター店」の店内】
同業態のコンセプトは、北海道の根釧地区の酪農が盛んな浜中町でつくられる濃厚で高い乳質のミルクと自家製のバタークリームをたっぷり使った北海道イタリアンを、北海道の農家をイメージした素朴でレトロな空間でカジュアルに楽しむということ。パスタは北海道産小麦を100%使用した全粒粉の生パスタを使用している。
開発に際して同社のミレニアル世代の女性社員を起用して「自分たちが行きたい店、食べたい料理、着用したいユニフォームを考えてもらった」(代表の秋山氏)という。
【「北国とミルク」のメニューで北海道トウモロコシをたっぷりとのせた「北海道とうもろこし焦がし醤油バターピザ」1280円(税込)】
おすすめのフードメニューを3つ挙げると次にようになる。まず「海の幸と濃厚クリームソースのぐらたんパスタ」1680円。これは香ばしく焼き上げたパンの中に魚介の旨味が溶け込んだクリームパスタを入れてある。次に「ハンバーグ パスタロッソ~北海道チーズと濃厚トマトソース~」1480円。パスタの上にのせられたハンバーグをほぐしながら絡めて食べる。そして「自家製バタークリームの白いミートソース」1380円(以上、税込)。もちもち生パスタとミートソースにホイップ状にした自家製バタークリームをたっぷりトッピングし、お客の前でバーナーであぶって提供。
【「北国とミルク」のおすすめメニュー「海の幸と濃厚クリームソースのぐらたんパスタ」1690円(税込)】
モバイルオーダーの「特別裏メニュー」
第四弾は「鮨ト酒 日々晴々」。小さな飲食店が立ち並ぶ東京・新宿三丁目に7月21日オープンした。最近、すしをつまみながら酒を飲むといった「すし酒場」がトレンドとなっているが、同業態もそれと同様。ダイナックがこれまで多彩な業態で培ってきた仕入れルートや市場の関係者とのパートナーシップによって上質で鮮度のよい食材を取り寄せることを実現した。
この店、フードメニューのアイデアに力強さがある。握りずしは、生本マグロの漬け、あじの塩すだち、甲イカにカラスミなど職人技による「晴々盛り5貫」790円。肉厚の中トロの切り身を芯にして鉄火巻から豪快にはみ出した「はみだしとろ鉄火巻き」890円。おつまみも振るっている。出汁の中でしゃぶしゃぶしたとろける和牛を味が染み込んだ豆腐の上にのせた「レア肉豆腐」590円。すし店では珍しいが「ラムカツ~香草パン粉~」690円(以上、税込)。こちらは「ナチュラルワインと合う」ことをアピールしている。
【オープンキッチンが清々しい「鮨ト酒 日々晴々」(東京・新宿三丁目)の店内】
さらに「特別裏メニュー」というものがある。これはモバイルオーダーを活用し、2回目以降来店の人が注文することができるというもの。まず、フードでは「フォアグラ削り3貫」690円。ローストビーフや希少鮮魚などの握りずしの上に、目の前でフォアグラを削って散らしたもの。ドリンクでは「きゅうり香るジンバック」650円、「大葉のギムレット」650円と和食に合うカクテルをラインアップしている。
【「鮨ト酒 日々晴々」の「レア肉豆腐」590円(税込)は1枚250円で牛肉を追加できる】
最近の「すし酒場」人気の中でも、外食ファンからの同店に対する期待の高さはクラウドファンディング(Makuake)での実績に表れている。サポーターへの特典は、出資金額を上回る食事チケット(出資金額7500円の場合、1万円)とワンドリンクサービスというもの。6月30日にプロジェクトが公開され、目標金額50万円に対しこの当日に520%の260万円を達成、この記事を書いている8月11日の段階(残り4日)で1520%の760万2500円となっている(サポーター729人)。
【お値打ち感がある「鮨ト酒 日々晴々」の「うにプリン」390円(税込)】
これからは“個店”を深掘りする時代
ダイナックではこれから継続的に新業態を披露していくという。直近では8月22日大阪・天満にネオ大衆居酒屋「純けい焼鳥 ニドサンド」をオープン。9月12日東京・新宿東口にシュラスコ「& BEEF」をオープンする。「純けい焼鳥 ニドサンド」のニュースリリースにはこのように書かれている。
焼鳥、生つくねは通常より飼育期間が長い産卵用の親の雌鶏“純けい”を使用。「ジャンボ粗挽き肉焼売」も純けい。定番の酒場メニューに加え、和・洋・アジア料理をミックス。バゲットと一緒に食べる「謹製 牛モツ味噌煮込み」。おでんは定番のタネのほか「牛しゃぶ」「餅巾着トリュフソース」「かき揚げ」などの変わりダネも用意。ドリックではアメリカでトレンドとなっている低アルコールドリック「セルツアー」がイチオシ――等々。紹介されているメニューは新しさとインパクトがある。
これら同社の新業態を見ていくと、一つ一つのつくり込みが細かいこと、ストーリー性が豊かであることが挙げられる。
事業展開の展望について、新業態お披露目の記者発表で代表の秋山氏は「これからは個店としての魅力を掘り下げていき、チェーン展開をしない」と表明している。これからの飲食業はチェーンではなく個店の時代になっていくことを、新生ダイナックの新業態が示唆しているように思われる。
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第四十二弾(前編)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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