サルモネラ属菌による食中毒を防ごう 過去の事例と飲食店が取るべき対策を紹介
「サルモネラ」といえば、みなさん聞いたことのある名前かと思います。食中毒の原因のひとつであるサルモネラ属菌は鶏・鶏卵・豚・牛といったところに存在しています。また、菌を含む食品を口にしても無症状の人もいるという特徴を持ち、無症状の人が周囲に菌を広めてしまう可能性があります。サルモネラ属菌とはどのようなものなのか、どのような料理で発生しているのか。飲食店では食中毒に対してどのような予防策を取るべきかをご紹介します。
◆サルモネラ属菌とは
サルモネラ属菌は鶏・鶏卵・豚・牛といった動物や河川、湖、下水道などに広く生息し、ヒトに胃腸炎の症状を引き起こす細菌で、2500種類に分類されています*1。
◇サルモネラ属菌の特徴
サルモネラ属菌による食中毒を引き起こした原因になる食材として、卵とその加工品、鶏肉・食肉・内臓肉、スッポン・ウナギ等の淡水養殖魚介などが挙げられています*1。またチョコレート、ココナッツ、ピーナッツバターを使った菓子類のほか*2、自家製マヨネーズやティラミスが原因になったこともあります*3。爬虫類もサルモネラ属菌を持っていることが多く*4、動物同士の接触で感染する可能性も考えられます。
なお、細菌は湿った場所を好みがち、と思われるかもしれませんが、サルモネラ属菌は乾燥に強いという性質を持っていることにも注意が必要です。1999年に乾物のスルメについたサルモネラ属菌で発生した食中毒では、広い地域の工場で製造されていた多くの商品が回収命令の対象になりました*5。30分に1回分裂するという増殖の速さも特徴です*6。
◇サルモネラ食中毒の発生季節と特徴
サルモネラ食中毒は6月から10月までの間に起きやすいとされていますが、冬でも暖かい部屋などで長時間食品を放置すると細菌が増殖する可能性があります*7。サルモネラ属菌には、汚染されたものを食べてから12~48時間の潜伏時間があります。その後、腹痛や下痢、発熱、嘔吐といった症状を引き起こします。また、やや高い熱が出るのが特徴のひとつです*1。
またもうひとつの特徴は、無症状である場合や、食中毒の症状がなくなっても体内に菌が残ったままということも多く、食中毒を広める原因になることです。
◆サルモネラ属菌による食中毒の事例
サルモネラ食中毒の事例をいくつかご紹介していきます。おもに卵が原因になっています。
◇店がキャパオーバーする中で起きた食中毒
近年では、2023年8月に和歌山県で、同じ会社の弁当を食べた117人が食中毒の症状を起こし、そのうち1人が亡くなったという事例があります*8。この会社(従業員12名)は通常多くても400食ほどの弁当などを提供していましたが、8月19日と20日に注文が殺到し、弁当だけで19日には888食、翌20日には553食の注文を受けていました。調査の中では、卵の扱いについての指摘があります。出汁巻きの材料です。この会社では普段から前日に卵を割って専用の容器で出汁などと混ぜ、その後専用の冷蔵庫にラップをかけて保管しています。その通りに、18日に卵200個分の作業をしたうえで、19日の0時から焼き始めました。この工程のなかで、サルモネラ菌を増殖させた理由として、以下のようなことが考えられています。
出汁巻きの調理工程
(出所:「弁当によるサルモネラ食中毒について」和歌山県p8)
その後、和歌山県内の弁当製造業者には、液卵は作り置きせず、当日に作るよう注意喚起されました。
◇台湾まぜそばで起きた食中毒
また2020年には、滋賀県内の飲食店で台湾まぜそばとアレンジメニューによる食中毒が発生しています*9。ここでは、まぜそばに乗せる卵の保管方法に問題があったことが指摘されています。この店での卵の保管方法は下のようになっていました。
台湾まぜそばに使われた卵の保管状況
(出所:「「台湾まぜそば」を原因とするサルモネラ属菌による食中毒事例について」国立感染症研究所、別表)
卵が納品された直後の扱いや、当日になって氷を敷いたバットの上に乗せていたとはいえ、室温の環境であったことが問題視されています。「1日くらいそこに置いていても大丈夫だろう」というのは通用しない、ということでもあります。
◆二次汚染にも注意を
また2023年の7月に広島市の中華料理店で33人に起きた食中毒では、原因になる料理として唐揚げ、油淋鶏、麻婆豆腐、坦々冷麺、天津飯などが挙げられています*3。いずれもきちんと加熱されている料理のように感じますが、この食中毒では、卵や肉を扱った調理器具の洗浄消毒不足や手洗いの不足が原因と考えられています。また、加熱の終わった料理に素手で他の食品をトッピングしたことも食中毒を拡大したと考えられています。
◆サルモネラ属菌での食中毒を防ぐには
卵に関する一般的なサルモネラ食中毒の防止方法としては、以下の項目が挙げられています*1。
(1)卵を生食する時は、新鮮で殻にヒビがないものを冷蔵庫に保管し、期限表示内に食べます(鶏卵、ウズラ卵、アヒル卵を含む)。
(2)卵を割ったら、直ちに料理します。割ったまま、保存することは避けます。
(3)肉や卵は、冷蔵庫で保存し、料理する時には、十分に(中心温度75℃1分間以上)加熱します。
(4)生肉・卵等を扱った手指や調理器具はよく洗浄、消毒します。
(5)冷蔵庫等、施設設備は清拭消毒します。
(6)ペットに触れた後は、十分に手洗いします。
(7)ネズミ、ゴキブリなどの対策を実施します。
(8)定期的に、また必要に応じて従事者の検便を行い、記録を保管します。
サルモネラ属菌は目に見えるものではありませんので、事前に菌が存在している材料かどうかを見極めることはできません。しかし、仮に仕入れた食材に菌がいたとしても、繁殖させないための最大限の努力が飲食店には求められます。ゴキブリなどの害虫が菌を運んであちこちに広げる可能性もありますので注意してくだい。
*1 「食中毒菌などの話 サルモネラ食中毒」公益社団法人日本食品衛生協会
*2 「15.サルモネラ・ティフィムリウム」食品安全委員会
*3 「サルモネラ食中毒が多発しています」広島市
*4 「サルモネラ感染症」厚生労働省FORTH
*5 「サルモネラによる食中毒について(第6報)」厚生労働省
*6 「サルモネラ・エンテリティディス(SE)の特徴」一般社団法人日本養鶏協会
*7 「サルモネラ エンテリティディス」島根県感染症情報センター
*8 「弁当によるサルモネラ食中毒について」和歌山県
*9 「「台湾まぜそば」を原因とするサルモネラ属菌による食中毒事例について」国立感染症研究所
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