APカンパニーが行う、弁当事業とECに結び付けた新サービス展開
アフターコロナのキーワードは「ファン」 前編
次に、エー・ピーカンパニー(以下、AP)の事例を述べる。APのことを語る場合はまず、同社の「生販直結モデル」を説明しておく必要がある。
同社の成長を牽引したブランドは「塚田農場」である。これは2003年の当時、代表の米山久氏が「ありきたりじゃない新・外食」を追求している過程で、宮崎県日南市の地鶏「みやざき地頭鶏(じとっこ)」と巡り合ったことに端を発する。
【「食材の通販」は4月13日より始まった】
この地鶏は増体率が高く、食味に適度な歯ごたえがあって旨味があることが大きな特徴だ。これを主要食材に育てていくために、現地の生産者と協調して生産拠点をつくり、この鶏肉を東京はじめとした居酒屋「塚田農場」に届けるという仕組みをつくった。このモデルは鮮魚分野でも開拓した。そして、「食のあるべき姿を追求する」というミッションを打ち立て、食品の生産(一次産業)から流通(二次産業)、販売(三次産業)に至るまでの全てを一貫して手がける独自の6次産業化ビジネスモデルを展開するようになった。
【エー・ピーカンパニーが独自に作り出した「生販直結モデル」のスキーム】
このようにAPの最大の特徴は「クオリティの高い食材」である。これを当初からぶれずに行ってきたことによって、「塚田農場」や「四十八漁場」をはじめとしたブランドには根強いファンが存在している。
【「おつまみの通販」は4月23日より始まった】
さて、筆者は5月末に代表の米山久氏にインタビューをする機会を得た。コロナ禍での「コスト圧縮」をはじめ「雇用継続」などさまざま伺ったが、ここでは表題どおりの「アフターコロナに活かす情報発信」について述べよう。
会社のファンに新しいサービスを広げる
コロナ禍によって飲食業の多くが「テイクアウト」「デリバリー」を手掛けるようになったが、APでは2014年7月に新規事業として宅配弁当の「おべんとラボ」を立ち上げ、2015年7月1日に塚田農場プラスという商号で法人化している。それが2020年3月期連結決算の売上高230億円のうち約20億円を占めるほどに成長した。
この弁当事業の成長も含めて、多くのブランド、多くのチャネルを持っていることから、米山氏は「APファンマーケティング構想」を描いている。
それは、コロナ禍におけるブレスリリース・ニュース配信サービス『PR TIMES』での発信から見て取れる。これらの概要を時系列で紹介しよう。
PR TIMES
|
このように、今回のコロナ禍で弁当事業をECに結び付けて新しいサービスを生み出してきた。ここからさらに弾みをつけようということが「APファンマーケティング構想」なのである。
【5月7日に「オンライン酒蔵見学ツアー」を実施】
情報発信基地をリアル店舗が担う
APでは農業、漁業共に生産者を確保しており、ここに宅配などのインフラが整うことによってさらに新しいサービスが期待できる。インフラについてはホールディングス体制によって整備していきたいとしている。
これらのコアな情報発信は「塚田農場」をはじめとしたリアル店舗が担う。ここはAPファンが集まる場所だから。APの「生販直結モデル」による高品質・中価格の価値を評価するお客が買い求めることであろう。
ワンダーテーブルもAPも、矢継ぎ早の情報発信は多くの人々に「一貫した企業姿勢」を刷り込んだ。そして、既存のファンはその姿勢に新しい購買動機が喚起されて、発信する企業に新しい事業としての手応えをもたらした。アフターコロナのキーワードは「ファン」なのではないか。そして、ファンはコミュニティを育てて、企業を応援する存在になっていくのではないか。このようなことを、経済活動が動き出した6月の中旬に考えている。
【ランチタイムも稼働する「つかだ食堂」を5月15日から順次オープンしている】
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第十六弾(前編)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
「ニュース・特集」の関連記事
関連タグ