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気心の知れた経営者を集めることで「体感」のある“横丁”をプロデュース

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第三十九弾
飲食の価値を創造する「保村ワールド」 前編

 
筆者がMOTHERS代表の保村良豪(やすむら・よしたけ)氏の存在を知ったのは今から15年くらい前のこと。「立川にMOTHERSというサービスがかっこよく、フードも洗練されたカジュアルレストランがある」「代表のヤスムラさんはグローバルダイニングのOBらしい」――こんな情報がきっかけで立川を訪ねることになった。「MOTHERS」は立川の南口と北口の2店舗あり、噂通りにかっこよかった。女性従業員の言葉遣いがはっきりとしていてきびきびとした対応が小気味よく感じられた。
 
立川の町並みが大きく変わったのは2000年に整った多摩都市モノレールと、その立川北駅と直結する形で伊勢丹立川店の新館がオープンしたことがきっかけだ。これによってJR立川駅の周りは明るく開けた大きな商業地として成熟していった。その立川を飲食で魅力的にしていったのが「MOTHERS」なのである。保村氏は1975年9月立川市生まれ。株式会社MOTHERSはカジュアルなイタリアンを中心に現在約20店舗を展開している。
 
MOTHERS代表の保村良豪氏。地元、東京・立川からスタイリッシュなカジュアルイタリアンを発信している。【MOTHERS代表の保村良豪氏。地元、東京・立川からスタイリッシュなカジュアルイタリアンを発信している。】
 

アンダーグラウンドの雰囲気を生かす

昨年12月、その立川に「GALERA Food Market TACHIKAWZA」(以下、ガレーラ立川)という施設がオープンした。場所は、JR立川駅北口から徒歩10分程度の路地裏で、周囲にはラブホテルやキャバクラが立ち並んでいる。外観は小さな倉庫。70坪というファミリーレストラン一棟の大きさで、中には10店舗200席以上が詰め込まれたいわゆる“横丁”。土日祝日は11時オープンから23時閉店までずーっと繁盛風景が展開する。客層は20代から40代がメインで、外国人のグループが目立つ。
 
「ガレーラ立川」の外観。ところどころを開放していて賑やかな店内の様子が見える。【「ガレーラ立川」の外観。ところどころを開放していて賑やかな店内の様子が見える。】
 
ここをプロデュースしたのはMOTHERS代表の保村氏である。施設のオーナーは立川に本拠を置く食肉卸・加工販売のミートパビリオンで、保村氏が同社よりプロデューサーを依頼されたのだという。保村氏はこう語る。
 
「いただいたテーマは『賑わいの創出』。ここは立川の中でも最もアンダーグラウンドな土地ですが、アレンジの仕方によっては艶っぽさが生まれる。そこで、あまりつくり込みをしないように考えた。」
 
店内のメインのフロア。人々が集まっている様子が圧倒的なパワーとなって伝わってくる。【店内のメインのフロア。人々が集まっている様子が圧倒的なパワーとなって伝わってくる。】
 
集まった10店舗の概要を紹介しよう。左から店名、業種、会社名、本社所在地である。
・あて鮨 喜重朗/すし&日本酒/あてまき喜重朗/東京都立川市
・立川ちゃんぽん エビサワ/ちゃんぽん/MOTHERS/東京都武蔵野市
・鶏だしおでん ねりもん/鶏だしおでん/TG BASE/東京都立川市
・春巻のニューヨーク/春巻き/たるたるジャパン/東京都福生市
・向日葵屋(ひまりや)/和食のおつまみ&日本酒/エイト/東京都武蔵野市
・GARELA PRESS COFFEE/コーヒー&パン販売/エンジョイライフ/東京都武蔵野市
・OAK/ワインバル/OAK/東京都日野市
・TACO WASA TOKYO TACOS/タコス/NATTY/東京都立川市
・Tamaya craftbeer/焼き鳥&クラフトビール/ちゃんばら/東京都立川市
・VIGO OYSTERBAR/牡蠣&自然派ワイン/w・a・y/東京都杉並区
 
出店している店の本社所在地が、立川市、武蔵野市などとみな近接しているが、これらは保村氏自身が自分と交流のある経営者たちに声を掛けて集めたという。当然お互いの気心が知れている。保村氏が称して「ものを言い合える関係性の“よさ”」があるという。
 
出店する経営者にまず確認したことは、周りの商圏とかぶる商売は止めようということ。業態や価格構成、客単価について話し合うことは特にしなかったという。営業は平日、週末を問わず11時~23時とした。全店が全時間帯共にグランドメニューで対応している。
 
各店舗の特長が発揮している。この鶏おでんの店はおでん鍋一つの中に鶏ガラ60羽分を炊いたスープを入れている。【各店舗の特長が発揮している。この鶏おでんの店はおでん鍋一つの中に鶏ガラ60羽分を炊いたスープを入れている。】
 

ストーリーのあるゾーニング

さて、「ガレーラ立川」では、そこに入ろうとした瞬間に“うわっ”という圧倒される空気を感じる。オカルト的ではあるが、その理由を保村氏は論理的に説明する。
 
「それは『体感』というものです。これをつくるために必要なことは「ゾーニング」で、人はここから入るとこのように感じるだろうな、という感覚を意識した。ラブホテルの横は裏路地だから、その近くにはバーやしっぽりと日本酒を飲む店を集めた。一方で、元気があってポップな動きができる店は入口近く表側に集めた。」(保村氏)
 
バーや日本酒がメインの店を集めてしっぽりとした雰囲気を演出している。【バーや日本酒がメインの店を集めてしっぽりとした雰囲気を演出している。】
 
このようなことを出店する経営者たちとで話し合い、それがなんとなく現状のものにおさまった。こうしてストーリーのあるゾーニングができて、施設全体のパワーが最大化する空間が出来上がった。保村氏は「これが全く畑違いで、お金だけを目的に集まってきている人たちと取り組むと、このような形にはならない。」と語る。
 
このような「ガレーラ立川」が醸し出す「体感」は、立川の街全体の空気感に通じるものを感じた。「MOTHERS」が立川に飲食に飲食の魅力を植え付けて、それに憧れた地元の経営者が育ち、そのような人たちの飲食店が続いたことが立川は飲食の楽しい街となった。保村氏がリーダーとなることで生み出される大いなる価値を感じさせる。
 
(後編)に続きます。
 
バーのコーナーとは反対側のエリア。こちらにはポップな雰囲気の店が集められた。【バーのコーナーとは反対側のエリア。こちらにはポップな雰囲気の店が集められた。】
 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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