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上場外食企業創業者からの事業継承が続く代替わりのタイミング

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第十弾
飲食業界を牽引する企業創業者の学び 前編

 

父から子息への事業継承、そして二人代表

物語コーポレーション(本社/愛知県豊橋市、以下物語CO)、ペッパーフードサービス(本社/東京都墨田区、以下ペッパーFS)、幸楽苑ホールディングス(本社/福島県郡山市、以下幸楽苑HD)はいずれも東証一部上場の外食企業である。これらの企業の創業者たちは1980年代から90年代にかけてオージーエムコンサルティング(以下OGM)というコンサルティング会社の下で外食企業としての在り方を一緒に学んでいた。

これらの企業の創業メンバーたちが2019年10月7日の夜、JR名古屋駅近くのホテルに勢ぞろいした。それは同時期にOGMで一緒に学んだ甲羅(本社/愛知県豊橋市)の「創業50周年、新会長就任、新社長就任祝賀会」に参加するためである。新代表取締役会長に就任したのは創業者である鈴木勇一氏(1945年生まれ)、新代表取締役社長は勇一氏の長男でこれまで取締役副社長であった鈴木雅貴氏(1972年1月生まれ)である。会場には約520人が参集し、同社の新しい門出を祝った。さながらOGMで学んだ経営者の同窓会のような雰囲気があった。
 
そしてもう一つ、これらの企業に共通していることがある。それは、事業継承の時期を一斉に迎えているということだ。

まず、物語CO(1949年12月創業)では2011年9月に社長が小林佳雄氏(1949年1月生まれ)からグリーンハウスより招聘した加治幸夫氏(1956年12月生まれ)へバトンタッチした。幸楽苑HD(1970年11月創業)では2018年10月に創業者の新井田傳氏(1944年5月生まれ)が代表取締役会長、長男の新井田昇氏(1973年8月生まれ)が代表取締役社長に就任した。ペッパーFS(1970年2月創業)では創業者で代表取締役社長CEOの一瀬邦夫氏(1942年10月生まれ)の長男で専務取締役であった一瀬健作氏が2019年1月に代表取締役副社長管理本部長兼CFOに就任した。
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【幸楽苑HDでは2018年12月に一人焼肉の「焼肉ライク」の郊外型の共同開発プロジェクトを発足すると発表。2019年3月、千葉県松戸市に同タイプの1号店をオープンした。左が幸楽苑HD、代表取締役社長の新井田昇氏、右がダイニングイノベーション代表取締役会長の西山知義氏】
 
これらの中で物語COでは創業家ではない外部の人物に事業承継しているが、祝賀会の当事者である甲羅をはじめ、ペッパーFS、幸楽苑HDともに父から子息への事業継承となっている。創業者がそれぞれ70代半ばとなり子息が50代を目前にするようになったタイミングで行っている。いずれも二人代表で、しばらくは二人三脚的に父から子息へノウハウを伝授していく形となる。これらの企業はそれぞれ300店舗、500店舗といった店数を擁していて、フードサービスの業界の中で目標とされる存在感がある。
 
 

甲羅が切り開いた地方都市での多業態路線

甲羅の鈴木勇一氏は、飲食業で実績を積んだ後、1969年24歳の時に徒手空拳で「どん底」をオープン。店名の由来は「これ以下のどん底はない」と考えて新しい人生のスタートを切ったこと。勇一氏の努力の賜物である人を引き付ける力は店を繁盛店にして、店舗を展開していった。
 
同社が転換するきっかけとなったのは1971年7月にカニ料理「甲羅本店」を豊橋市内にオープンしたこと。「豊橋にカニ料理の店がない」ということがその動機であった。その後飲食業をより深く学ぶためにOGMの会員となり国内外での見聞を広めて、今日の礎となる「豊橋甲羅本店」を1984年9月にオープンした。外観は合掌造りで140坪140席というダイナミックな店舗で、客単価が当時隆盛していたファミリーレストランよりもアッパーで3000円を超えながら、家族みんなで食事を楽しむ「ファミリーダイニング」という領域を切り開いた。

同店の圧倒的なコンセプトと斬新な店舗デザイン、メニュー構成、そして何よりよく繁盛したことが評判を呼び、地方都市の飲食事業者からFC出店の要請を受けるようになった。こうして「甲羅本店」の全国展開を進めていった。時代はバブル経済にあり、同業態はよく繁盛した。前述の店舗規模で月商4000万円は当たり前とされていた。こうして同社の隆盛を支えた業態は現在44店舗となっている(うち直営18店)。
 
同社がいかにしてFC展開を主力とする外食企業となったのか。それは「甲羅本店」のオーナーとなった飲食事業者が多店化を志向することになったこと。しかしながら、客単価の高い店での多店化は地方都市では難しい。それは人口35万人の豊橋市で事業を営む甲羅が経験済みのことであり、勇一氏はFC加盟企業に向けて新業態のFCパッケージを次々と提案していった。この勇一氏の業態開発力を例えて、誰もが「飲食業のアーティスト」と称している。2019年9月末現在では33の業態を擁し373店舗を束ねている。
 
新社長の鈴木雅貴氏に抱負を訪ねた。
「これからやりたいことはたくさんあります。その中で『今できること』『これからできること』は大きく異なることで、この見極めについて新会長に学んでいきます」
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【甲羅、新代表取締役会長の鈴木勇一氏(左)と新代表取締役社長の鈴木雅貴氏】
 
 
前述の通り、OGMで学んだ主に地方都市の外食企業は一斉に経営の世代交代を迎えている。これらにとっての指針はいかなるものであろうか。
 
 
(後編)に続きます。

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴36年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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