防水工事は飲食店の厨房に必要?業者選びや居抜き物件における注意点などを解説
「防水工事は飲食店の厨房に必要なのか」「厨房の防水加工にはどのような種類があるのか」「防水工事業者選びはどこに注意すればよいか」「飲食店の居抜き物件で厨房に既にされている防水は問題ないのか」「開業後であっても防水工事はできるのか」「防水の耐用年数はどのくらいか」「防水の劣化によるリスクにはどのようなものがあるのか」「防水保証書とは何か」など、これから飲食店を開業する人にとって有益な情報となるように、厨房の防水工事・防水加工についてのあれこれを解説していきたいと思います。
目次
◆飲食店における厨房の防水工事の必要性
飲食店の厨房は大量の水を使用する場所です。そして、使用した水は、厨房床の側溝や排水管を通って店舗の外に排水されなければなりません。もし排水されずにそのまま厨房に水が留まってしまったら雑菌の繁殖やカビの発生が起こってしまいます。これでは良い衛生環境が保てなくなってしまいます。また、それ以外にも客席に厨房から水が漏れて店舗の営業に支障をきたしてしまうことや漏水によって階下の入居者やテナントに損害を与えて大きな問題に発展してしまうことも考えられます。このような事態をまねかないためにも店舗の営業開始前までに厨房の防水工事を行うことが飲食店には求められているといってよいでしょう。後述しますが、このことについては居抜き物件においても例外ではありません。日々の営業で大量の水を使用する飲食店の厨房は、常に水に関するトラブルの発生リスクがあるものと考えてください。
◆ドライキッチンとウェットキッチン
飲食店の厨房には、ドライキッチンとウェットキッチンの2種類があります。これらは店舗のオペレーションに影響を与えるだけでなく防水工事の有無にもかかわることなので飲食店の開業や厨房の工事を考えている方は、この2つのキッチンについて内容や違いなどを理解しておかなければなりません。ここでは、飲食店の厨房におけるドライキッチンとウェットキッチンの違いやそれぞれのメリットおよびデメリットについて解説していきます。
◇ドライキッチンとは?
ドライキッチンとは、床面を乾燥させた状態で保つ厨房のことを言います。床面が常に乾燥しているということは、雑菌の繁殖を抑えることができるということなので、衛生的な特徴があります。また、床が濡れていることにより従業員がツルっと滑って転んで怪我をするリスクが低く、安心して厨房内を歩いて移動することができます。その他、費用面についてもメリットがあります。主に使用される床材は樹脂でできた長尺シートになります。そのシートの上に耐水性の高いコーティング剤を塗る施工となります。そのため短い工期で完了させることができるので比較的に安価となります。一方で、床の乾燥状態を保たなければならないため、濡れてしまった際の対処が必要となってしまう他、床材の耐用年数が短い(シートの上に塗られたコーティング剤はだいたい5年程度で剥がれてしまう)というデメリットもあります。ドライキッチンは、調理をあまりしないような喫茶店、カフェ、バーなどの飲食店の業態(いわゆる軽飲食と言われる店舗)の厨房床で検討の対象となります。
◇ウェットキッチンとは?
ウェットキッチンとは、床面に直接水を流してデッキブラシなどで清掃ができるようにした(床面に防水工事が施された)厨房のことを言います。排水溝の水が流れやすくするため、床面が傾いているという特徴があります。床材はコンクリートなどの耐久性が高い素材が使用されます。ウェットキッチンのメリットとしては、防水処理が施されているので気にせず床面に水を流すことができ掃除が効率的になります。また、ドライキッチンに比べて耐用年数は長いと言われています。一方でデメリットとしては、床面が常に乾燥しているわけではないので、雑菌が繁殖しやすくカビが発生しやすいです。また、費用面については、側溝に向けて床面に傾斜をつけなければならないことや水漏れしないようにコンクリートで下地を整備してから工事を行わなければならない(工期も長くなってしまう)ため高くなってしまいます。ウェットキッチンは、焼き鳥店や中華料理店などの火や油を多く使用する飲食店の業態(いわゆる重飲食と言われる店舗)では主流の厨房床となっています。
◆主な防水加工の種類
飲食店の厨房での主な防水加工には塩ビシート防水、FRP防水、ウレタン防水の3つの種類があります。その詳細については以下のとおりです。
◇塩ビシート防水
塩ビシート防水とは、コンクリートなどの水を通す素材に、塩化ビニール樹脂製の防水シートを張って保護する防水加工です。塩ビシート防水は、施工難易度が高いので、扱っている防水工事業者が少ないのが現状です。よって工事業者探しに手間がかかります。ただし、塩ビシート防水は、メンテナンスが簡単なことや耐用年数が比較的長いというメリットがあります。
◇FRP防水
FRP防水のFRPは、Fiberglass Reinforced Plasticsのそれぞれの頭文字をとった略で繊維強化プラスチック(ガラス繊維などで補強されたプラスチック)のことを言います。FRP防水の工法は、繊維強化プラスチックのシートを敷いた上から塗装で保護をするため、耐久性、強度、安定性に優れた防水層が作られます。飲食店の厨房の防水工事では人気の工法です。FRP防水の耐用年数は10年~15年となっており、ウレタン防水に比べて長いのが特徴です。
◇ウレタン防水
ウレタン防水とは、ウレタン樹脂製の塗料を塗布して厨房床の表面に塗膜防水層をつくることで防水をする工法となります。ウレタン防水は、他の工法に比べて安価で、入り組んだ形状をした厨房でも短期間に工事をすることができます。その他、すでにウレタン防水がされている厨房床の上に塗料を重ね塗りすることも可能なので、比較的に改修はしやすいといったメリットがあります。反面、定期的なメンテナンスが必要なので長期的にみると費用がかかってしまうといったデメリットがあります。ウレタン防水の耐用年数は、約2年~5年と他の工法に比べて短いです。
◆厨房の防水工事の流れ
ここでは主に飲食店を開業後に厨房の防水工事を行う際の流れを説明していきます。なお、居抜き物件における防水工事についてもその手順は同様となります。
1.厨房内に設置されている厨房機器などを取り外し移動する。
防水工事を行う際は、作業の邪魔にならないように厨房内に設置されている厨房機器や設備などを取り外して移動させなければなりません。厨房機器を設置してからカウンターなどを造作している場合、構造的に厨房機器を排出できないことがあります。その際は、排出経路確保のために、造作を解体する必要があるので解体とその復旧工事にかかる費用については事前に確認しておいた方がよいです。
2.廃棄物を撤去する。
スケルトン状態の物件(建物躯体のみで内装や設備等が一切ない状態)から防水工事を行う際はそもそも撤去するものがないので必要ないのですが、店舗の開業後や居抜き物件で防水工事を行う場合は、解体作業が必要になります。解体作業をすることによって発生した廃棄物は産業廃棄物扱いとなります。当然、法律の規定に従い処理をしなければなりません。廃棄物の処理にかかる費用についても事前に防水工事の予算に見込んでおいてください。
3.防水工事を行う。
防水工事を行う際の障害となるものをすべて店舗から撤去したら、いよいよ厨房の防水工事のスタートです。新たに防水工事を行う場合は、通常通りでの施工で問題ないのですが、居抜き物件のように既に防水工事がされている場合には、既存の防水加工を一旦剥がして新たに防水工事を行わなければならないことがあります。既存の防水加工とこれから新たに行う防水加工の種類が異なる場合や居抜き物件によくみられる防水加工の耐用年数が残っていない(過ぎている)場合は、既存の防水加工を剥がして新たに防止加工をしなくてはなりません。既存の防水加工とこれから新たに行う防水加工の種類が同一であれば、上から塗り重ねて施工することができる場合があります。
4.復旧作業を行う。
予定通りに厨房の防水工事が完了したら、搬出した厨房機器や設備などを再設置し、解体した造作などをもとに戻すための復旧工事を行います。
◆防水工事業者を選ぶ際の注意点
ここでは、防水工事業者を選ぶ際の注意点について解説をしていきます。防水工事業者選びの参考としてください。
◇飲食店の厨房防水工事の経験豊富な業者に依頼をする。
厨房の防水工事を行うにあたって、まずは、業者の過去の実績について、問い合せる前に事前に公式サイトに掲載されている過去の施工事例などを確認するようにしてください。業者によって工事方法や技術レベルに違いがあります。また、防水工事といっても、建物の外壁、屋根、屋上、ベランダなどその領域は幅広く、住宅を専門としている業者もあったりします。そのため、飲食店の厨房の防止工事に慣れていない業者(そもそも経験がなくてできない業者)もあるので注意が必要です。
◇経験豊富な複数の業者に相見積もりをとり比較する。
厨房の防水工事について経験豊富な業者であることの確認のほか、大事なポイントとしては、複数の業者に相見積もりをとることがあります。工事にかかる費用が相場より高いのか安いのか、工事内容はどのようなものかについて比較することで、防水工事の失敗を防ぐことが可能となります。複数の業者に相見積もりをとることで防水工事のだいたいの相場を確認してください。その上で、特に、費用が相場より安い場合には、手抜き工事のリスクも考えられますので注意が必要です。防水工事のそもそもの目的は、漏水を発生させないことである(単に費用が安ければよいということではない)ことを忘れないでください。
◇防水保証書10年が発行できる業者か確認する。
飲食店の厨房の防水工事は専門の業者に依頼することになります。このとき重要となるのが防水保証書の存在です。防水保証書とは、その名のとおり、漏水による損害が発生した際に施工業者が保証の範囲でそれらを賠償し、漏水部分を補修するといった内容となっています。言わば保険のようなもので、これがないと無保険の状態となってしまいます。漏水などそうは起こらないと高をくくってはいけません。実際に、飲食店の営業開始後に厨房から漏水が発生した場合、厨房機器等を全て撤去して補修することは困難で、更に臨時休業させてそれを行うことになるので売上低下は避けられず、そういったリスクがあることもあり、飲食店の厨房の防水工事をやりたがらない業者は比較的多いのが現状です。
逆に言うと、防水保証書の発行ができる業者は信頼できるということが言えるかと思います。厨房の防水工事を行う場合、請負契約前に必ず防水保証書を発行できるのか、できるのであれば何年の防水保証書なのかを確かめる必要があります。飲食店の場合、最低でも10年間は保証してもらえることが理想です。この保証期間が終了を迎える前に防水工事をやり直すことで、常に保証されている状態を保つことができれば安心です。備えあれば憂いなしということです。
◆飲食店の居抜き物件で注意すべき点
厨房に何らかの防水がされている居抜き物件であれば、新たに防水工事をする必要はないと考える人もいるようです。しかし、これは大きな落とし穴です。防水工事から10年以上経過している可能性もあります。10年経過していないまでもその施工に問題がある場合もあります。防水保証書がない場合も少なくありません。防水工事をしてそれほど経っていない居抜き物件であれば問題はないかと思うのですが、ある程度経過している場合は、防水工事をやり直すか、または、やり直さない場合には実際に漏水が起こらないかのテストを行うようにしてください。もし、これらを怠って、営業開始後に漏水が発生してしまった場合、かなりの痛手になる可能性があります。
これまで問題なく飲食店を営業することができていた居抜き物件だから大丈夫と安易に考えてはいけません。飲食店の居抜き物件は、厨房の防水に問題がないことを保証しているわけではありません。特に、防水の場合は、埋設の配管同様に目視で問題がないことまでを確認することができないため、他の造作設備等よりもより深い注意が必要となります。
◆防水の劣化によるリスク
漏水事故に関して最も警戒しなくてはならないことは階下のテナントなどに損害を与えてしまうことです。これは厨房防水の劣化による漏水も当然に含まれます。実際に損害が発生した場合、その責任を誰が負うのかが問題となります。この点、防水設備はテナント所有の造作になるので責任はテナントということになります。防水の劣化による漏水を原因とする損害の具体例としては以下のようなものが考えられます。
・階下テナントの床、壁、天井および機器等の損傷に対する損害賠償
・階下テナントが客席を利用することが困難で休業せざるを得なかったことによる損失補償
その他、漏水の原因究明、修繕などの対処をするため、自身の店舗をしばらくの間休業しなければならない事態となることも考えられます。この場合、本来、営業していれば入ってくる収益が得られないことになるので、これもまた大きなリスクです。特に長年にわたって営業している飲食店や居抜き物件で出店した方は厨房防水の劣化による漏水が発生する可能性が高いので要注意です。
◆おわりに
飲食店の厨房では水を大量に使用するため、店舗の営業開始前までに漏水などの対策として防水工事を行わなければなりません。これは居抜き物件で出店する場合、スケルトン物件で出店する場合、どちらも必要だと考えて防水工事にかかる必要な資金については準備しておいた方が安心です。防水工事をまったくしない場合や防水それ自体が劣化して機能しなかった時などにどうなるのかは既にお伝えしたとおりです。特に飲食店の居抜き物件の場合は状態を目視で確認できるわけではないので注意が必要です。飲食店は水を大量に使用することから漏水に関するトラブルが多い業種です。是非、漏水に関するトラブルを回避するためにも本記事を役立ててください。
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文 飲食店開業応援マガジン[RESTA(レスタ)]編集部
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