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世界市場を視野に入れることが可能で、飲食業界の閉塞感を打ち破る食材

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第四十弾
いま米麺がにぎわう現象とは 後編

 
さて、前編のトリドールHDの話。同社では2028年3月期の段階で海外店舗を現状の6倍以上の4000店へ増やす目標を掲げている。しかしながら、海外における日本食「うどん」は、すし、ラーメン、焼き鳥などと比べて印象が薄い。「丸亀製麺」では、各国での展開をローカライズして行っているとは言え、うどん業態だけで世界を攻めるのは限界があるだろう。
 
そこで着眼したのが「米線」(ミーシェン)」だった。これは、中国雲南省発祥の米麺で、前編で述べた通り、食感はもちもち、ぷりっとして歯切れがいい。辛味があるスープによく絡む。米麺の食文化は中国・東南アジアでは伝統的なものだ。
 
これらの国々の人口を合算すると20億人となる。日本の人口のざっと16倍。しかも、東南アジア諸国の平均年齢は日本の47.7歳(2018年調査)よりも低く、今後市場が発展していくことが予想される。この食文化に親しんでいる人々は華僑をはじめ移民として世界規模で存在している。2018年にトリドールHDがタムジャイサムゴ―をM&Aしたのは、このような観点に基づいた世界4000店構想を進める上での布石と言える。
 
新宿フロントタワー(西新宿)2階にある「コムフォー」の様子。オフィス街の飲食フロアに位置する。【新宿フロントタワー(西新宿)2階にある「コムフォー」の様子。オフィス街の飲食フロアに位置する。】
 

女性顧客アンケートに基づいた新商品

国内の食品事情として、小麦の価格が急速に高騰していている。農林水産省発表の家計調査によると、2017年4月を100として、2022年に入り140を超えている。一方、米の価格は90となっている。小麦製品の値上がりによって不安が募る一方で、米の価格が安定していることから、米粉が小麦粉の代替え商品となることに期待が寄せられている。
 
麺類の新業態を検討する際にラーメンは常のその候補に挙がるが、今日のラーメン市場は多様性を極めていて新規出店したところで情報が埋没しがち。そこで米麺が注目されている。麺類を扱う企業にとって米麺が加わることで事業ポートフォリオが豊かになる。このような観点で米麺業態を開発したのが前編にある麺食のパターンと言える。
 
米麺のチェーン店が販売チャンスを拡大することで、売上増にチャレンジしている事例がある。それはシマダハウス株式会社(本社/東京都渋谷区、代表/島田成年)のフォー専門店「COMPHO」(コムフォー)で都内の商業施設やオフィスビルの飲食フロアに計8店舗展開している。
 
「コムフォー」の定番「鶏のフォー」780円。全体的にさっぱりとした食味。【「コムフォー」の定番「鶏のフォー」780円。全体的にさっぱりとした食味。】
 
同チェーンの販売チャンスの拡大、その1。それは既存店で「まるでパスタな⁉イタリアンフォー」980円(税込、以下同)を1月11日からラインアップした。これは同チェーンの創業20周年記念として顧客から新メニューのプランを募り、その上で開発された。応募は1000件に達し、大多数を占める女性客から寄せられた「パスタ」「にんにく」「クリーム」「トマト」「ホウレン草」「カレー」「明太子」というアイデアから考えられた。具材にソフトシェルクラブを使用、これらをトマトやアメリケーヌソースに絡めている。
 
そして、その2。4月19日にオンラインショップをオープンした。第一弾の商品は「鶏だしのフォー」1パック2食入り700円。「チリトマト」同800円である。この他、フォー(国産米麺)のみの販売も行っている。
 

「ごちゃまぜ」によって閉塞感を打ち破る

次に、最新店舗にフォーのメニューを大々的に取り入れた事例。プロダクトオブタイム(本社/東京都品川区、代表/千倫義)という飲食企業(25店舗展開)が、4月27日東京駅内の商業ゾーン「グランス八重北」に「ヌードルハウス ランドリー」オープンした。
 
同社が脚光を浴びたのは2015年より「大衆居酒屋ビートル」という老若男女が楽しめる業態を展開するようになったこと。昭和から続いているような大衆的な雰囲気の居酒屋で古くて新しいといった意味合いの「ネオ大衆居酒屋」というトレンドをもたらした。
 
「ヌードルハウス ランドリー」の「ランドリー」とは「なんでもごちゃ混ぜになる」という意味で、「人種の交流」「セクシャリティの多様性」「都会ならではの異文化の交流のあるストリート」「老若男女のサードプレイス」などの意味が込められている。店舗中央に据えられたクラフトビール17タップが圧巻であるが、アジア各国の米麺料理を15品目ラインアップしていることが特徴だ。
 
東京駅内の商業ゾーン「グランス八重北」に4月27日オープンした「ヌードルハウス ランドリー」。【東京駅内の商業ゾーン「グランス八重北」に4月27日オープンした「ヌードルハウス ランドリー」。】
 
衆居酒屋の当時から、クラフトビールと東南アジア料理との相性がいいことからこれらのフードメニューをラインアップしていた。今回、多種多様なものがそろう日本の入口の東京駅内に出店することになり、振り切った業態で挑戦してみたかった」という。
 
「大衆居酒屋ビートル」の「ネオ大衆酒場」に対し、「ヌードルハウス ランドリー」のコンセプトは「ストリート酒場」。BGMはジャパニーズ・ヒップホップである。「古くて新しい」ではなく、まさしく「ランドリー(ごちゃまぜ)」。ここに、飲食店の抜本的な新しさが存在する。
 
今にわかに活況を呈してきている米麺のトレンドは、飲食業の閉塞感を打ち破る現象として受け止めていいのではないだろうか。
 
「ヌードルハウス ランドリー」で15品目ラインアップしているアジア米麺料理の一つ「バッタイ」900円。【「ヌードルハウス ランドリー」で15品目ラインアップしているアジア米麺料理の一つ「バッタイ」900円。】
 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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