新業態に見た「俺の~」シリーズの集大成と企業文化
「俺の~」シリーズに歴史あり 後編
俺の株式会社の神木亮氏の解説に基づいて、「俺のGrand Market」、「俺のGrand Table」が誕生した背景を述べていこう。
「ここは当社の中でもよい立地にあることから、当社の今後の取組みを発信する拠点にしていきたいと、ベーカリーのみならず、フレンチ、イタリアン、和食、さらに売り方を含めて新しい試みに取り組むことになりました」
「俺のGrand Market」「俺のGrand Table」につながる新プロジェクトは2020年の4月ごろから始まり、6月ごろからから、単においしいものをラインアップするということではなく、同社の料理長が使っている調味料や食材を深掘りしようという発想になった。
コンセプトは「豊かな食の体験をここから発信していく」。1階には、食品だけではなく、炊飯ジャー、ポット、トースターといった家電も販売している。これは「こんにちはお家時間が重要、調理する段階から『豊かな食を提案する』という発想」(神木氏)からだ。
【新しい「銀座の象徴」を彷彿とさせる「俺のGrand Market」「俺のGrand Table」の外観。】
「俺の~」シリーズの集大成として発信
ここの料理長は、「俺のフレンチ」のトップシェフであるニコラ・シュヴロリエ氏、社歴9年目で「俺の~」シリーズを知り尽くした人物である。デリカテッセンはフレンチのみならずイタリアンの食材や技法を用い、「俺の焼肉」で使用している牛肉を使った料理、「俺の割烹」の料理長が滞在して和食メニューの監修を行うなど、店内手づくりで「俺の~」シリーズの集大成のような品揃えになっている。
デリカテッセンのフードロス対策として「TABETE」というアプリを採用している。これは売れ残りそうになった食品を、このアプリを通してお客に発信していくものだ。「デリカテッセンが余りそうだな」と察知したらこのアプリに挙げると「TABLE」の会員が安く購入することができる。これを「レスキュー」と呼ぶ。大体定価1000円で販売していたものが680円程度となる。このアプリで発信すると30分ほどで売り切れるという。
【1階の「俺のGrand Market」は生産者の想いを伝えるセレクトショップ。】
「俺のGrand Table」でも既存店を代表するメニューをラインアップしている。価格も同様だが、ポーションは既存店のものより7割程度で構成している。例えば、ロッシーニの牛肉は既存店で180gだが、ここでは140gとしている。「個食需要が増えていること、またさまざまなメニューを楽しんでいただきたい」(神木氏)ということからこのようにしている。
中でも目を引くのは「トッピング300円」。トリュフ、フォアグラ、キャビアという高級食材を「当店スタッフオススメのトッピング例」を提案してメニュー化している。ラーメン屋さんの煮卵やチェーシューの感覚で高級食材のトッピングが可能となる。神木氏は「俺のシリーズでは非日常的な体験をリーズナブルにできることが訴求されていてお客様に知られています。この感覚をこのような形で表現しました」と語る。これらでフードメニューの原価率は60%あたりとなっている。
【2階の「俺のGrand Table」は晴海通りと昭和通りの交差点を見下ろす場所で見晴らしのよさも楽しい。】
「ヴィーガンメニュー」を採用しターゲットを拡大
「俺のGrand Table」の話題はもう一つ「ヴィーガンメニュー」を採用していることだ。ヴィーガンとは完全菜食主義者のこと。ここでは「俺んちのサラダ~南部一郎のかぼちゃドレッシング~」780円、「【BEYOND TOFU】カプレーゼ」680円、「ヴィーガンハンバーグ」1280円の3つをラインアップしている。
これらをメニュー化したことの背景について、神木氏はこう語る。
「俺のシリーズは『高級料理をリーズナブルに』という顧客イメージが根強くありましたが、この立地柄から国際的な視野も踏まえて、環境保護であったり、世界が取り組んでいることをしっかりと企業として発信していこうとなりました。そこでヴィーガンの料理もさることながら、1階のテイクアウトの包材も、なるべく脱プラスチックを使用しています」
【「俺のGrand Table」のヴィーガンメニューの一つ【BEYOND TOFU】カプレーゼ」680円。豆腐の食感が濃厚。】
そこでヴィーガンメニューの反響はどうだろうか。
「ヴィーガンの方々のコミュニティの結束力の強さとアンテナの高さを感じました。スタート時は1日1~2食程度でしたが、コミュニティで情報が速く広がり、平日で5食程度、土日で10程度が提供されて、想定していた数量と比べるとかなり高い」
神木氏はこう語る。
「ヴィーガンメニューをラインアップするということは、ヴィーガンの人も一般の人も同じテーブルで食事を楽しむことができるということです。当店にはヴィーガンのフードメニューの他にヴィーガン認証のワインもあります。ヴィーガンだから『これしか食べられない』というため息をつくような感覚ではなく、『食とはもっと楽しいものだ』ということを、われわれの調理や接客をもって伝えていきたい」
オープンして2カ月が経過した「俺のGrand Market」「俺のGrand Table」であるが、客単価は「俺のGrand Market」が2000円弱、「俺のGrand Table」はランチタイム2000円程度、ディナータイムは3000円台後半となっている。
【「俺のGrand Table」の「ヴィーガンハンバーグ」1280円。野菜がふんだんに添えられている。】
客数は昨年12月の場合、1階と2階を合算して平日800人、土日1000人を超えていた。比率は1階が6に対して2階が4.緊急事態宣言を受けてから、平日400~500人、土日は700人後半(8対2)となっている。
「俺の~」シリーズは、ゲーム感覚で消費者心理を捉えた業態としてスタートしたが、クオリティの高さを追求してきたことによって、料理を通じて生産者と顧客をつなぐというサスティナブルな企業文化を培っている。
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第二十四弾(前編)
千葉哲幸(ちば てつゆき)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴36年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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