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「120分」から「90分」へ。オフピーク・プライジングを取り入れる事例も

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第二十二弾
「90分〇〇放題」という新常識 後編

 

「90分コース」が話題性として取り上げられる

居酒屋業界全体では、依然逆風が吹いている。2020年も年末を迎え、本来は宴会シーズン真っただ中にあったが、社員に宴会禁止を通達する会社があったり、宴会自粛ムードが漂っていた。
 
このような趨勢に対抗して、全国に約100店舗を展開する「やきとり家 すみれ」(以下、すみれ)では11月に入り今冬の宴会メニューを発表した。定番の2時間飲み放題付きコース3500円、4000円、4500円、5000円(以上、税込)の他に、顧客ニーズのトレンドを捉えた新作をラインアップした。
 
新作3タイプの中でたちまち話題となったのは「90分ショートステイコース」2000円(税込)。「Go To イート」を使用すると1000円になるという価格訴求も行った。同社がリリースしてすぐにテレビ局各社がニュースとして取り上げ、利用客が増えて、すみれの知名度が高まった。
 

さまざま挑戦したことで新しい発想、売り方を掴む

「すみれ」はコロナ禍で収益をつくるための行動が俊敏であった。テークアウト販売、グランドメニュー変更、半額セール、生ビールのサブスクリプション、そして「冷凍唐揚げ」の販売等々、果敢に行った。
 
「すみれ」の「90分ショートステイコース」2000円、2人前の様子【「すみれ」の「90分ショートステイコース」2000円、2人前の様子】
 
冷凍唐揚げは、食品スーパーの「オオゼキ」より提案された企画である。オオゼキの発想は「すみれ風の唐揚げ」ではなく、「すみれで出されている唐揚げ」を販売するということ。オオゼキの協力メーカーが調理・加工を行い「すみれ」の店舗と同じ価格(大山どりのから揚げ むね肉250g 638円、大山どりのから揚げ もも肉250g 778円)で販売。2万4000食をつくり、9月より約2カ月間販売して売切れ終了した。オオゼキの店舗は主に都下の住宅街にあり、「すみれ」が展開するエリアと重なっていることもプロモーションとして奏功した。
 
「すみれ」の「90分ショートステイコース」2000円、2人前の様子食品スーパーの「オオゼキ」で9月から2万4000食を約2カ月間で完売した【食品スーパーの「オオゼキ」で9月から2万4000食を約2カ月間で完売した】
 
「すみれ」の代表、湯澤忠則氏はこう語る。
 
「これら一連のキャンペーンやプロモーションの中で、特に冷凍唐揚げは、テークアウト、デリバリーやECも含めてプロダクトのチャネルが広がることを示唆してくれた。『冷凍』を勉強したことによって、商品の安定化やオペレーションの改革につなげることができた。コロナ禍だからこそチャレンジできたアウトプットです」
 
また、この間FLコストに対する意識が高まり、コロナ禍以前よりFLコストが下がったという。挑戦することの意識が高まることで、アイデアが豊富となり筋肉質な経営体質をももたらしたと言える。
 

「ダイナミック・プライシング」の道筋を見つける

「〇〇放題」や「コース料理」は、これまで「120分」であったが、これを「90分」と時間短縮し、さらに価格を下げることによって集客力が増すということは、コロナ禍における「発見」である。集客力が強いメニューは目的来店になる。
 
これを上手に取り入れているのが「牛角」が行っている「早割食べ放題90分、1980円」(小学生1480円、小学生未満は無料)である。タン・カルビ・ホルモンなどの定番肉に加え、サラダ・おつまみ・スープ・ご飯などの70品目以上が食べ放題となっている(70分ラストオーダー)。ただし「平日の18時までの来店」という条件を付けている。同チェーンでは「平日の19時から21時は混み合いやすい時間ですが、17時台は比較的混雑が少ない傾向にあります。早い時間への利用を促して混雑を分散するため」と述べている。
 
「牛角」が行っている「早割食べ放題90分、1980円」、平日18時前までの来店が条件【「牛角」が行っている「早割食べ放題90分、1980円」、平日18時前までの来店が条件】
 
新しい生活様式に基づいた外食の楽しみ方として、「三密を回避し、換気に協力する」「混雑時間を避ける」というメッセージがあるが、これに則ったものとしてダイナミック・プライシングを応用した「オフピーク・プライシング」の考え方を取り入れる事例がみられるようになった。これは、①ピーク時間帯の何らかの値上げ、②空いている時間帯の何らかの値下げ、③ポイントバック、その他のメリット設定――ということによって、これまで短時間に集中していたものを分散するというものだ。
 
この象徴的な事例は「お食事処asatte」(東京都渋谷区千駄ヶ谷)である。同店は定食を1000円前後に設定して、「本日の価格予測表」に入店時間ごとの価格を表示している。11時30分~1100円、12時1分~1500円、13時1分~1000円、13時31分~900円、14時1分~800円、という具合である。
 
飲食業界はコロナ禍によってさまざまな苦難を強いられたが、一方では、さまざまな新しい売り方やアイデアをもたらした。このような強かな姿勢と成功した仕組みやノウハウを共有することによって、より生産性の高い業界となっていくことであろう。
 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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