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昼飲みも夜食事もできる東南アジア飯・ベトナミーズ「感動ボブン」

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第二十九弾
「脱・宴会」の居酒屋 withコロナ禍 前編

 
コロナ禍によって特にアルコールを提供する夜型、居酒屋を主力としている外食企業の多くが方向転換を余儀なくされた。しかしながら、その結果生まれた業態が思いのほかポテンシャルの高いものとなっている事例が散見される。
 
今回はその中から、株式会社ダイナック(本社/東京都港区、代表/田中政明)という会社の動向を紹介しよう。
 

1店舗のリニューアルを2業態で表現する試み

ダイナックは、サントリーホールディングス株式会社(本社/大阪市北区、代表/新浪剛史)の連結子会社で外食事業を展開する株式会社ダイナックホールディングス(本社/東京都港区、代表/伊藤恭裕)の事業会社であったが、ダイナックHDはコロナ禍で業績を悪化させ2020年12月期売上高196億96百万円(47.0%減)、最終赤字89億69百万円、48億69百万円の債務超過となった。そこでサントリーHDではTOB(株式公開買付け)を行ない、ダイナックHDは上場廃止となり、この6月からサントリーHDの完全子会社となった
 
ダイナックの顧客はオフィス街のビジネスマンで、比較的年齢層が高く、宴会売上が多く、客単価は4500円~5000円となっていた。同社の売上の40%はこれらの宴会が占めていた。このような需要に対応して、同社では東京駅周辺、新宿駅周辺、そして大阪・梅田駅周辺にそれぞれ約30店舗を構えていた。しかしながら、コロナ禍によって同社の顧客のほとんどがリモート勤務となり、オフィス街での宴会はほとんどなくなった。
 
同社ではこれまで170店舗を展開していて、筋肉質の体質づくりを進めていたところであったが、それがコロナ禍で一気に加速して130店舗に絞り込まれた。
 
そこで、同社の新しい方向性を示す新業態の開発を行うことになった。同社代表の田中政明氏は、この間の経営判断をこのように語る。
 
「コロナ禍が終わっても宴会需要の半分ぐらいは戻ってこないと考えるべきだと。そして、当社主流の店舗規模である80坪をリニューアルする時に、1業態のリニューアルで済ませるのではなく、2業態の合わせ技を行うという必要も出て来るのではと考えました」
 
そこで同社の既存店の中から、東京・神田の店を新業態の実験舞台にすることになった。この店ではコロナ禍以前、宴会の売上が全体の半分を占めていたという。
 
業態開発を担ったのは、ダイナックの業態開発部とサントリー酒類㈱の営業推進本部グルメ開発部(以下、グルメ開発部)の二つで、これらが共同で進めた。
 

テイクアウト、デリバリー、キッチンカーの可能性

これら業態開発二チームの初めての顔合わせは昨年の9月であった。ダイナックがサントリー酒類から提案されたことは、「ニューノーマルな酒場」というコンセプトであった。果たして「ニューノーマルな酒場」とはどのようなものか。サントリー酒類のグルメ開発部担当者はこのように解説する。
 
ベトナムの地図があしらわれたアイコニックな「感動ボブン」のロゴ。
【ベトナムの地図があしらわれたアイコニックな「感動ボブン」のロゴ。】
 
「テレワークをはじめ生活様式も以前とは全く変わってきている中で、さまざまな人がそれぞれのライフスタイルの中で食事をしていただくというイメージです。これまでランチは食事、ディナーはお酒という形で分かれていましたが、今回の業態は昼飲みができるし、夜食事もできるという飲食空間」
 
エスニックソース、たっぷりの野菜、平打ち米麺で構成されたボブン。これを混ぜてから食する。スタンダードな「感動ボブン」は990円(税込、以下同)。【エスニックソース、たっぷりの野菜、平打ち米麺で構成されたボブン。これを混ぜてから食する。スタンダードな「感動ボブン」は990円(税込、以下同)。】
 
まず「感動ボブン」。これは元々ベトナムに「ブンボー」という食事があって(ブンは麺、ボーは牛のこと)、これがフランスに渡り「ボブン」というB級グルメとして定着するようになり、ヘルシーなアジア料理として人気の食事である。これをメインにした東南アジアの大衆食堂である。
 
東南アジアをベースとしたおつまみをラインアップ。これは「骨付き鶏ももスパイス揚げ」550円。【東南アジアをベースとしたおつまみをラインアップ。これは「骨付き鶏ももスパイス揚げ」550円。】
 
次に「酒場ダルマ」。これこそが、コロナ禍前までダイナックが得意としてきた商売、つまり「オフィス街の宴会」から脱する居酒屋である。当初ダイナックサイドではこの業態のイメージをつかみかねていたという。
 
二つの業態の中で「感動ボブン」については即採用された。ポイントは商品や業態そのものが完成されていること。東南アジアをテーマとしていて、ヘルシーな商品が女性客より求められると想像しやすい。インフルエンサーによって広がることが予想される、といったことだ。
 
店舗の立地も住宅街寄りで、小型の物件が可能。テイクアウト、デリバリーに加えてキッチンカーにも対応可能であること。これらはいずれもダイナックにとって初めての領域である。店内と主だった商品は画像で紹介しているが、店内ではベトナムのラジオ放送をBGMにするなど現地のリアルな雰囲気に浸ることが出来る。
 
そしてもう一つの「酒場ダルマ」は、開業に向けてイメージに対する理解が日を重ねる過程で深まっていった。
 
ベトナムの国民的デザートである「チェー」3種(珈琲チェー、感動チェー、南国チェー)、各650円。【ベトナムの国民的デザートである「チェー」3種(珈琲チェー、感動チェー、南国チェー)、各650円。】
フルーツを絞ったカクテルも豊富。「生パイナップルサワー」690円。【フルーツを絞ったカクテルも豊富。「生パイナップルサワー」690円。】
 
(後編)に続きます。

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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