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東京・町田を拠点に36店舗、株式会社キープ・ウィルダイニング

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第八弾
地元を変える「地元密着」 後編

 
東京・町田は、今やすっかりと「カフェの街」になっている。お化粧や服装のセンスのいい若い女性が多く、街の中に個性のある多種多様なものが存在し、それを認める自由な雰囲気が漂っている……。さまざまな飲食店があるが、それにもまして「カフェ」が目立つ。「STRI」の高いクオリティを標準として、既存店に落とし込んでいく意向町田をこのように変えたのは株式会社キープ・ウィルダイニング(社長/保志真人、以下キープウィル)であると筆者は認識している。同社は現在36店舗を展開しているがうち17店舗を町田で展開している。

同社が創業したのは2003年、神奈川・東林間にオープンした居酒屋「炎家」に始まる。その後神奈川の東エリアで展開し、2011年に本拠地を東京・町田に移した。そして、町田と隣接する神奈川・相模原を一つのエリアと捉えた「マチサガ」を唱えて、街づくりを推進していくようになった。

同社では昨年創業15周年を迎えて新しいビジョンを打ち出した。それは「GOOD LIFE BUSO」。BUSOとは「武相」のことで、町田が中心となった武蔵国と相模国を捉えた県境一帯を指し、この場所を先進的なエリアにブランディングするという意志を込めた。

 

「地元」の誇りを探り「武相」の文化を見つける

株式会社キープ・ウィルダイニング代表取締役社長の保志真人氏
キープウィル代表の保志真人氏は、居酒屋甲子園第3代理事長、松田真輔体制の当時(2011年、2012年)に専務理事を務めた。この時に経験したことが、今日の「地元密着」に傾斜するきっかけとなっている。

それは「地方で飲食店を経営していて一緒に居酒屋甲子園の活動をしている人たちが、自分の地元を皆熱く語っているのに自分は何も語ることができないことに気付いた」(保志氏)からであった。

そこで保志氏は「地元に誇りを持って語れるようになりたい」と思い、町田と相模原の頭文字をとり「マチサガ」を唱え、魅力発掘に努めた。

しかし、町田と相模原だけでなく周辺のその他の街にも行く機会が多いことから、あらためて地元について調べていき、そこで「武相」と出合った。

 

武相の歴史は豊富である。まず、「いざ鎌倉」の鎌倉街道をはじめ、参詣や生糸を運ぶシルクロードなど人が行き交うクロスポイントであった。明治時代には自由民権運動が活発であった。このような「多文化」「自由」「寛容さ」というものが武相のアイデンティティだと思うようになった。

カフェの事業は同社副社長の保志智洋氏が推し進めてきた、保志副社長は「町田には女性が安心して楽しく過ごせるところがない。また居酒屋ではお酒を飲まない人がソフトドリンクとは言いにくいこともあり、これからの時勢にも合わないと感じた」といい、カフェをオープンするとこれらを解決できると考えた。そして、2014年以降、町田にカフェを多店化するようになった。

「STRI」は町田の象徴的なレストランとして既に定着

 

「やりたい」自主性が事業領域を広げる

同社では15周年を期して、「『GOOD LIFE BUSO』の実現」と題して5つのプロジェクトを立ち上げた。

1、レストランプロジェクト(美食の街へ)

2、イートローカルプロジェクト(地場の旬を食す街へ)

3、地場プロデュースプロジェクト(価値あるものを残せる街へ)

4、アーチスト・アスリート支援プロジェクト(潤いのある街へ)

5、インキュベーションプロジェクト(人の活力が溢れる街へ)

 

例えば、インキュベーションプロジェクトでは、2018年12月にライブラリー&ホステル「武相庵」が完成、2019年7月にコワーキングオフィス「BUSO AGORA」、そして町田で最もプレスティージが高く同社QSCの象徴となるレストラン「STRI」をオープンした。
コアワーキングスペース「AGORA」では、さまざまなビジネスマッチングが誕生する兆し

 

これらのプロジェクトの担当者は社内公募によって決めた。「やりたい」という自主性がその人物の能力を伸ばし磨かれていくと判断したからだ。その内容が飲食業とは異なっていても、担当した彼らが極めていきたいということであれば、事業として確立していく可能性がある。

「地元をより誇り、より豊かな場所にしたい」――保志氏のこのような思いは、会社の新しい在り方を形成していくことにもなるだろう。

日本語の「飲食店」とは「飲む・食べる・店」と書いて即物的な表現であるが、英語の「restaurant」の語源はラテン語の「estaurãre」(回復する)に現在分詞の「ant」がついた「元気にする食べ物」を語源となっている。英語の動詞にも「修復する」「元気にする」という意味の「restore」がある。要するに飲食店の存在は、人々を元気するということだ。これは古今東西変わらないことである。

2019年12月より稼働した「武相庵」は壁画が目を引く
今回紹介した二つの事例はまさに地元を元気にしている象徴的な存在だ。会社のビジョン、志が浸透した従業員が、「地元」の人々と触れ合い地元の人々を巻き込んだ文化が生まれていく。地元に誇りをもたらす存在が飲食業なのだ。

 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴36年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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