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坪月商110万円超、商業施設で大ヒット続けるハンバーグ「極味や」の秘訣

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第五十七弾

 
「渋谷パルコ地下1階のレストランフロアにあるハンバーグの『極味や』はとてつもない繁盛店だ」
 
知人からそんな話を聞いていたので、11時渋谷パルコ開店から、11時30分レストランフロア開店の間に行って、行列に並べばすぐに入店できると考え、9月のある日、余裕を持ったつもりで11時10分にこの店を訪ねた。すると、すでに40人の行列ができていた。
 
「この人気ぶりはなんだ⁉」と驚き、「ランチタイムを外せば大丈夫だろう」と、14時に再び訪ねたら、その行列の長さは変わりがなかった。そこで行列に並ぶことに。果たして、入店できたのは15時40分。1時間40分並んだことになる。
 
商品はハンバーグと牛肉(伊万里牛、神戸牛)のステーキがメイン。ハンバーグ単品ではSサイズ(120g)1298円(税込)から。ハンバーグとステーキの組み合わせや、ステーキ単品のメニューもある。本部に確認すると客単価は2000円。17坪24席で、坪月商は約110万円とのこと。
 
朝11時10分、渋谷パルコ地下1階「極味や」の行列の様子。同店のオープンは11時30分【朝11時10分、渋谷パルコ地下1階「極味や」の行列の様子。同店のオープンは11時30分】
 

売上のつくり方が仕組み化

筆者が、行列に並んで、見たこと、体験したことを紹介しよう。
 
店内はコの字型のカウンター席が2カ所で構成され、それぞれ12席。メニューの注文は行列に並んでいる時に係の人から質問されてお願いをする。食事はコース仕立てで全体でかかる時間は30分程度。そこで3~4人程度が順繰りと入れ替わる。着席すると、コック帽をかぶった調理人が生のハンバーグを成型する。それをカウンターの内側の鉄板に置いて、表面に焼き目を付けてレアの状態でお客に提供する。お客はそれを自分で好みの大きさに箸でちぎって、さらに鉄板で焼いて食べる。追加注文となるが、セットで食事をすると、ご飯、スープ、サラダ、小さなソフトクリームが付いている。
 
カウンターの中の調理スタッフがお客の前でハンバーグや肉の表面に焼き目を付ける【カウンターの中の調理スタッフがお客の前でハンバーグや肉の表面に焼き目を付ける】
 
この繁盛店は、東京駅の商業施設、グランスタ八重北の1階にもある。この店は23坪で31席、坪月商は渋谷パルコ店と同じ約110万円という。東京駅の店もお客の食事の仕方は渋谷パルコ店と同じ。お客は長い行列に並び、食事をする時間は30分程度で、まとまった人数のお客が入れ替わっていく。このように売上のつくり方が仕組み化されている。
 
同店を展開するのは、福岡市に本拠を置く極味やグループ(代表/松尾和幸)。同グループ代表の松尾氏(51)が和牛を提供する焼き肉店で修業し、2001年に独立。福岡市内の西新の駅(早良区)から少し離れた住宅街に9坪の焼き肉店を開業したことが事業のはじまりだ。お金をかけられなかったのでダクトを付けずに煙モーモーの店。席数も詰め込んで24席。そんな店が大繁盛した。
 
「その秘訣は企業努力です」と松尾氏が語る。
 
当初は朝6時ごろまで営業、そこから3時間くらい寝て、伊万里(佐賀県)に行って、伊万里牛の掃除を手伝い、直接仕入れを行なっていた。これが週に2回。そんなことで、店では伊万里牛のカルビを一皿400円で提供していた。客単価は2000円程度。9坪の店は月商が最高600万円に達した。その後、福岡市内で焼き肉店を展開していく。
 
同グループに転機が訪れたのは2010年3月のこと。福岡パルコが福岡一にぎやかな天神にオープンすることになり、この担当者から「お肉の業態でなにか出来ませんか」と相談を受けた。物件は地下1階で13.8坪。狭小物件であることから、焼き肉ではなく、短時間で食事を終えられる「ハンバーグかカレー」を想定。この業態がヒットすると、チェーン展開ができるのではないかと考えた。
 
筆者が食べた「極味やハンバーグ&特選伊万里牛ステーキ」2508円。これをこれから自分で鉄板の上で焼成する【筆者が食べた「極味やハンバーグ&特選伊万里牛ステーキ」2508円。これをこれから自分で鉄板の上で焼成する】
 

お客にカスタマイズを楽しんでもらう

最終的に「ハンバーグ」で出店することになったが、この商品は元々まかないで食べていたもの。それを商品として一番おいしいブレンドを考えた。筋を取って赤身の状態で挽肉にしている。最初はつなぎも多く入れて、いわゆる「飲めるハンバーグ」にしていたが、オープンしてすぐに肉の旨味をしっかりと味わうことが出来る、つなぎをほとんど入れない、いまのハンバーグに変更した。福岡パルコ店はみるみる繁盛店になり、いま坪月商で120万円を超える状態となっている。
 
お客が席につくと、調理人が目の前でハンバーグをこねて丸めて、鉄板にのせるということを行うが、これはこの店に必要なパフォーマンスとして取り入れられるようになった。松尾氏は同店の食卓の風景を一つの劇場として捉えていて「お客様は席に座った瞬間から『さあ、楽しい食事をするぞ』という思いになっているのですから。こんなことを考えながら、少しずついまの提供方法のスタイルが出来上がってきた」と語る。
 
さらに、このように述べる。
 
「私たちの商売は焼き肉店から始まっています。焼き肉は、店側がお客様に見えないところで肉を焼いてお客様のところに持ってきたとして、それをお客様はおいしいとはまったく思いません。お客様が自分の目の前で自分で焼くことによってアドレナリンが作用するのです。こういうことがおいしさにつながっていく。そこで当店のお持ち帰りのハンバーグには「焼きながら食べてください」と書いています」
 
食事風景はこんな形。食事時間がほとんど共通しているのでオペレーションがたんたんと進む【食事風景はこんな形。食事時間がほとんど共通しているのでオペレーションがたんたんと進む】
 
「レアのハンバーグを自分で焼くときに、箸で小さくちぎったり大きくしたりして焼き上がりの状態を楽しんでいただくのですが、これは博多ラーメンに通じる楽しさだと思います。博多ラーメンは、お客様が店に入ると、まず『麺固めですか、柔らかめですか』『ネギ入れますか』とか聞かれる。そんなことで当社のハンバーグもお客様にご自分でカスタマイズを楽しんでいただくということです」
 

商業施設に出店して管理が行き届く

この業態はいま、福岡に3店舗、東京2店舗、ほか名古屋など全国に7店舗を展開。その特徴はすべて商業施設の中に出店しているということだ。その狙いについて松尾氏はこう語る。
 
「かつて遠隔地に路面店で出店したことがあるのですが、路面店では自分たちで管理が行き届かないということを痛感した。商業施設であれば館側がわれわれの店を管理してくれる部分もあるので遠隔地でも店本来のクオリティを維持することが出来る。自分たちが出来ないことを無理してやるのではなく、やってくれる人に任せるということ」
 
「ウエーティングは続くよ、クローズタイムまで」といった人気ぶり【「ウエーティングは続くよ、クローズタイムまで」といった人気ぶり】
 
フランチャイズ加盟店の問い合わせが相次いでいるが「誰でもどうぞということはありません。相手様のお仕事に対する考え方をしっかりと把握して、お願いするかどうかを考える」(松尾氏)とのこと。店舗展開の基本は直営だという。
 
そして「当社ではハンバーグのミンチの機械の圧力からして細部にこだわっていて、たとえ当社のレシピが外部に流出したとしても、当社のハンバーグを真似ることはできません。そこでいま、安心して店舗展開しているという状況です」と自信を込めて語る。
 
いま全国の商業施設から数多くに出店要請を受けている。それを決断するポイントは、まず、そこに絶対的なニーズがどれくらいあるのか。そして、同社のオペレーションがそこで十分に発揮することができるか、ということ。「いまは、自分たちができることに全力投球をしているという状態」と松尾氏は語る。
 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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