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キッチンカー開業支援・運営サポートを行うベンチャー企業

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第二十七弾
「キッチンカー」支援事業 後編

 
ハウス食品グループ本社㈱(以下、ハウス食品)では、この3月にキッチンカーのプラットフォーマーに参入することをリリースした。名称は「街角ステージweldi」。飲食事業者と遊休地を持つスペースオーナーをつなぎ、飲食業者に向けてキッチンカーの導入から運営までをワンストップでサービスするというものだ。
 
同社がこの事業を行うことになった背景と展望について、新規事業開発部チームマネジャー渡邉裕大氏の解説をもとに紹介しよう。
 

キッチンカーのワンストップサービスを生み出す

ハウス食品でキッチンカー事業が発案されたきっかけは2017年ころのこと。飲食業を取り巻く環境が変化してきて、飲食店の倒産件数が増えるようになり、特に都心では家賃が上昇し続けて、家賃が経営を圧迫するようになったことだ。
 
キッチンカーは移動する店舗であり、営業する場所を変えることが可能で、一等地で営業するチャンスもある。また、ワンオペが基本であるから固定店舗と比べて人件費を抑えることが出来る。
 
渡邉氏は2019年2月の1カ月間キッチンカーをレンタルして、実際に東京・麹町で営業の実験を行った。火曜日・木曜日・金曜日の週3日、インドカレー、カチャトーラ(イタリアのチキン料理)、魯肉飯(ルーローハン)を日替わりで販売した。
 
この時、ランチタイム(11時30分~14時)のみで1日80食程度を販売。単価が700円(原価率31~32%)で約6万円の売上となった。しかしながら、キッチンカーの使用料だけで1日4万円を要した。プラス場所代が売上の15%。売上があっても利益が上がらないという構造であった。また、レンタカー会社と場所を貸してくれる会社はそれぞれ異なることから、契約をする手続きが煩雑であった。
 
パエリアを販売する「スペインクラブ」(東京・新宿西口)。【パエリアを販売する「スペインクラブ」(東京・新宿西口)。】
 
「このようなことをわれわれがワンストップで提供すれば、飲食事業者にとって収益は安定する」(渡邉氏)と判断し、この仕組みを整え、2019年9月から2021年2月までの1年半にわたりフィージビリティスタディ(実行可能性調査)を行った。
 
ここで使用するキッチンカーは同社で3台作成。それぞれ軽自動車を200万~300万円をかけて改造した。出店場所は大手不動産業者に働き掛けてオフィス街の大きなビルの1階を確保した。
 
このフィージビリティスタディの期間、46事業者が利用してトータルで3万5000食を販売した。この実績から、キッチンカーにとって売れる場所、商品、価格帯、さらに飲食事業者とのやり取りについての知見を深めることになり、事業の可能性が見えてきた。
 
カレーを販売する「レストランアラスカ」(東京・初台)。【カレーを販売する「レストランアラスカ」(東京・初台)。】
 

就業者も居住者も同時に存在する立地を想定

こうして「街角ステージweldi」が誕生した。事業者が受けるサービスと料金表は2つのパターンを設けた。
 
まず、パターンAは、「キッチンカー」と「販売場所」を提供するというもので、利用料金は「売上の25%+5000円」。次の、パターンBはパターンAのサービスに「仕込み場」の提供が加わる。利用料金は「売上の35%+5000円」となる。ハウス食品は、場所の提供者に売上の8%を支払う。
 
パターンAで想定される経営指標はざっと以下の通り。1日当たりの店舗の粗利益は5万5000円から、手数料2万5000円とガソリン代・プロパンガス代、さらに食材や包材などの原材料を引いたものが相当する。
 
“ガストロミックレストラン”をうたい独創的な肉料理弁当を販売する「トライベッカ品川」(東京・信濃町)。【“ガストロミックレストラン”をうたい独創的な肉料理弁当を販売する「トライベッカ品川」(東京・信濃町)。】
 
キッチンカーの売上に関して同社では管理しない。信用取引に基づいて飲食事業者は月末〆の翌月15日払いでハウス食品に支払う。これは、「飲食事業者の運転資金に影響をきたさないように配慮した」(渡邉氏)ものだ。
 
また、飲食事業者がこのサービスを利用するにあたって、同社の商品を使用することは課せられていない。飲食事業者が独自に商品を組み立てることで構わない。
 
ステーキ丼を販売するバー&グリル「Music-Drink-Dobe-Dobe-Do」(東京・三軒茶屋)。【ステーキ丼を販売するバー&グリル「Music-Drink-Dobe-Dobe-Do」(東京・三軒茶屋)。】
 
現在、同社が確保している場所は、新宿西口、日本橋横山町、信濃町、初台、三軒茶屋、常盤橋(東京駅北側)の6カ所となっている。リリースしてたちまち応募多数となり、同社と話し合った結果、合意した約10の飲食事業者が導入している。渡邉氏はこう語る。
 
「顧客のターゲットはオフィス街に限定しないで、今後状況が変化することを想定しながら、就業者も居住者も同時に存在するようなグラデーションのような街を想定していきたい」
現段階では、2022年3月に稼働台数を15台に増やし、同社側では月間売上500万円を目指している。
 
飲食企業でも自社のメインブランドをアピールしたキッチンカーを設けて、イベント会場や商業施設の敷地の一角などで営業する事例が増えてきている。この最大の特長である「移動する」という機能は、飲食業の販売機会を大きく広げていくことであろう。
 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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