繁盛店への道

勤務時間の計算方法、残業させるための条件… 多くの飲食店経営者が誤解している労務管理の基本

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休憩時間、本当に正しく取らせていますか?

飲食店経営において社員やパート・アルバイトは欠かせない存在だが、時給や残業など、その労務管理は厳密に行う必要がある。労務管理についての問題が裁判に発展することも少なくない今の時代において、トラブル防止のためにも法律に合った形で日々の労務管理を続ける必要性がある。その基礎知識や飲食店経営者が見落としがちなポイントについて、社労士の浦辺里香氏に伺った。聞き手は、編集責任者の川瀬亮太氏(ルーテージ株式会社)。
 
Q.飲食店ですと、「ワンオペバイト」がたびたび問題視されてきました。どのような点に問題があるのでしょうか?
 
A.まずひとつは、休憩時間がなくなってしまうということです。この「休憩時間」に対する認識は多くの飲食店経営者に誤解されてしまっているのですが、業務にかかわることを何かひとつでもやった時間は休憩に入りません。
 
例えばお客さんが少ない時間に裏で座って休んでいたとしても、電話がきたらその人が出なければならない、メールが来たらその人が対応しなければならないという状況は「休憩」にはあたりません。
 
「アイドルタイム=休憩」ということにはならないんです。電話が鳴っても出なくていい、本当に何もしなくていい時間が本当の「休憩」です。ワンオペバイトではこのような時間は基本的に存在しない、つまり休憩を与えていないというのがひとつの問題点です。
 
浦辺里香さん
 

出退勤時間も正確に

Q.そう考えると、業務開始前の着替えの時間も勤務中ということになりますね。
 
A.そのとおりです。業務にあたります。また、タイムカードで勤務時間を管理している場合、「15分単位」「30分単位」で給料を計算するところは多いかと思いますが、実はこれは法律違反です。
 
原則としては1分単位で1か月分の通算勤務時間をカウントしなければなりません。最終的には30分未満は0時間、30分以上は1時間として計算しますが、そこまでは日々1分単位で管理しなければなりません。これができていない場合「賃金全額払いの原則(労基法第24条第1項)」に違反することとなります。
 
Q.業務終了後の時間はいかがでしょうか。残業に関する注意点はありますか?
 
A.あります。残業にあたって注意しなければならないのは、残業は「上長や管理者の許可や指示」によってはじめて行うものであるという点を予め決めておくのが好ましいと言えます。
 
というのは、仕事が終わってもだらだらとおしゃべりをしていたのにそれを勤務時間に入れてしまうアルバイトもいます。また、逆に誰かが遅刻しそうだというときに自主的に「自分が残ります!」と手を挙げるアルバイトもいるかもしれませんが、上長や管理者が指示または許可をしてはじめて残業させるようにしなければ、管理がききません。
 
厳しい言い方をすると、頼まれてもいないのに勝手に残業をしてその分の賃金を支払え、という状況になってしまうとキリがありません。ここをしっかり管理することで、余計な人件費が発生せずに済みます。
 

辞めさせたい従業員がいる…そんなときは?

Q.最後に、これはナーバスな話なのかもしれませんが、辞めさせたい従業員がいる場合、円滑に進める方法はあるでしょうか。納得して辞めてもらう方法というのでしょうか。
 
A.一方的な解雇というのは原則できませんので、これは話し合いにつきるでしょう。
 
ただ、辞めさせたいと思うまでには必ず何かしらの原因があるはずです。何度も注意をしたり指導をしたりしているのに覚えてもらえない、そのようなことが過去にあるはずなんです。その過程を記録することです。
 
「これまでに同じ注意を何回してきたか」、「このように正すよう何月何日に指導したか」、そういった経緯をLINEでも構いません、残しておくことです。指導した事実があること、その結果どうなったかという記録があることで、感情的にならずに話し合いが進められます。
 
川瀬亮太さん
 
Q.時間をかけて説得するしかない、ということでしょうか。
 
A.そうですね。一方的な解雇、となると近年は裁判によく持ち込まれます。争いの場において、あることないことを主張される可能性もあります。結局、最後は人間味を持った接し方がトラブル回避のカギということになります。
 
それから、辞めてもらうとなったときも、時間的な猶予を与えて次の仕事を見つけやすくするという配慮もあると尚良いでしょう。退職予定者を自分の友人に置き換えて考えてみて、時間をかけて正面から向き合うことをお勧めします。
 
Q.詳細なお話をありがとうございました。
 
A.ありがとうございました。
 
 
浦辺里香(うらべりか)
URABE社会保険労務士事務所代表(特定社会保険労務士)/ブラジリアン柔術紫帯/ライター
早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞社を経て社労士として開業。
■4コマ漫画的ブログ https://uraberica.com/
■Twitter https://twitter.com/uraberica
 
川瀬 亮太
RESTA編集責任者/ROOTage株式会社 代表取締役
飲食店の開業サポート、自社でも飲食店を経営する
 

 

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