繁盛店への道

令和の時代だからこそ、開業前に準備しておくこと 接客コンサルタント井崎 正吾が語るこれからの飲食店サービス

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接客コンサルタント井崎 正吾が語るこれからの飲食店サービス VOL.2


 

人材の具体的スキルと経験値を見極める

飲食店を開業する際に目の当たりにするのは、腕の良いシェフが居れば店ができる、また、ミシュランの星付きレストランに居た人がホールに居れば良い店が開業できる!と思われているオーナーが多いことです。
 
それと同じくらい目にするのが、オーナーシェフとして開業し、接客や従業員教育に行き詰まり閉店してしまうというケースや、有名店出身者を店長として起用したが、スタッフにダメ出しばかりで、店の業態と接客のスタイルが合っておらず、お客様からいつまでたっても支持をされない(客数も売り上げも伸びない)というケースです。
 
シェフに関するケースは、今回の内容から外れるので別の機会で触れるとして、ホール責任者の例の場合、やはり業態やコンセプトによって行う接客や雰囲気づくりは変わるもので、ファインダイニングで働いていたからカジュアル店が簡単にできる、という理屈は通用しない場合が多いように思います。まさに「経験してきた業態の接客しか体得していない」という人が多いということですね。
 
また、優秀なカフェのホールチームでも、ファインダイニングの立上げに加わった際、単価に見合う接客ができず、平均単価が5000円を切ってしまって、カジュアルダイニングになってしまった、というケースがありましたがこちらは想像がつきやすいと思います。
 

「ハウスルール」を決めること

そこで、改めて自分達の作る店の業態に相応しい接客の「スタンダード(基準・標準)」を定める必要が出てきます。
 
簡単に、開業前に準備しておくと良いスタンダード資料の例を挙げておくと、まず店や施設の中で守らなければいけないルールをまとめた「ハウスルール」が挙げられます。
 
例をあげるとすると、「お店のコンセプトやスタッフに期待すること」、「各ポジションの業務内容」、「出退勤の仕方やロッカールームの使い方」、「苦情に対する対応の基本」、「シフトの製作に関する決まり」等々をまとめたものです。
 
開業時のトレーニングを行う際にも、初回はこのハウスルールの読み合わせを行い、店としての決まり事を明確にすることをお勧めします。
 
これは、様々な業態やコンセプトの店から集まったスタッフ達の其々がもつスタンダードを一つにまとめるうえで効果的です。同じ業態でも会社やブランドが異なると、これらのスタンダードも異なるものです。他には、運営ルールとして以下のものもあると良いでしょう。
 
1.「接客手順書」
お客様が入店されてから退店されるまでに行う接客の手順とポイントをまとめたもの。
2.「業務用語集」
スタッフ同士で使用する業務上の用語をまとめたもの。
3.「卓番表」
テーブルの番号や各テーブルに付けられるイスに対する「席番号」を明記した図面。
4.「接客用レシピ」
接客するうえで必要となる料理やドリンク類に関する情報をまとめたもの。
5.「トレーニングチェックリスト」
新人スタッフの技術習得を可視化するためのリスト。
 
最低でも、以上の資料はトレーニング前に用意する(決めておく)必要があると思います。この他にも、清掃チェック表やスタンバイ・クローズ業務のチェック表などあると運営していく中で、抜けのない、秩序ある運営が容易になると思います。
 

誰もが同じ目線でサービスに向き合う

昔のように「仕事は見て学べ」というスタイルが合う仕事もあるでしょうが、上記のような決まり事が明確になっていないことに起因して「教わっていないのに怒られる」「A先輩とB先輩の言っていることが違う」という状況が嫌になって辞めてしまう、というケースは、真面目に働こうとしているスタッフにより多く見られます。
 
逆に、「ハウスルール」が整っていると、新規採用されたスタッフが自宅に帰って資料を見直していた時に、親御様の目にとまり「こんなにしっかりとしたところなら頑張って続けなさい」と後押しをされた、という話をスタッフから聞いたことが有ります。
 
また、新規採用の接客レベルを早く確実に高めるためにも「トレーニングチェックリスト」を作成されることもお勧めします。これは、教えていないのに叱るということを避けることにも繋がります。全ての技術を習得したことも全てのスタッフに開示されることになりますので、教えてもらったこと(スタンダード)を守っていなければ、指摘されても文句は言えない状態となります。
 
即ち店舗内のスタッフが技術的に決められたスタンダードを守り易い、人による接客のばらつきの無い環境づくりができるということです。
 

商品知識を持つことで接客力に自信が生まれる

どの業態でも「商品知識」は、ホスピタリティマインドの次に大切なものです。人件費を抑えるためにタブレットでの注文ができる仕組みを導入している業態で、そのタブレットで必要な情報が引き出せる仕組みになっていれば別ですが、やはりホールにスタッフが居れば、お客様は質問がある場合、スタッフに声をかけるでしょう。
 
まず何といってもその質問に答えられるということが大切です。ソースからニンニクを抜くことができるか、アレルゲンが含まれているか等の情報を答えられるということでもありますが、それ以上に大切なことは、商品知識をしっかりと身につけていることに起因する「自信」をスタッフ達全員が身につけることです。
 
現実的に聞こえないかもしれませんが、訊かれたことにいつでも答えられるという自信が作り出す「オーラ」のようなものが、お勧めした際の説得力や、オーダーテイク時のコーディネート力(品数や提供順番、同じソースが複数の注文の中で被っているなど)となり、お客様の満足感が上がります。自信が伴うことで、よりお客様のニーズに合った料理を提案することができ、CS(顧客満足)が上がるというサイクルがうまれるのです。
 
予約のシステムでリピート客であると確認できるCRM(顧客関係管理)の仕組みに加えて、接客の記憶からお客様が再来店した際に「先日は有難うございました」とお声をかけることで、お客さまが好感をもちサービススタッフにつく、さらには口コミでのPRをしてくださります。このように、とても大切な商品知識の習得に役立つものが先に挙げた「接客用レシピ」です。
 

料理を運ぶだけの業務から接客サービスへ

以前、ランチビュッフェで人気だったお店が、それに満足し、ディナー営業に力を入れていなかった為、売り上げが伸び悩んだ店舗の立て直しに携わらせて頂いたことが有るのですが、アラカルトメニューの知識も季節の特別メニューに関する知識も乏しく、商品を提供すると逃げるように去っていく状態でした。
 
ところが、この接客用レシピをスタッフ達に作成してもらうことで、キッチンスタッフとのコミュニケーションも向上し、お客様に料理に関する質問をされた際に、すぐに確認できるものとなりました。スタッフ一人一人が自信をもって質問に答えることができるなど、次第にスタッフの知識習得レベルも上がり、夜の営業の在り方も単価に見合ったものになってきたという実例があります。
 
しかしながら、いくら先述の資料を用意しても、スタッフ達へ落とし込むために、それらを活用する「徹底力」が、まず誰をおいても店長にあること、そしてキッチン側のサポートが有るか無いかで、その習得レベルやスピードが大きく異なってきます。開店当初から資料が存在していればまだしも、開業してから既に月日が経っている既存店でこれらの資料を改めて作っても、店長の「徹底力」やキッチンの協力が無い場合、経験上ほとんど実用化されないままパソコンの中に眠ってしまいます。全くもって「宝の持ち腐れ」状態です。
 
「徹底力」を具体的な例で挙げると、営業中にちょっとでも暇な時間があれば、まだ商品知識が充分でないスタッフに対して「このソースには何が使われているのだっけ?」「お客様にお勧めするときはどんな風に言っているの?」など、ストレスにならないよう注意しながら質問する、という方法があります。
 
いつ質問されるか分からないという環境があると、しっかり覚えておこうと思うものですし、スタッフ達の習得レベルや能力の確認にもなります。また、営業前のブリーフィングなどで、キッチンスタッフから料理の説明をしてもらったり、質問をしてもらったりすることも有効です。
 
“店全体で商品知識を大切にしている”という風土を作り上げることで、全体的に自然と商品知識を習得する体制が整います。また、そこに付随して新たなトレンドや他店との違いなどを意識する「探求心」も養われてきます。そんな勉強家が多いお店には、お客様から信頼を獲得できる「安心感」が漂います。
 

あくまでもお客様への商品説明は謙虚に丁寧に

そして、このような良い風土ができた後に注意しなければならないのは「知識や技術に酔わない」ことです。これは、勉強して新たな知識を得ると、お客様に対して「〇〇というものがあるのですが」というように、恰もお客様は知らないという前提で、俗にいう「上から」の物言いになってしまう状態がおきることがあります。
 
度が過ぎると、お客様から苦情を伝えられた際に、初期対応で「反論してしまう」という二次クレームにも発展しかねない状況を生む場合があります。プロとして知識と技術をひけらかすことはもっての外ですが、このようについ正論が口をついて出てしまうという状態は、お客様への思いやりや感謝の気持ちが足りない表れだと思われます。過度に迎合する必要はありませんが、お客様のほうが料理やワインに関してよくご存じである場合も少なくありません。
 
お客様への説明の際には「既にご承知のことと存じますが」等の、角の立たない枕詞をつけて商品説明ができるようアドバイスしていくことも大切であると考えます。
 
▷VOL.1はこちらから 前編後編
 

井崎 正吾 経歴

1994年 パークハイアット東京「New York Grill&Bar」開業メンバーとして、サービスに従事する。その後、飲食企業の立ち上げ、営業本部長、代表取締役も歴任。
2008年には「Solid Foundation Japan」を立ち上げる。
2015年 カフェ・カンパニー株式会社 取締役クオリティ本部長に就任。
2018年より「Solid Foundation Japan」の活動を再始動。
日本ホスピタリティ推進協会教育機構認定「ホスピタリティ・コーディネーター」取得
国内外、異業種異業態の飲食店舗200店舗に携わる。

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