6月は、労働保険と社会保険の「年一イベント」の時期?! 飲食店経営で必要な労働法
いよいよ6月ということで、2023年も折り返し地点を迎えました。毎年この時期になると「一年の半分が過ぎてしまった!」と、驚くやら反省するやらのくり返しで、あっという間に年末を迎えます。とはいえ、仕事や学校などの会計年度は4月がスタートですので、新入社員はようやく職場に慣れてきた頃でしょうか。
そして、労働者を雇用する事業主にとって、6月は「年に一度のイベントの準備」をしなければならない月でもあります。厳密には7月10日が期限となりますが、それまでに準備が必要な手続きについて紹介します。
労働保険料の申告=年度更新
毎年、5月の終わりから6月の頭にかけて、労働者を雇用する事業所宛に「緑色の大きな封筒」が届きます。これは都道府県労働局から送られてくるもので、「労働保険の年度更新」に関する書類が入っています。
労働保険の年度更新とは、昨年4月から今年3月までの一年間に支払った賃金総額と、今年4月から来年3月までの一年間に支払う予定の賃金総額に、事業ごとに定められた保険料率を乗じて算定した、労災保険料と雇用保険料(二つを合わせて「労働保険料」と呼びます。)を申告・納付する手続きのことです。なお、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の保険料は毎月納付が原則ですが、労働保険の保険料は年に一度だけですので、ここが二つの保険の納付に関する大きな違いとなります。
気になる保険料の内訳ですが、労災保険料は労働者の負担はないため、事業主が全額負担します。また、保険料を算定する際に必要な「保険料率」が事業の種類によって決まっており、飲食店は1,000分の3となっています(2023年度)。飲食店の保険料率である1,000分の3という数字、実は数多くの事業の中でも二番目に低い率なのです。たとえば林業は1,000分の60、水力発電施設・ずい道等新設事業は1,000分の62、そして金属鉱業や石炭鉱業は1,000分の88という高い率に設定されています*1。
一方、雇用保険料は事業主と労働者双方で負担しますが、事業主の方がやや高い割合となります。こちらも事業の種類によって若干の違いがあり、建設の事業と農林水産・清酒製造の事業は、一般の事業と比べて保険料率が若干高く設定されています。なお、飲食店は一般の事業ですので、今年度の雇用保険料率は労働者負担が1,000分の6で、事業主負担が1,000分の9.5となっています*2。
年度更新で保険料を納付することで、いざという時に労災保険が使えたり、退職した労働者が失業給付を受給できたりと、労働者の安全・安心を守ることができるのです。
*1 労災保険料表(平成30年度以降変更なし)/厚生労働省
*2 雇用保険料率(令和5年度)/厚生労働省
一年間の社会保険料を決める「算定基礎届」
飲食店を始めるにあたり、法人か個人のどちらかで経営を行います。法人のメリットとして、対外的な信用が得られたり節税効果が大きかったりしますが、飲食店はその性質上、個人経営が多いのも事実です。そして個人経営の場合、社会保険に加入する必要はありません。ところが、社会保険への加入も含めて採用を希望する労働者が多いため、「社会保険の適用事業所である」ということが、人材確保の一つの条件となりつつあるようです。
ちなみに「社会保険」とは、健康保険と厚生年金保険の二つを総称した呼び方です。よく、社会保険=健康保険のことだと勘違いしている人がいますが、実際には厚生年金保険もカバーしています。そして社会保険に加入している事業主は、毎年7月に「算定基礎届」を提出する必要があるのです。
これは、4月・5月・6月に支払われた給与や役員報酬の金額を元に、現在の保険料等級との間に大きな差が生じていないかを確認するもので、算定基礎届によって決定された等級が、9月から翌年8月までの等級として適用されます*3。
もちろん、昇給や降給または転居による交通費の変更など、固定的賃金に大幅な変動がある場合は、その都度(正確には、固定的賃金の変更後3か月を経過した翌月)、月額変更届の手続きが必要となります。しかしこういった変化がない場合は、毎年、年度初めの3か月間に支払われた報酬額から、向こう一年間の等級を決定するのです。
算定基礎届は6月支給分の報酬までを含むため、7月に入ったらすぐに届出をする必要があります(期限は7月10日)。なお、算定基礎届に関する必要書類は、6月中旬以降に「茶色の大きな封筒」で事業所へ送付されます。
*3 定時決定(算定基礎届)/日本年金機構
年度更新と算定基礎届は事業主の義務
労働者を雇用するということは、ただ単に「給与を支払って仕事をしてもらう」だけでは足りません。法律上、事業主が届出を行わなければならない手続き、中でも年に一度の大イベントである、「年度更新」と「算定基礎届」を忘れてはなりません。
飲食店経営はほとんどの場合、オーナーを含む従業員全員が現場での業務に従事するので、契約書の作成や各種届出など、書類関係の作業がおろそかになりがちです。しかし、「ブラック企業だ!」などと悪口を言われないためにも、緑色と茶色の大きな封筒が届いたら、すぐに準備を開始しましょう。
文:浦辺里香 特定社会保険労務士、ライター。飲食店などの接客・サービス業を中心に顧問を務める。趣味はブラジリアン柔術(茶帯)、クレー射撃スキート(元日本代表)。雑記ブログ「URABEを覗く時、URABEもまた、こちらを覗いている。」を、毎日投稿中。
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