NEW ニュース・特集

「外食産業を憧れる職業に」をミッションに「週休2日」と「働き方改革」を進める

画像

フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第六十九弾

 
2017年以来、東京・表参道で「Bistro plein」を営んでいた㈱PLEIN(代表/中尾太一、以下プラン)が、2023年12月銀座7丁目に新築された銀座髙木ビルに移転して、ここに「プラン銀座本店」(客単価:ランチ8000円、ディナー1万8000円)、「フレンチバルギンザby plein」(同:ランチ2500円、ディナー6000~7000円)、さらにサウナ「サロン・ナインティワン」を設けて、本部機能を充実させた。
 
高層ビルの右手が銀座髙木ビルで、トップのツリーハウスのような中に「PLEIN銀座本店」が構える【高層ビルの右手が銀座髙木ビルで、トップのツリーハウスのような中に「PLEIN銀座本店」が構える】
 
ここに出店することになったのは、代表の中尾氏(32歳)が3年半前に㈱髙木ビル代表の髙木秀邦氏よりこのビルの構想を伺い「プランの本店として入ってほしい」と請われたことがきっかけとなった。また、髙木ビルが手掛けた麻布十番のビルの1階に、2021年4月に出店した経緯もある。
 
このビルは12階建てで、このうち5フロアをプランの施設が占めている。また今年1月、虎ノ門ヒルズステーションタワーに出店。さらに6月京都に出店と、短時間の間に劇的に新しい体制を整えた。現在は直営9店舗となっている。
 

一つのビルに複数施設を設けて「働き方」を整える

プランのミッションは「外食産業を憧れる職業に」ということ。今回の銀座髙木ビルの計画は、これを一層推進していくために決断したことで、「働き方」に主眼を置いて考えていったという。
 
同社の9店舗のうち、路面店は基本的に週2日店を休んでいる。商業施設様にも、出店の条件として定休日があることを前提に話を進める。虎ノ門ヒルズの店でも同社の事情を理解もらい、出店までムーズに進んだ。
 
今回の「移転」と「働き方」とは、「生産性」に主眼が置かれたという。それは、銀座本店、虎ノ門ヒルズ、銀座の1階、と11階12階にサウナをオープンしてと、選択と集中をしながら増店も行ってきた。
 
1階の「フレンチバルギンザby plein」はふらりと立ち寄ることができる感覚【1階の「フレンチバルギンザby plein」はふらりと立ち寄ることができる感覚】
 
銀座の場合、9階の銀座本店のフレンチと1階のフレンチバルという具合に業態を変えているのは、営業のピークタイムが重ならないようにしているため。フレンチのピークは18時~19時で、バルは少し遅れて19時30分あたり。そこで一つの例として、最初9階に正社員を6人集めて圧倒的なおもてなしを行って、その後19時30くらいになったら、このメンバーはさっと1階に降りて来て、という具合に、同じビルの中の2店舗を回している。
 
「PLEIN銀座本店」は9階にあり、銀座の夜景が見事【「PLEIN銀座本店」は9階にあり、銀座の夜景が見事】
 
サウナも同様。ここのスタッフが清掃のルーティンが終えたら、レストランの洗い場に入って、洗い場を3人体制で行う。これによって洗い場が滞ることがなくなる。中尾氏は「当社が誇るところは、絶対にアルバイトのシフトカットをしないこと。早上がりということはない。全体の仕事が最適に存在している」と語る。
 
銀座のシフトにタクシー利用で5分の距離にある虎ノ門ヒルズの店も組み入れている。虎ノ門ヒルズはオフィス街であるために土日祝の売上が低い。しかしながら、たまにイベントがあると売上げが跳ねたりする。このようにシフトコントロールが難しい。そこで虎ノ門ヒルズでは銀座と連絡を取り合って、このエリア全体で労働時間を管理して生産性を高めている。
 
「従来であれば50人くらいでやらないといけないことを40人くらいでやっている、という体制が整ってきた。一人一人に払っている人件費の額は外食産業の中では高く、休みも取れている。しかしながら、売上に対しての人件費総額はかなり低いと思う」と中尾氏は語る。
 
「フレンチバルギンザby plein」は、コースメニューを一皿に乗せた感覚のプラッターが定番【「フレンチバルギンザby plein」は、コースメニューを一皿に乗せた感覚のプラッターが定番】
 

「就業動機」が緩くても飲食業の面白さを気づかせる

中尾氏は、飲食業の原理原則は「採用」にあると考えている。同社の採用基準は「いいやつ採用」というもの。それは「『いいやつ』を集めて店を運営すると、基本的にいいサービスになって、いい料理が出る」と考えているからだ。「いいやつ」の見つけ方とは、何かシンプルにおしゃべりをしているときに、「ありがとう」とか、「ごめんなさい」を自然と言える人のこと。採用をいったん間違ってしまうと、その後の教育、オペレーションが、結局どこかでずれてしまう。だから「採用で9割が決まる」という。
 
「私は『出店するから採用する』ではなくて、『人がいるから出店する』という発想をしている。これをやり続けていくことによって、理念の浸透は速く価値観も共有できる」と中尾氏は語る。
 
プランでは「いいやつ採用」で入社してきた社員を3つのタイプに分けている。
 
1、残業しないという社員。
2、週休2日で残業をするが、みなし残業以上の仕事はしないという社員。
3、最終的には中尾氏のように独立したい。将来は子会社の社長になりたいという社員。
 
そこで中尾氏は、これらの3つのタイプに対応するときの顔を使い分けている。それはみんなにとって多様性であって、それを認めることも働き方改革だと思っているからだ。そこで入社した人に、この中から1つを選んでもらう。すると、3の人が1の人に対して「あいつやる気ない奴だから、早く帰せ」なんて思うことは全くなくなる。それは、おのおのがそれぞれの枠の中で働いているからだ。
 
オーナーシェフの中尾太一氏。2017年に25歳で独立して名声を築いてきた【オーナーシェフの中尾太一氏。2017年に25歳で独立して名声を築いてきた】
 
飲食業に行くと決めながら、最初能動的でなかった1の人も、何となく同社に3年居たら、できることが増えていて、そこで「仕事のエンジンを掛けたいぞ」という人がいるという。これまでの飲食業は、ここに入った瞬間に「休みない」「給料低い」とかをフルに強いられてしまい、「飲食の仕事は、もしかしたら楽しいんじゃない?」という助走期間がないうちに辞めてしまうパターンが多かったのでは、という想いもある。そこで、1のように最初に緩くやらせていくうちに、「やる気」に気づいた人は、勝手にどんどん3のタイプになっていくという。
 

「週休2日」は生産性を上げる可能性をもたらす

中尾氏は、「飲食店単体で商売が成り立たせるのは無理ではないか」と考えている。BtoCのお客からだけお金をいただいて売上・利益を上げていくといった、従来の飲食業のモデルは破綻しているのではないか、とも述べる。大多数の飲食店実態は、「10円上げた」ということをじりじりと展開している。プランの場合は、逆に「もっと安くできないか」ということを考えている。
 
では、メニューの価格を上げないで、どのようにして売上・利益を上げていくのか。中尾氏は一例として、地方自治体からPRしたい食材を預かってメニューとして提供するという売り方を紹介してくれた。それは、同社の9店舗は全部一等地にあり、これまで料理のクオリティが高いことで名声を築いてきたことから、店舗をショールームにするような発想で、そのメリットをフルに生かすことで売上・利益を生み出している。
 
こうして、「『プラン』の場所とかクオリティを考えると、相場の10%から15%くらい安いよね」といった印象を抱いてもらう価格設定を全ブランドで意識している。この部分の利益率を下げていても、店がショールームとしての役割を担うことによって、会社全体で見るとちゃんと成立するという値付けを行っている。
 
虎ノ門ヒルズステーションビルの「BRASSERY by plein」はオフィスワーカーに対応したメニューをラインアップ【虎ノ門ヒルズステーションビルの「BRASSERY by plein」はオフィスワーカーに対応したメニューをラインアップ】
 
また、同社の店には定休日が2日あることから、そのうち1日を、独立したいとか子会社の代表になりたいという人のチャレンジキッチン的な形で稼働させると、それは会社の副収入になる。中尾氏はこう語る。
 
「ランチとディナーを全部通しでやっているというところは、レストランの限界で営業をしている。それに対して、当社では余白を持って営業をして経営を成り立たせている。これからは、この余白をどのようにして活用していくか、ということを考えていきたい」
 
「週休2日」とは、雇用を健全に行うための施策であるが、中尾氏の発想は「生産性」を上げる可能性をもたらす源泉と言えそうだ。
 

 
千葉哲幸(ちば てつゆき)
 
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

「ニュース・特集」の関連記事

関連タグ

「ニュース・特集」記事の一覧