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コロナの中でつくった2業態が大ヒット、3業態が整い成長戦略を描く

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第六十弾

 
コロナ禍にありながら大きく成長した飲食業がさまざまある。ここでは株式会社FS.shake(本社/東京都豊島区、代表/遠藤勇太)のことを紹介しよう。同社の創業は2013年1月、創業丸10年である2023年9月期は店舗数74で売上高が62億円となっている。近年まれな急成長を遂げている。
 
料理人から経営者に転じて業容を拡大するFS.shake社長の遠藤勇太氏【料理人から経営者に転じて業容を拡大するFS.shake社長の遠藤勇太氏】
 
代表の遠藤氏(40歳)は料理人として飲食企業に入り、29歳で独立。「水炊き」を看板メニューとした飲食店を営んだ。その後、大箱で展開するようになり、焼鳥居酒屋とは差別化した「鶏料理」の居酒屋で展開していくようになる。店名は「とりいちず」。水炊きの鍋をお通しにするなど、独創的な路線を歩んでいた。
 
店頭に掲げた「生ビール199円」(税込219円/以下同)というアピールもインパクトがあった。そして客単価は2000円。「安くてうまい」というポジショニングで若者客を引き付けた。コロナ禍となっても店舗を展開して「とりいちず」は50店舗体制となった。しかしながら、営業の環境は厳しさを増していった。
 
このような中で取り組んだ新業態が、同社の売上を伸ばす原動力となった。それは「シーシャバー」と「もんじゃ」である。この2つの新業態がいかにして誕生し、生産性の高い業態となっていったのか、ここで解説しよう。
 

「違和感を解消すればチャンスがある」

2021年4月末、遠藤氏はある媒体の記事で「シーシャバー」という業態を知った。シーシャとは「水たばこ」のこと。水タイプという専用の喫煙具を使用して、葉たばこの煙を水にくぐらせてろ過したものを長いホースから吸う嗜好品である。
 
シーシャバー「C.STAND」の従業員がシーシャを吸引するパフォーマンスを見せる【シーシャバー「C.STAND」の従業員がシーシャを吸引するパフォーマンスを見せる】
 
遠藤氏が読んだ記事は、「80席のシーシャバーが新宿にオープンした」という内容。時短営業やアルコール提供自粛のご時世にあって、「こんな業態が新規にオープンするとは、儲かっているに違いない」と考え、早速その店を見に行った。
 
遠藤氏にとって「こんな文化があったのか」という印象。この店を皮切りに、さまざまなシーシャバーを視察してまわった。そこで、遠藤氏は自分が展開してきた飲食業とは異なる「違和感」を抱くようになった。遠藤氏は「この違和感を解消したシーシャバーを出せば、われわれは後発だがチャンスがあると思った」と振り返る。
 
遠藤氏が抱いた「違和感」とはこのようなことだ。まず、「値段が高い」。初めて男3人で入った店は、シーシャを3台使用し、1人ドリンクを2~3杯飲んで、支払いが1万6000円を超えた。ほかの店も似たり寄ったり。「もっと満足してもらえるやり方があるはずだ」と考えた。
 
次に、「店が怪しい場所にある」。多くの店は古い雑居ビルの中で営業している。「初めて利用するときに、それが知人の紹介とは言え二の足を踏むだろう」と感じた。そして、従業員が私服で商売をしていて「お客への対応の仕方がマニュアル化されていない」。さらに、「大手が存在しない」。これらがシーシャバー業界の特徴であると、遠藤氏は理解した。
 
昨年2月にオープンした「C.STAND」新宿歌舞伎町2号店のウッドデッキのスペース【昨年2月にオープンした「C.STAND」新宿歌舞伎町2号店のウッドデッキのスペース】
 
こうしてFS.shakeでは2021年7月、同社のシーシャバー「C.STAND」の1号店を、東京・新宿三丁目にオープンした。31坪のカフェの居抜きで、シーシャバーのポイントとなるランプやソファなどの調度品を取り揃えて、内装工事に500万円をかけた。
 
オープンしたものの「たばこ」を扱っているために、表立った宣伝広告が出来ない。また居酒屋のように「生ビール99円」といったキャンペーンが出来ない。そこで取り組んだことは、SEOを上げることやインフルエンサーの活用だった。
 
新宿歌舞伎町2号店では足湯の付いたカウンター席も設けている【新宿歌舞伎町2号店では足湯の付いたカウンター席も設けている】
 
シーシャバーは「目的来店」の店であることが特徴。新規のお客が来店するきっかけは、価格訴求ではなく、同じシーシャファンのクチコミである。そして、商売が軌道に乗るまでは、著しいほどにスロースタート。一日の売上が4万5万という日がしばらく続いた。このようなシーシャバーの特性に直面して、遠藤氏は「毎日こつこつと商売を行うことで、売上が出来ていった」と語る。「C.STAND」の客単価は2400円。シーシャバーの世界に新しい価値観をもたらして、この分野のマーケットを拡大していった。
 

「安くてうまい」に振り切る

もう一つの新業態「もんじゃ」は、遠藤氏がかねがね手掛けてみたいと考えていた商売であった。
 
もんじゃはコロナ前から行列ができる人気店が存在していた。特に新しい商業施設の中で繁盛ぶりが際立っていた。その特徴は従業員がお客にもんじゃを焼いて差し上げるということ。これで単品メニューが1600円あたりである。
 
FS.shakeが信条としてきたことは「安くてうまい」である。従業員がお客のもんじゃを焼いて差し上げる方法は、営業スタイルのスタンダードとして踏襲して、2022年9月神奈川・川崎に「もんじゃ酒場だしや」の1号店をオープンした。
 
昨年4月にオープンした「もんじゃ酒場だしや」池袋西口店の看板。「居酒屋」をアピール【昨年4月にオープンした「もんじゃ酒場だしや」池袋西口店の看板。「居酒屋」をアピール】
 
この売り方はお客に受けた。しかしながら、人気店のサービスの仕方を踏襲しているだけでは中途半端のイメージを拭い去ることが出来ないと判断。そこで、もんじゃは「お客から要望があったら、従業員が焼いて差し上げる」という方法に切り替えた。
 
そして、今年の1月から完全に「安くてうまい」に振り切った。もんじゃはすべて1枚990円(1089円)。ドリンクは全品299円(329円)。食べ放題飲み放題を2980円(3278円)に設定した。「もんじゃとはそもそも平日にお客様は少なく、土日中心型の営業になりがちだが、この売り方にしてから平日もにぎわうようになった」と遠藤氏は語る。
 
営業時間は12時から翌朝まで。筆者は「もんじゃ酒場だしや」池袋西口店を平日13時ごろ訪ねてみたところ、地下1階の2つに分けたフロアの1つが満席だった。客層は見事に20代前半のZ世代である。筆者は「つぼ八」に象徴される大衆居酒屋チェーンが続々と立ち上がって勢いを増していた1980年当時大学生で、まさにこれらの中心客層であったが、これらに似た光景がこの「安くてうまい」の路線で展開されていた。
 
「お客から要望があったら焼く」というサービスに切り替えたところFLコストは繁盛店で50%となった【「お客から要望があったら焼く」というサービスに切り替えたところFLコストは繁盛店で50%となった】
 

2年間で1本の柱が3本の柱へ

現状、FS.shakeのシーシャバーは21店舗、もんじゃは15店舗になっている。これらの業容は、コロナ禍にあったわずか2年の間につくり上げた。繁盛店として定着するとFLコストがシーシャバーでは40%、もんじゃの場合は50%になるという。シーシャバーの客単価は2400円と前述したが、もんじゃは2700円。両業態とも客単価3800円、4200円のアッパーな業態の展開も開始した。
 
創業の業態である「とりいちず」は客単価が2000円であったが、コロナ禍による原材料高騰によって原価率が31.5%から33.5%に上がったことから、生ビール199円だったところを299円(329円)に引き上げ、新しいドリンクとして「生搾りレモンサワー」150円(165円)を導入してZ世代に愛される業態を維持している。これによって、客単価は2200円に近づくようになった。
 
平日13時ごろの池袋西口店の様子。若者が多い街ではオープンと同時に満席になる【平日13時ごろの池袋西口店の様子。若者が多い街ではオープンと同時に満席になる】
 
このようにFS.shakeでは、コロナ禍にあって新業態を生み1本の柱から、3本の柱へ業容を多様化することが出来た。そして、3本のそれぞれの柱が、客単価を引き上げる道を切り拓いている。
 
同社の年商を冒頭で述べたが、2024年9月期は80億円を想定している。事業内容にしろ、これらを支える主要客層にしろ、FS.shakeはいま最も時流を捉えることが出来ている飲食企業と言えるのではないだろうか。
 

 
千葉哲幸(ちば てつゆき)
 
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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