過去最高売上の店が続出している背景にアウトバウンド対策が奏功
一歩先行くKUURAKU GROUP 前編
KUURAKU GROUPという外食企業がある。創業者であり現社長の福原裕一氏(57)は日本マクドナルドの創業者である藤田田氏の著作に感銘を受け、日本マクドナルドに入社。その後、飲食業で企業しようと焼鳥店で経験を積んで、1999年4月に「炭焼BARくふ楽 本八幡店」をオープン。以来飲食店を展開するようになった。業態は主に焼鳥店で東京を中心に15店舗を展開している(ほかに教育事業を4施設)。
同社の特徴は、創業間もない2004年にカナダに出店して以来アウトバウンドを推進していること。現在海外はカナダ8店、インド7店、スリランカ、インドネシア、アメリカ各1店と18店。国内よりも海外の店舗が多くなっている。
【海外の店舗は日本とまったく同じ内容。オープンキッチンで焼台があり丁寧に焼き上げる様子をショーアップ】
インバウンドは久々の訪日が楽しみ
福原氏はfacebookでの発信を熱心に行なっていて、コロナ禍での同社の動向が実に多岐に及んでいた。本来の焼き鳥店の営業がほとんどできなくなってきた中で、日中かき氷やフルーツサンドを販売したり、またキッチンカー営業にも取り組んだ。これらは社員が自発的に行っていたことで、同社の能動的な企業文化が伝わってきた。
ここでの最近の話題はインバウンドが活発化してきていること。特に、同社の銀座、新宿、渋谷の店は2022年10月以降、過去最高の売上を記録している。顕著な例は「福みみ銀座店」で、25坪55席の規模にあって11月に1300万円を超えた。「福みみ新宿三丁目店」は35坪68席で1475万円となった。これらの店ではインバウンドが6割を超える店舗もある。
同社では、コロナ前のインバウンド対策を2015年から行っていたとのこと。当時はトリップアドバイザー対策として従業員が食事を終えたインバウンドのお客に「トリップアドバイザーにフィードバックをお願いします」と直接お願いしていた。この会話を闊達にするために社内で「おもてなし英会話」を開講していた。
コロナ禍となりインバウンドが途絶えたが、コロナ前に行っていたインバウンド対応が現地で「日本で体験した良い飲食店」として広まっているという。コロナ前のインバウンドは中国からが多かったがいまは圧倒的に韓国からが多い。彼らに同社の店を知ったきっかけを尋ねると、現地のSNSのコミュニティの中で同社の店を推薦していたからという。
【開放的なデザインの海外の店舗の事例。世界的に鶏肉は宗教的なタブーが少ないことが強みにもなっている】
福原氏によると「いま来店しているインバウンドのお客様に『久しぶりの日本を楽しみにして来ている』ということが感じられる」という。そこで福原氏はfacebookで「お客様が来てくれて私たちはとてもうれしい」という店側からのウェルカム感が伝わるような発信を心掛けているという。「おいしいですよ」「おいしかった」といったアナログな接客がとても重要だという。これらを体現することで、翌日も来店するインバウンドもいるという。このような楽しい記憶が本国に帰ってから周りの人々に伝わることであろう。
外国人従業員が多いことが身近な存在
さて、同社のインバウンドに対するリテラシーは、いち早くアウトバウンドに取り組んできていることが役立っている。カナダで展開している店舗は「ざっ串」という店舗だが、現地での同店のファンが日本の同社の店舗にやってきて「『ざっ串』と同じだ!」と感動されることがある。同社が海外で展開している店は日本と同じ焼鳥店の形態、オープンキッチンで中央に焼台を備えている。また、現地の従業員の同社の“おもてなしの心”を伝えて圧倒的に満足感の高い店として定評を得ている。そこで、現地で類似店舗ができても勝ち続けることができていて、同社の店のファンは「日本の店に行ってみたい」と憧れを抱くようだ。
また、同社では社員として外国人の採用を積極的に行っている。これはコンビニなどのレジで外国人従業員が応対しても、ほとんどの人が違和感を抱かなくなったこと。そして外国人を社員化することで、彼らが将来本国に帰ろうと考えたときに、会社が彼らをサポートすることができるのではないかというアウトバウンドの発想があった。
外国人の採用については日本語学校に出向いて留学生にプレゼンを重ねた。こうして、ネパール、ベトナム、中国の人材を社員化したところ既存の日本人の社員も好感を抱いた。その後、彼らの後輩が集まるようになった。現在全社員40人のうち、外国人社員は12人となっている。
【海外現地でKUURAKU GROUPの店が強いのは、同社ならではの“おもてなしの心”を浸透させているから】
このように創業間もない当時からアウトバウンドを積極的に進めたことで、日本の店舗に外国人の従業員が常に身近にいる環境を生み出し、インバウンドに接するリテラシーを高めて、コロナ禍が落ち着いてきた中で、過去最高の売上が続出しているという状況をもたらしているのであろう。
近年「ダイバーシティ&インクルージョン」の重要性が説かれている。これは「人々の多様性(=ダイバーシティ)を認め、受け入れて活かすこと(=インクルージョン)」ということだ。KUURAKU GROUPはその先駆けであり、今日的な企業成長の道筋を歩んでいると言えるだろう。
(後編)に続きます。
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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