ニュース・特集

北海道で六次化を進める飲食業が東京圏で多店化できるワケ

画像

フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第十七弾
イーストン 前編

 
北海道札幌市に本拠を置くイーストン(代表/大山泰正)では、近年東京圏での出店ペースを上げてきている。その顕著な例は「麦と卵」。1号店は昨年2月東京・吉祥寺。その後笹塚、三鷹と続き、この8月20日渋谷宮益坂、9月21日神奈川・川崎、10月26日東京・新宿西口と続いている。年内中には6店舗となる。この店の名前を正確に言うと「下川六○酵素卵と北海道小麦の生パスタ(しもかわろくまるこうそらん) 麦と卵」という。つまり、「ブランド卵を使用するなど北海道産食材にこだわった生パスタの専門店」という店だ。客単価1000円前後でお手軽である。もう一つ、同店の特徴は生パスタの「つるっ」「もちっ」とした独創的な食感である。これは店内のパスタマシーンで適宜製麺しているものだ。
 
同社の設立は1986年5月、札幌市の歓楽街すすきのでバーを開業して飲食業の道を歩み出した。その後、札幌市内でカジュアルレストランの展開がヒットしていくが、これからの成長を想定する上で東京圏への進出を決意した。その前哨戦として2003年4月宮城県仙台市に進出、そして2007年9月東京に初進出を果たした。現在は札幌20店舗、仙台9店舗、東京20店舗の全49店舗(2021年10月末現在)となっている。
 
 9月21日、川崎アゼリアにオープンした店は正午になる前に満席になる
【9月21日、川崎アゼリアにオープンした店は正午になる前に満席になる】

 

差別化のために「北海道産」を打ち出す

イーストンでは店舗展開を進めていく過程で、主力業態はカジュアルイタリアンと焼鳥店に定まっていくが、これらは類似業態が数多あることから差別化のポイントを模索するようになった。そこで同社の発祥であり本拠を置いている「北海道」を打ち出すようになった。
この方向性は進化していき、自社で六次化に取り組むことを検討するようになり、一次産業を手掛けることを模索した。そこで金融機関からM&Aの案件を紹介された。それが昭和39年(1964年)創業のあべ養鶏場(当時、阿部養鶏場)であった。
 
この養鶏場は北海道上川郡下川町という北海道のほぼ北端の内陸部にあり、日本の養鶏業としては最北にある。ここでは鶏の飼料として生の米糠にEM菌(有用微生物)を5日間加温しながら培養しトウモロコシを主とした飼料17種類をブレンドし与えていた。これによって鶏の腸内環境は健康で、ストレスがなく産卵していた。さらに鶏の健康を考慮して独自の配合飼料を与えるようになった。内容は、トウモロコシ(3種類)、精白米(2種類)、マイロ(イネ科の一年草)、大豆油かす、魚粉、カニ殻、炭、ミネラル、ガーリック、塩、発酵飼料(乳酸菌)、米糠(国産)、大豆かす、昆布酵素となっている。
 
店内にパスタマシーンを導入して適宜生パスタを製麺している
【店内にパスタマシーンを導入して適宜生パスタを製麺している】
 
同社では老朽化していた設備を近代的なものに一新して、生産体制を整えて、「下川六○酵素卵」というブランドをつくった。ちなみに「六○」とは、養鶏場のある下川町では気温が夏30度、冬はマイナス30度となり、「気温差が60度ある厳しい自然環境の中で生育する元気で健康な鶏が産卵している卵」ということを意味している。

 

人気ナンバー1をうたう「究極のぺぺたま!グリルチキンと『下川六○酵素卵』がのったオイルソース」980円(税込、以下同)
【人気ナンバー1をうたう「究極のぺぺたま!グリルチキンと『下川六○酵素卵』がのったオイルソース」980円(税込、以下同)】

 

コロナ禍で物件の世代交代が展開

イーストンでは2年ほど前から多店化する業態として「生パスタ専門店」を検討するようになった。そのポイントは「店舗展開の速さ」である。同社の既存のイタリアン業態は「ミア・ボッカ」というもので客単価は昼1500円、夜2500円。商業施設の中の50坪~60坪の物件を想定していて、これまで年に2~3店舗を展開してきた。展開を重ねる中でクオリティは十分に安定しているが、人材を育てることに時間がかかっていた。
 
そして業態開発では、このカジュアルレストランからスピンアウトして「パスタ専門店」を展開するという発想に進展した。
 
さらに「商品に圧倒的な特徴があること」がポイントとなった。そこで「下川六○酵素卵」を使用した生パスタの開発を進めていき、試食を重ねていく中で、この卵と北海道産小麦を配合したパスタが想定した通りのものに出来上った。ちなみにパスタの本場である北イタリアのミラノは下川町とほとんど同じ緯度にある(ミラノ45.28度 下川町44.18度)。ミラノでは代表的な家庭料理には生パスタが使用されている。このように北イタリアの家庭料理を北海道ならではの食材で表現することができた。この生パスタの既製品にはない「つるっ」「もちっ」とした食感は「麦と卵」の一番の特徴となった。2019年12月のことであった。
 
北海道函館・道場(ミチバ)水産の特選たらこをふんだんに使用した「絶品たらこスパゲティ」880円
【北海道函館・道場(ミチバ)水産の特選たらこをふんだんに使用した「絶品たらこスパゲティ」880円】
 
「麦と卵」が想定する立地は駅前繁華街で乗降者数7万人、物件は地下1階、路面、そして2階、20坪で30席くらい取れるスペースであること。スケルトンではなく居抜き物件ということだ。
 
「麦と卵」プロジェクトのスタートはコロナ禍と重なってしまった。しかしながら、コロナ禍によって物件の世代交代が顕著となった。撤退したところは営業不振に耐えることができなかったということになるが、半面コンセプトがしっかりとした業態にとって出店するチャンスが訪れている。「麦と卵」の相次ぐ出店はその象徴的な事例と言える。(後編に続く)
 
海産物の素材感をアピールした「釜揚げシラスと厚岸産アサリのペペロンチーノ」1080円"
【海産物の素材感をアピールした「釜揚げシラスと厚岸産アサリのペペロンチーノ」1080円】
 
(後編)に続きます。

 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

「ニュース・特集」の関連記事

関連タグ

「ニュース・特集」記事の一覧