キッチンカーで需要発掘、『note』連載で読者コミュニティを育てる
予約が困難な『肉山』の挑戦 後編
『肉山』の新しい試みとは、まず「キッチンカー」。これはキッチンカー配車サービスのMellowに登録して2019年9月から営業している。『肉山』代表の光山英明氏は“夜のキッチンカー屋台村”を手掛けることを夢に描いていて、キッチンカー営業の誘いがあったときに、その夢への布石として着手しようと考えた。
キッチンカー『肉山』の出店場所はMellowが週5日のスケジュールを組み立ててくれる。スタート時、メインに位置づけられたポイントは東京駅の常盤橋。オフィスビルが立ち並びランチ難民が想定される場所だ。既存店の『肉山』はお客が2時間半にわたってゆっくりと肉料理コースを楽しんでいただくための努力を重ねてきていて、弁当販売は初めて。光山氏は「高い売上を目指すのではなく、ミスなく温かい安定した商品を提供し続けることが重要だ。商品を手渡すときに一声かける気配りが重要だ」と考えた。
商品は『肉山』の店名から連想されるイメージを大切にした。透明なふたの下には肉が敷き詰められてご飯が見えない状態のものをつくり上げ、これを1.5人のオペレーションでスピーディーに提供できるようにした。キッチンカーが営業中に設置しているA看板には「半年先まで予約が困難な吉祥寺肉山」とキャッチコピーが添えられているが、これを見た二人連れが「あの『肉山』がやってるんだー」と言っていたりする。ブランディングとしての効果は高いようだ。現在出店しているどのポイントでもキッチンカー『肉山』にはいつも長い行列ができている。
【キッチンカーの出店スケジュールはキッチンカー配車サービスを行うMellowが行っている】
キッチンカー2号車によって営業が多様化
さて、キッチンカー『肉山』は昨年11月より2号車の稼働が始まった。これによって、キッチンカーの出店場所が増えると共に、新しい売り方にフットワークよく挑戦できるようになった。
「イベント」での販売もより機動的にできるようになった。その大きなスポットはサッカーFC東京のホームである味の素スタジアムで、FC東京の試合があるときに出店している。光山氏はFC東京の選手たちと交流があり、キッチンカー『肉山』が出店することをSNSで発信してくれている。
プロ野球では試合の5回裏が終了すると休憩時間が設けられて観戦者は飲食の買い物に向かうものだが、サッカーの場合は試合が始まると観戦者は席から立つことはない。そこでキッチンカーは試合が始まると同時に営業終了となる。味の素スタジオでのキッチンカー『肉山』の弁当販売は予約販売が主となり現在1回の営業で350食が売れている。
【『肉山』のリアル店舗では「予約が困難」であることをうたっている】
また、光山氏の夢である“夜のキッチンカー屋台村”の布石も手掛けるようになった。現在、キッチンカーが席を設けて酒類を飲ませることが規制されているために、『肉山』の肉料理と一緒に生ビールを販売するスタイルで行っている。現状、東京・青砥のタワーマンション下で行っているが、これも順次拡大することになりそうだ。
また、ビジネスホテルの敷地内で営業する事例もあり宿泊客に加えて通りすがりのお客の需要もつかみ取っている。このように2号車によってキッチンカーのさまざまな可能性を体得している。
フォロワー数3万越えのバックボーン
光山氏はツイッターも発信の手段として力を入れてきた。フォロワー数は現在3万人に及んでいる。これだけ愚直に発信力を磨いてきた飲食店経営者は珍しいのではないか。
【『肉山』のイメージ通りに“肉たっぷり”の弁当をつくっている】
さらに光山氏はこの1月からメディアプラットフォームの『note』で「『肉山』・光山英明の『肉note』」の連載(月3回)を始めた。この購読料は月1000円となっていて、これには光山氏が主宰する読者との月1回の交流会「肉ミーティング」へ参加する権利が付与されている。
連載記事のテーマは「『肉山』・光山英明が考える『繁盛店のつくり方』」となっていて、飲食業経営者にとって興味深い内容になっている。これまでの「『肉山』ファン」のすそ野が広がりそうだ。
飲食店の新規オープンで「『肉山』・光山英明プロデュース」の案件も増えてきている。この場合、オープンしてから「『肉山』・光山英明プロデュース」を謳っても構わないが、グルメサイトで当初それを謳っても1カ月ほどして外す傾向が多い。それでもコメント欄には「『肉山』・光山英明プロデュース」の文言が時折書き込まれている。
こうして伝説の繁盛店『肉山』はSNSの中で躍動している。こうして情報としての『肉山』の魅力が膨らんでいくことによって、『肉山』のコミュニティがより密接なものとなっていくことであろう。
【『肉山』オーナーの光山英明氏は『note』の記事の読者を広げている】
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第三十六弾(前編)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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