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「神田にないもので神田にお客がやってくる店」をつくり社員の働き方改革も実践

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第三十三弾
「ラム肉酒場 ラムゴロー」開業物語(後編)

 
「ラム肉酒場 ラムゴロー」は㈱スマイルリンクル(本社/東京都千代田区、代表/須藤剛)の最新店である。そして、これはコロナ禍における同社の大きなプロジェクトとして展開した。
 
「広島お好み焼き Big-Pig 神田カープ本店」の店内には、昭和50年(1975年)10月15日、巨人軍を破り、リーグ初優勝を果たした時のスコアボードが掲げられている。実際は後楽園球場でのことであったが、ここでは広島球場で再現している。【「広島お好み焼き Big-Pig 神田カープ本店」の店内には、昭和50年(1975年)10月15日、巨人軍を破り、リーグ初優勝を果たした時のスコアボードが掲げられている。実際は後楽園球場でのことであったが、ここでは広島球場で再現している。】
 

コロナ禍で「神田に得意な会社」を確信

同社は、創業者で現会長の森口康志氏が1994年に創業し27年の社歴を持つ。神田でドミナント展開をしていて、その中の一つ「広島お好み焼き Big-Pig 神田カープ本店」は広島東洋カープのOBや現役選手がトークショーを行うなど、カープファンの聖地となっている。現社長の須藤剛氏は2019年10月に代表取締役に就任。翌年コロナ禍となり、大きな苦難の中で舵を取るようになった。
 
神田は小さな事業所が密集するオフィス街。通常時のディナー帯はこれらのお客でにぎわうが、リモート勤務で昼間人口は半分以下となった。そこで展開エリアを他に移すことも検討した。
 
神田カープ本店の上、路面にある「酒場五郎」【神田カープ本店の上、路面にある「酒場五郎」】
 

そのような中の昨年4月、JR神田駅南口から徒歩30秒のところに「10坪4階建て」の物件が現れた。須藤氏はこの物件を借りたいと思ったが、その決断に踏み切ることが出来なかった。
 
同社は、創業以来神田に拠点を置きながら、赤坂、銀座、行徳・葛西といった東西線沿線と多様なエリアで店舗を展開、累計で30店舗を出店してきた。それが、昨年の段階で神田に4店舗を経営する会社となっていた。
 
須藤氏はこう語る。「かつて展開エリアが広くなったことで“従業員の血が薄くなった”という感覚があった。従業員満足度が低下し、結果顧客満足度も低下した。そこで収益モデルが崩れていなかった神田エリアの店舗の営業に集中することになった。結果、当社は神田で商売をするのが得意な会社になったという結論に至った」
 
そして昨年6月、この物件を借りる決断をした。
 
JR神田駅前の「酒場ゴロー」。10坪の2層で月商1000万円を売り上げることもある。【JR神田駅前の「酒場ゴロー」。10坪の2層で月商1000万円を売り上げることもある。】
 

CKを付帯した本社機能を整える

この物件の4つのフロア構成を考えた。まず、1階、2階を店舗とする。業態については、既存の神田のマーケットに合わせると埋没してしまうと考え、「神田にないもので、お客が神田にやってくる業態」を検討した。そこでひらめいたのは、以前ジンギスカン料理の店を営業していたこと。
 
「ラムはアンチの人もいますが、好きな人は遠方からでもやってくる」(須藤氏)ということで、スマイルリンクルが得意とする神田の町で、遠方からお客がやってくる「ラム肉酒場」を営むことに決定した。
 
店名を既存店の「酒場ゴロー」「酒場五郎」「チンチン ゴロー」とつながる「ラムゴロー」とすることで神田ドミナントでのブランディングを図った。「ゴロー」とは、森口会長が飲食業を立ち上げる前に勤務していた青山商事の創業者青山五郎氏に由来している。森口氏が商売の神様としてこよなくリスペクトしている。
 
ラム肉をメニュー化するためには下処理の作業が多いことが分かった。そこで3階を下処理の施設にすることが決まった。この施設の活用についてはセントラルキッチン(CK)の構想へと広がっていった。
 
最後の4階について。同社ではこれまで神田に12坪程度の事務所を借りていた。そこでこの4階に事務所を移設すると、事務所の家賃が発生しなくなることから4階を事務所にすることにした。
 
ラムゴローの2階席では、窓から羊が出迎える【ラムゴローの2階席では、窓から羊が出迎える】
 

こうして、10坪4階建ての物件は、1、2階が「ラム肉酒場 ラムゴロー」、3階がCK、4階が事務所という見事に本社機能が整ったビルとなった。
 

社員の働き方の多様性を広げる

ラムゴローの店舗デザインはスパイスワークスホールディングスに依頼した。スパイスワークスHDとの縁は2019年に「大衆フレンチビストロ チンチンゴロー」の店舗デザインを依頼したことに始まる。同社が設計する店舗の特徴はサプライズがあり、またクスっと笑える表現があること。須藤氏は「ラムゴロー」の店舗デザインに際しても、「思いっきり遊んでください」と依頼した。
 
さて、3階部分、「ラムゴロー」の下処理施設からCKに構想が膨らんだことについて述べておこう。
 
まず、神田の自社4店舗の一次調理を行うことに加えて、神田で営業する他の飲食店の一次調理を請け負うことを検討している。これによってこれらの飲食店が営業に集中する環境づくりを支援していく。
 
次に、社員の働き方の多様性を広げる。同社の社員は30人。創業27年の会社であることから、10年以上勤続の社員が4割を占める。また4割を若い女子社員が占める。8割がベテランと若い女子社員ということから、営業が夜型だけでは、体力の側面や子育てをする上でハードルとなる。そこで昼型の勤務に就ける仕組みをこのCKの稼働から組み立てていこうとしている。近いうちにECサイトを立ち上げ、前述の外注も含めて機能を拡充していく。
 
ラムゴローの1階は炭火の焼き台が中心となり、カウンター席、テーブル席が囲む【ラムゴローの1階は炭火の焼き台が中心となり、カウンター席、テーブル席が囲む】
 

こうしてスマイルリンクルは、コロナ禍にあっても神田の町にとっては新鮮なコンセプトを打ち出し神田の町の魅力を高めて、持続可能な会社の仕組みを整えることができた。
 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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