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フードサービス・ジャーナリスト 千葉哲幸 連載第二十九弾 コロナ禍で生まれた「脱・宴会」の居酒屋 後編

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前編で述べた通り、「ニューノーマルな酒場」二つのうち、「東南アジア」「ヘルシー」を連想させる「感動ボブン」は即決した。しかしながら、「酒場ダルマ」の業態設計については時間を要したようだ。
 
「酒場ダルマ」の看板は手書きの筆文字で唱和レトロのイメージ。
【「酒場ダルマ」の看板は手書きの筆文字で唱和レトロのイメージ。】
 
ダイナック代表の田中政明氏はこう語る。
 
「『酒場ダルマ』の取り組み方は当社にとってまったく初めてことでした。会議室で説明を聞いたり企画書を見ているだけではよく分からない。ただ、世の中では『ネオ大衆酒場』というものがでてきています。昼となく夜となく、一人と言わず、二~三人と言わず、家族と言わず、さまざまな客層と利用動機を取り込んでいる様子を見てきて、これは当社でもできるかな、と想いを巡らしていました」
 
田中氏は店が引き渡されてから店を何度か訪れてきたが、回を重ねるたびにダイナック担当者、サントリー酒類担当者、そして店舗の調理長、店長共に、同店のコンセプトに対するそれぞれの理解が整ってきたと確信するようになった。
 
店内のデザインだけではなくパフォーマンスや接客方法にも大衆酒場としての演出が行き届いている。【店内のデザインだけではなくパフォーマンスや接客方法にも大衆酒場としての演出が行き届いている。】
 
「『酒場ダルマ』を見ていて感じたことは『お客様の使い勝手に対応しましょう』とひたすらこの考え方で店づくりを行っているということ。フードメニューを見ていて、どのメニューもお客様にとってつまみになりご飯も食べることができると腑に落ちました。またポーションがみな個食対応です。当社ではこれまでメニューのポーションを大体二名様くらいを想定していて、お一人様というものを想定していなかった。しかし、この店のメニューには、お一人様に対して全時間帯で自分の好みの楽しみ方をしてください、というメッセージがあります」(田中氏)
 

ウイスキーを知り尽くした会社の矜持

「酒場ダルマ」の最大の特徴は、ウイスキーの飲み方に新しい提案があふれているということだ。
 
一番に推している「氷柱 角ハイボール」500円(税込、以下同)。2杯目300円、3杯目200円。【一番に推している「氷柱 角ハイボール」500円(税込、以下同)。2杯目300円、3杯目200円。】
 
同店が一番に推しているのは「ハイボール」。グラスの中に「氷柱」を入れていることがポイントだ。これは純氷を氷の柱(3㎝×3㎝×10㎝くらいの大きさ)の形にしたものが入れてあり、グラスからハイボールがなくなったら、ハイボールをつぎ足すというものだ。普通の「氷柱角ハイボール」一杯目(氷柱入り)は500円(税込、以下同)、おかわり二杯目300円、おかわり三杯目以降は200円となる。三杯飲んだらぽっきり1000円ということだ。「氷柱濃いめ角ハイボール」というものもあり、同じ仕組みで一杯目590円、二杯目390円、三杯目290円となっている。この氷柱は1時間以上経過しても解けないとのこと。
 
グレーンウイスキーを使用した「知多 お湯割り」690円。【グレーンウイスキーを使用した「知多 お湯割り」690円。】
 
「知多 お湯割り」690円というのも斬新だ。ウイスキーのお湯割りとはイメージをつかみかねていたが、これは日本酒の熱燗同様の熱さで、ほのかに甘味があった。思わず「旨い」と声が出た。これは「知多」というグレーンウイスキーの持ち味なのだという。このほか、サントリーオールド(通称、ダルマ)の水割りの前割りがある。とてもマイルドな飲み口だった。
 
サントリーはウイスキーを得意とする会社である。これらの新しい提案の数々にウイスキーを知り尽くしたメーカーとしての矜持を感じた。
 

「ニューノーマルな酒場」とはフリーを尊重すること

フードメニューは定食も含めて70品目強で「ネオ大衆酒場」の定番が押さえられている。「食べたい食事がなんでも揃っている」という感じだ。中でも「とらふぐ」がキラーコンテンツになっている。切り身が10枚盛り付けられた「トラフグのてっさ」490円は注文するとすぐに持ってくる。「とらふぐの唐揚げ」490円は肉厚で食べ応えがある。
 
筆者が同店をはじめて訪ねた6月下旬は、氷柱ハイボール4杯、とらふぐの唐揚げ、刺身三種盛り、オイルサーデンでほぼ3000円であった。その1週間後に再度訪ねたが、この時も勘定は3000円を超えなかった。この客単価設定は顧客に安心感をもたらすはずだ。
 
「酒場ダルマ」のキラーコンテンツは「トラフグてっさ」490円。【「酒場ダルマ」のキラーコンテンツは「トラフグてっさ」490円。】
 
同店のBGMはウイスキーに合うものを選曲しているとのことだが、QRコードを読み取ると、メニューを注文するページの下の方に自分でBGMを選曲できるようになっている。店のデザインは昭和レトロであるが、飲み物の提案、メニューの内容、店の使い勝手はとても深く考えられている。顧客の「フリー」な状態が十二分に尊重されている。これこそが「ニューノーマルな酒場」の真骨頂というものだろう。
 
昭和の時代から長く続く老舗の大衆酒場の雰囲気を彷彿とさせる。【昭和の時代から長く続く老舗の大衆酒場の雰囲気を彷彿とさせる。】
 
前編で紹介した「感動ボブン」は、商品の展開をいち早く進めていくとのことだが、「酒場ダルマ」については二号店、三号店はまだ具体的にはなっていないようだ。じっくりと大切に育てていく姿勢が感じられる。お酒のサプライヤー(=サントリー)とプレイヤー(=ダイナック)がグループとして結束したことによる強いパワーを感じ取った。
 

 
千葉哲幸(ちば てつゆき)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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