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ハウス食品がキッチンカーに参入!「街角ステージweldi」の魅力

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第二十七弾
「キッチンカー」支援事業 前編

 
コロナ禍で増えてきた飲食業に「キッチンカー」が挙げられる。軽トラックなどの小型の自動車を改造しキッチン機能を設けて、遊休地や駐車場でランチタイムに飲食を提供する商売だ。今回は、このトレンドの中から二つの動向を紹介したい。
 
まず、この分野のベンチャーとして近年成長著しい株式会社Mellow(本社/東京都千代田区、代表/石澤正芳・森口拓也)の事例。同社は2016年2月に設立し、2021年3月末の段階で登録店舗(キッチンカーのこと)数が1100店舗、出店場所は430カ所を超えている。
 
三菱地所コミュニティが管理するマンション敷地内に出店。【三菱地所コミュニティが管理するマンション敷地内に出店。】
 

キッチンカー事業者の支援に徹する

創業に至る状況を代表の森口氏がこう語る。
「会社が立ち上がったのはお客様目線でのキッチンカー体験が素晴らしいものだったから。冷めた弁当を持ってコンビニのレジに並んでいるのとは全く違って、ニコニコして並んでいる人たちの顔色が全く違っていたからです」
 
そこでキッチンカーの状況を調べたところ、市場は大きく伸びる感覚があった。また、当時はITが使われていなかったことから、「キッチンカー×ITで生み出される価値は限りなく存在し、これをうまく引き出すと事業領域も増えていく」と確信し、現在の事業をスタートした。
 
当初はキッチンカー事業者に予約システムなどのITシステムを提供することを事業としていたが、それぞれのオペレーションがまちまちであったことから限界を感じるようになった。そこで「キッチンカー事業者はどんなことに困っているのか」という観点に立ち、ヒヤリングを重ねていった。
 
結果分かったことは「出店する場所がなかなか出てこない」ということ。そこで不動産業者に営業をして、だんだんと場所が増えるようになった。
 
こうして「キッチンカーの事業者支援」というスタンスが出来上がり、「しっかりとした車を届ける」という発想が生まれた。そこで、トヨタグループとディスカションを重ね、業務提携をしてMellow仕様のキッチンカーを開発した。車は「タウンエース」がベースで基本的なキッチン機能が付いて価格は600万円程度。残価設定型ローンで5年リース、初期費用が96万円で、月額8万1000円となっている。そして車のリースやレンタルも行うようになった。
 
さらに「キッチンカーの開業支援、開業後のサポートを行うキッチンカーのパートナー」を標榜し、継続的に売上を上げていくコツをセミナーで伝えている。
 
東京都世田谷区と連携協定を締結し区立公園等に出店。【東京都世田谷区と連携協定を締結し区立公園等に出店。】
 
森口氏はこう語る。
 
「飲食の業界はクリエイティビティが価値の源泉にあると思っています。つまり、大手数社で70%くらいのシェアを持つということは起こり得ないということ。個店それぞれの輝いているクリエイティビティを街の中に残すことは大事な論点です。これが再開発などで頑張ってしまうと賃料はものすごく上がり、チェーン化比率が高くなり、個店がなかなか入り込めなくなる。そこでモビリティによって、個店が一等地で輝く環境をつくることが出来る」
 

「固定店舗1つ」の生産性は「CK1つにキッチンカー3台」

さて、固定店舗とキッチンカーは何がどう違うのか。森口氏によると「固定店舗1つとキッチンカー1台を比べることに意味がない」という。
 
森口氏はこれまでの経験則から、この比較としてふさわしいものは「固定店舗1つ」と「セントラルキッチン(CK)1つにキッチンカー3台」と考えるようになった。それは同じ人員数で生産性を図っているからだ。現状、キッチンカー3、4台を運営している事業者はマジョリティではないが少なからず存在していることに着眼している。
 
キッチンカー1台が目標とする月間売上は100万円。ここにオペレーションを仕組み化すると、アルバイトが1人で運営できるようになる。営業時間はランチタイム限定、最近では夜にマンションの前で営業してトップラインをより上げていく事例も見られている。
 
豊洲市場仲卸業者がMellowの出店プラットフォームを活用。【豊洲市場仲卸業者がMellowの出店プラットフォームを活用。】
 
「固定店舗1つ」と「CK1つにキッチンカー3台」と比較すると、カバーできる商圏は後者の方が広域であることが明らかである。またCKではキッチンカーが稼働している時間帯にゴーストレトランを営業することが出来る。
 
「これからは飲食以外の移動店舗も計画しています。お客様目線で考えた時に何が一番素敵な姿かと考えて、『うちのマンションに毎日いろいろな店ができて楽しいじゃないか』といった状態をつくりたいのです。飲食に限らずさまざまな店舗がモビリティによってお客様にところに行く。ここでは作り手が目の前にいて、実際に接客をして提供してくれる。これはECとは全く違う体験です。『なんでもない場所を嬉しい場所に変えていく』ということがわれわれの大きなコンセプト」です」
 
住友生命保険相互会社がMellowと業務提携を行ない、ウエルネス体験を通じた保険との出合いを実験。【住友生命保険相互会社がMellowと業務提携を行ない、ウエルネス体験を通じた保険との出合いを実験。】
 
森口氏が語るモビリティの世界は、ローリスクでビジネスを手掛けることができるということにとどまらず、これまでの社会の矛盾を解決してくれるものとなりそうだ。
 
(後編)に続きます。

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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