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「立ち飲み」と「ミシュランの星付き」を合体して大ヒットした

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第二十四弾
「俺の~」シリーズに歴史あり 前編

 
「じゃぶじゃぶ」
「じゃぶじゃぶ」
 
このセリフが何かお分かりだろうか。
 
これは今から8~9年くらい前に、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」がフードサービス業界のスターダムにのし上がり、創業者の坂本孝氏がテレビのドキュメント番組に出るたび、冒頭で述べていた言葉である。それは「『じゃぶじゃぶ』と音がするくらいに原価を掛けた料理を出してしている」ということだ。
 
代表的な料理を挙げると、「俺のイタリアン」では「オマール海老のグラタン&真鯛のポアレ」980円(税別、以下同)、「トリュフとフォアグラのリゾット」1100円、『俺のフレンチ』は「鴨のオレンジソース」1180円、「牛フィレとフォアグラのロッシーニ トリュフソース」1280円というものがある。最後に挙げたロッシーニは、筆者が料理書の出版社に入社した当時の38年前に、帝国ホテルで4000円ぐらいだったような記憶がある。
 

「立ち飲み」と「ミシュランの星付き」を合体

「俺のイタリアン」が登場したのは2011年9月21日、東京・新橋でのこと。同店は2時間待ちが当たり前、16坪で月商1900万円を超えるという繁盛伝説をつくった。前出の坂本孝氏(現、名誉会長)は「ブックオフ」の創業者でもある人物だ。
 
2011年9月にオープンした「俺の~」シリーズの1号店、「俺のイタリアン新橋本店」(後に撤退)の2012年当時の様子。【2011年9月にオープンした「俺の~」シリーズの1号店、「俺のイタリアン新橋本店」(後に撤退)の2012年当時の様子。】
 
坂本氏は同社の会長を退任して、「再び何かビジネスを手掛けよう」と考えている時に知人から進められて始めたのは焼鳥屋さんだった。2009年のこと。
しかし、これは「気合と根性の世界で全く儲からなかった」(坂本氏)という。そこで他の創業メンバーと「この不景気の時代、どこが儲かっているか」と思いを巡らし、「立ち飲み居酒屋」「ミシュランの星付き」を想定した。「じゃあ、この二つをくっつけしまおう」と考えて生まれたのが「俺の~」シリーズであった。
 
「俺の~」シリーズは出店する度に大ヒットを飛ばした。銀座に集中出店するようになり、銀座には行列の風景が散見されるようになった。後に「俺の株式会社」と商号変更し、「俺のフレンチ」「俺のスパニッシュ」「俺の割烹」「俺の焼肉」等々、洋食・和食のさまざまな業種を広げていった。
 
初期の「俺のフレンチ銀座店」(後に撤退)。銀座博品館の裏にあって、連日このような行列が見られた。【初期の「俺のフレンチ銀座店」(後に撤退)。銀座博品館の裏にあって、連日このような行列が見られた。】
 
「俺の~」シリーズのサブタイトルは「ミシュラン星付きレストランの料理を価格2分の1で提供する」というもの。このような店が利益を生むことができるのは、「立って食べる」ことによって収容人数を増やして、回転数を上げ、食数を圧倒的に増やしていたから。要するにレストランのトレードオフである(後に、立って食べる店は一部を除きなくなった)。
シェフやソムリエはそれぞれ星付きの店で活躍していた華々しいキャリアを持ち、それをアピールする写真付きのタペストリーが店頭にずらりと飾られていた。
 
このように「俺の~」シリーズは「超お値打ち料理」と「属人的商売」が本領であった。しかし、2016年11月に「俺のBakery & Café」を恵比寿にオープンしたことから、この本領が転換した。このブランドは店名通りベーカリーとカフェを同時に営んでいて、ベーカリーのパン「俺の生食パン」は北海道産小麦のキタノカオリをメインに国産小麦をブレンドしたものと、岩手県にある「なかほら牧場」の自然放牧乳の脱脂乳を合わせたというものだ。この組み合わせのクオリティの高さは、食パンに親しんでいる人にとって十二分に伝わる。これも2斤で1000円と破格のお値打ちで、いきなり大ヒットして多店化するようになった。
 
初期の「俺のイタリアン銀座店」(後に撤退)。初期の「俺のフレンチ銀座店」「俺のイタリアン銀座店」が撤退したのは、それぞれ銀座1丁目に大型の物件を確保できたため。【初期の「俺のイタリアン銀座店」(後に撤退)。初期の「俺のフレンチ銀座店」「俺のイタリアン銀座店」が撤退したのは、それぞれ銀座1丁目に大型の物件を確保できたため。】
 

新しい「銀座の象徴」のイメージを醸し出す

このブランドは2018年9月東京・東銀座の晴海通りと昭和通りの交差点角にも誕生し、歌舞伎座の向かい側にあることから、新しい「銀座の象徴」のイメージを醸し出した。
 
「俺のイタリアン」を象徴するメニュー「トリュフとフォアグラのリゾット」1100円。【「俺のイタリアン」を象徴するメニュー「トリュフとフォアグラのリゾット」1100円。】
 
その「俺のBakery & Café 東銀座歌舞伎座前」が閉店し、「俺の~」シリーズの新しいブランド、1階が「俺の「俺のGrand Market」、2階が「俺のGrand Table」に生まれ変わり昨年12月15日にオープンした。これによって「俺の~」シリーズを展開する俺の株式会社は12ブランド37店舗となっている。
 
「俺のGrand Market」(35坪)はデリカテッセンとセレクトショップ、約500種類の物販、30~40のデリカテッセン、パン6種類などラインアップ。「俺のGrand Table」(50坪63席)で既存店の代表的なメニューを集めたレストラン、スペシャリテ8種類、トータルで約40品目をラインアップ。どちらも「一流シェフ」「高級食材」「生産者の想い」を掛け合わせてメニューや商品を構成している。
 
「俺のフレンチ」を象徴するメニュー「牛フィレとフォアグラのロッシーニ トリュフソース」1280円。【「俺のフレンチ」を象徴するメニュー「牛フィレとフォアグラのロッシーニ トリュフソース」1280円。】
 
この業態がこのたびリニューアルした背景について、同社の神木亮氏(常務執行役員 営業本部 副本部長 兼 営業企画部長)が解説してくれた。このストーリーには、10年足らずの歴史の同社が築き上げたカルチャーが軸となって、同社をさらに強くしていると感じられた。その詳細は後編で述べる。
 
(後編)に続きます。

 
千葉哲幸(ちば てつゆき)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴36年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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