ロボット&スタッフで成り立つ「焼肉きんぐ」のテーブルバイキング
コロナ禍の飲食業界で焼肉店は堅調 後編
数多ある焼肉チェーンの中で、繁盛ぶりが際立っているのは株式会社物語コーポレーション(本社/愛知県豊橋市、代表/加藤央之)の「焼肉きんぐ」だ。「100分2980円(税別)」のテーブルバイキングの業態である。テーブルバイキングとはお客が自分の席でオーダーする食べ放題で若者やファミリー層をターゲットとしている。
同チェーンは2020年12月度で全国231店舗(うち直営137店舗)。コロナ禍第三波が押し寄せている中、直営店舗の対前年同月比は2020年11月度が123.3%、12月度が99.3%となっている。なぜ、これほど強いのか。
ファミリーをターゲットとする店が最も強い
同社では、2020年9月24日付けで代表取締役社長に34歳の加藤央之(ひさゆき)氏が就任したことが大きな話題である。加藤氏は同社のプロパーであり、異例の抜擢という印象を受ける。しかし加藤氏は早くから営業、開発部門の重責を担ってきた。その日ごろの存在感から、社長就任は当然のことと社内では納得感をもって受け止められたようだ。
【地域一番店になる条件として、「地域の一番立地でよく目立つこと」を実践している「焼肉きんぐ」の外観】
筆者は12月1日に加藤氏にインタビューをする機会があった。そこで筆者からの最初の質問、直球過ぎると思いながらも、このように尋ねた。
「なぜ、『焼肉きんぐ』は強いのですか?」
加藤氏は「外食マーケットはシュリンクしている」という状況を真摯に前置きして、その中でも強い店となる秘訣をロジカルに語った。
「月に3回外食をしていた人が、月2回になっているとしたら、減らしている部分の筆頭は会社の仲間と飲みに行くことでしょうか。こんなことで最後に残るのは、日曜日に家族で外食をすることです」
「外食がシュリンクしていくと、飲食店は業種の戦いになっていきます。『何を食べに行こうか』とお客様が考えた時に、マーケットの大きい業種に気が向きます。それが『焼肉』や『すし』ということになるでしょう」
「その中で、さらに選ばれる回数が少なくなるわけですから、選ばれるためには『地域一番店』になる必要があるということです」
【この1月から順次導入している配膳・運搬ロボット】
顧客満足度を追求するとオペレーションが煩雑になる
「地域一番店」となるためのポイントはどのようなことだろうか。
それはまず、地域の「一番立地」にあること。「大胆な看板」によって店の存在が目立つこと。さらに「フォーマットの力」と「人の力」があり、それが融合していること。その店に行って「笑顔」になり「元気」になれること。「焼肉きんぐ」における「フォーマットの力」とはテーブルバイキングである。
また、テーブルバイキングをブラッシュアップするためのポイントを尋ねたところ、加藤氏はこのように語った。
「この業態での満足度とは皿数にあります。いかにいろいろな種類のメニューを食べることができたか、ということですね。そこで提供効率を考えると一品当たりのポーションを大きくしがちになるのですが、それではお客様の満足度が著しく下がる。いかにポーションを小さくするかが重要なのです」
同社では、テーブルバイキングの「焼肉きんぐ」と同様の「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」の計310店舗で配膳・運搬ロボットを2021年1月から順次導入している。導入台数は443台になるという。導入先の業態をこの2ブランドとしたのは、テーブルバイキングとの親和性が高いからだという。
人にしかできない仕事がより高い生産性を生む
同社には「おせっかい」という文化が存在している。「焼肉きんぐ」では「焼肉ポリス」という役割の従業員、「ゆず庵」には「しゃぶ奉行」の従業員がいて、彼らがお客様のテーブルに伺って、最も良い状態でお肉を食べていただくために調理法の案内を積極的に行うというものだ。
【「焼肉きんぐ」の「おせっかい」、「焼肉ポリス」が客席を巡回して「おいしい焼肉の焼き加減」を施している】
配膳・運搬ロボットの実験によって、次のことが分かった。このロボットは1日300回配膳する。距離にすると8㎞、休みなく働く。そのぶん従業員は「おせっかい」に時間がとれるようになり、例えばこれまで2時間とるのがやっとだったところ、4時間余りに増やせる計算だ。
営業中の最も煩雑な作業は配膳・運搬である。テーブルバイキングの満足度は皿数と前述したが、これまでは店が忙しくなることによって、ここに時間が取られて「おせっかい」ができない場面もあった。そこで、配膳・運搬をロボットが担うことによって、「おせっかい」をより活発に行うことができる。こうして店の付加価値を高めていこうという狙いが込められている。
これまでサービス業の未来において、労働現場の中で人でなくてもいい作業はロボットやAIに置き換わっていき、人にしかできない部分はますます重要視されていくと語られてきた。ロボット活用と人による付加価値向上は、高い生産性を築き上げているところこそが、これらをいち早く実践している。
- 前編はこちらから千葉哲幸 連載第二十三弾(前編)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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