東京都でカスハラ防止条例が成立 後を絶たないカスハラに飲食店はどう対応する?予防策はある?
東京都では2024年10月4日に、迷惑客によるカスタマーハラスメント(カスハラ)を防止する条例が成立しました。全国初の条例で、2025年4月から施行されます。後を絶たないカスハラは、被害に遭った従業員に大きな心の傷を与え、離職につながりかねません。条例の内容とともに、カスハラに対して飲食店が取るべき対応について考えたいと思います。
◆飲食店はカスハラ経験が2番目に多い業種
東京商工リサーチが5,748社から回答を得た調査によると、直近1年間でカスハラを受けたことがあるとした企業は約2割にのぼっています*1。業種別に見ると、「宿泊業」が72.0%でトップ、次に多いのが「飲食店」で64.8%の企業がカスハラを受けた経験があると回答しています。他ではサービスや小売など、個人客と接する業種が上位を占めています。また、カスハラの影響で従業員の休職や退職に至った企業は、全体で13.5%にのぼっています。
◇カスハラの内容で多いもの
そして、厚生労働省によると、カスハラの具体的な内容は下のようになっています。
カスハラの具体的な内容で多いもの
(出所:「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」厚生労働省 p6)
従業員を長時間にわたって拘束し同じ内容の過度なクレームを続ける、暴言、金銭や土下座などの不当な要求、といったものが多くなっています。また近年では特定の従業員に対する個人攻撃を続け、画像や動画をSNSに投稿し「晒す」行為も多く見られます。
◆東京都「カスハラ防止条例」の内容
では、東京都議会で成立した「カスハラ防止条例」の内容を見ていきましょう。
・何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない。
・顧客等の権利(※)を不当に侵害しないように留意する。
(※ 消費者基本法、消費者教育推進法、障害者差別解消法、表現の自由など)
・ 事業者は、カスタマーハラスメントの防止に主体的かつ積極的に取り組むとともに、都
が実施する施策に協力するよう努める。
・ 事業者は、カスタマーハラスメントを受けた就業者の安全を確保するとともに、行為を行った顧客等に対し、中止の申入れその他の必要で適切な措置を講ずるよう努める。
・事業者は、指針に基づき、必要な体制の整備、カスタマーハラスメントを受けた者への配慮、カスタマーハラスメント防止のための手引(マニュアル)の作成その他の措置を講ずるよう努める。
といったことが骨子となっています。しかし今の所、罰則は定められていません。よって各事業者が自ら対策を講じていく必要性に変わりはありません。
◆カスハラ防止の取り組み事例
カスハラに対しては大企業も頭を悩ませ、きちんとした対策を定めたところもあります。これは飲食店にも参考になる話です。従業員の個人攻撃に対して対策を講じた一例が、佐川急便です。2024年3月に、トラックや軽バンの後部につけていた名札を廃止することを決めました*2。
また、ファミリーマートとローソンは、店員の名札の表記について、実名ではなく仮名やイニシャルなども認めることにしています。これまでも仮名の名札は可能なことでしたが、正式なルールとして採用します。
ネットの世界では、店名や名前から個人情報を特定することも可能になっています。こうした被害を防ぐためで、タリーズコーヒーも名札の表記をイニシャルにする方法を採用しています*3。迷惑客に従業員の個人情報を特定させず、一方で経営側は名札の表記と個人の紐付けができていますから、それぞれの従業員に何があったかを把握できるという良い方法でしょう。
◆現場従業員が「自分で判断できる」環境を
ただ、最も重要なのは、現場の従業員が、受けたクレームを「カスハラだ」と自己判断できる環境を作ることです。従業員は、カスハラを経営者に報告するとは限りません。「自分が悪い」と捉えてしまい、抱え込んで心身の状態を悪化せることも大いに考えられます。報告することによって、「それくらいの我慢もできないのか」と思われることを恐れてしまうからです。具体策として考えられるのは、上記の企業のような取り組みのほか、細かいことでも日報をつけてもらう、カスハラだと感じたら匿名でも経営者に伝えられる仕組みを作ることです。
また、迷惑客はこちらが予想しないことでクレームをつけてくるもので、全てを予測するのは難しいものです。そこで、防犯カメラなどを利用して事実関係を証拠として残せるようにしておくのも手段です。人手不足のなか、不条理な理由で従業員を手放すのはもったいないことですし、迷惑客の存在によって常連客が離れていくのも考えものです。「このようなお客様はお断りします」と店頭ではっきり表明することから始めたいものです。
*1 「企業のカスハラ対策に遅れ、未対策が7割超 「カスハラ被害」で従業員の「休職・退職」13.5%の企業で発生」東京商工リサーチ
*2 「佐川急便がトラックの名札廃止 SNS拡散の恐れ、女性ドライバーから不安の声」産経新聞
*3 「名札」を変えた「ローソン」、その反応は? カスハラおそれて本名を知られたくない傾向に…名札が大事な理由とは」Yahoo!ニュース
清水 沙矢香(しみず・さやか)
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアや経済誌に寄稿中。
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